第196話 居留守

 だが、 の配置が対称になっているからといって、いったい何が分かると言うのだろう 

 そう思って、再度植え込みを てみると、なるほど、庭園の木々たちは余すところなく綺麗に刈り まれていて、花壇の花々は、その咲き具合まで、左右で等しくなってい 

 まあ、自動で草木を りそろえたり、水やりをしてくれる便利な道具が、勝手に手入れをしていると言うのなら話は なのだが。そうでない限り、毎日のように気遣っていないと、この綺麗な庭を ち続けることは出来ないだろう。

 というわけで、ルーツは庭園の手入れ状態から、 なくとも二、三日前までは、此処に人が住んでいたことを突き める。

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 けれども、 もなお、家の中で住人が暮らし続けているかどうかという問題は、目に入ってくる情報だけではどうしても読み解けず、横を見てたずねようとすると、いったい何を えているのか。ユリは鉄門を手で押して、既に中に入ってしまっていた。

 もちろん事前に、この館の主に許可を っているはずもなく、住人が不在でないなら尚更なおさらに、それは衛兵を呼ばれかねない行為だったのだが。呆気あっけに取られているルーツを残して、ユリは悪びれる様子もなく、ずんずんと私有地に入って ってしまう。

「ほら、グズグズしてないで、さっさと くわよ」

 遠くから げかけてくるような言葉で我に返ると、もう既に、ユリは庭を抜け、焦げ茶色のお屋敷の正面に位置する階段を っているところで。

 目の前の門が閉まり切ってしまわないうちに、ルーツは仕方なくすべみ、誰にも見られていないことを祈りながら、抜き足差し足で後を ったのだった。

 とはいえ、この規模のお屋敷になってくれば、 かれざる来訪者が敷地内に足を踏み入れた瞬間に、どこかに通報が行く仕掛けがほどこされていてもおかしくないのだ 

 予想に して、屋敷の住人が、肩を怒らせて飛んでくることは無く、誰の視線も感じないままに、玄関までたどり けてしまったことで、ルーツは逆に、この屋敷に人が るのか、また心配になってくる。

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 少なくとも、屋敷の か、鉄門の前で、客人を応対するように言われている使用人が欠勤していることは間違いないだろう。その証拠に、両開きの玄関の は、軽くノックをしたくらいでは、中に音が わりそうにないほど、見るからに分厚い構造になっていて。また、呼び鈴のような もどこにも付いていなかった。

 しかし、この の玄関が特別仕立てになっていることを知ってか知らずか。ユリは何度もトントンと、手の甲で、目の前の扉を いていて――。

「すいませーん。 かいませんかあ? ちょっとトイレをお借りしたいんですけど」

  び伸びとした大声で、そんなことを言い始めたユリを見て、ルーツは思わず首をすくめ、辺りを警戒しながらビクついた。だが、ルーツがこうしておびえている最中にも、ユリは分厚い玄関越しに、架空の事情を え続けている。

「私の連れが、急にお腹をこわしてしまって困っているんです。……用が済んだらすぐに出て行きますので、どうか此処ここを開けてはもらえませんかあ」

 そう言うと、少女はルーツの耳に顔を せ、アンタもお腹を押さえるふりくらいしなさいよと小声でささやいてきたのだが。

 ひょっとすると、ユリは相手の親切心に け込んで、一度扉を開けてもらったが最後、自分たちの要求が るまで、ずっと居座るつもりでいるのだろうか。

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「……ねえ。どういうつもりか知らないけれど、相手をだまして上がり込むのはさすがにまずいよ。こんなのどう考えても、犯罪まがいの手口 じゃんか」

 なんだか先行きが心配になってきて、ルーツがこうささやかえすと、ユリは困ったような表情を ちながら、また顔を近づけてくる。

「……大丈夫。どうせ相手は居留守いるすを使って、外に出てきやしないんだから。それにもし、これで誰かが出てくるようなら、素直にトイレを してもらって、サヨナラすればいいだけでしょ ?」

 と われても、それだと、移動手段を手に入れられないうちに、屋敷を立ち去る羽目になってしまうような がするのだが。

 まったくもって理解できないと、ルーツが首をかしげていると、ユリは三度みたび顔を寄せてきて、今すぐに上がり込むことなんて誰も えていないわよ、と面倒くさそうに ってく 

「……もしかして、なんか勘違いしてるんじゃない?  は、今のところ、この屋敷に住んでいるのが本当に目的 の人物なのかどうか、ちゃんと確認してるだけなんだけど。……まあ正直、万が にも間違いはないんだけどね。要件を伝えてから、やっぱり人違いでした、なんてことになるのが いから、念には念を入れてる 

 しかし、トイレの をしただけで、その答えが得られるものなのだろうか。そう思ってたずねると、ユリは続けた。

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 するに、差し迫った用事であることを、分かってもらうことが大切なのよ。だから、別にトイレの話じゃなくても、困り切っていることをアピールできれば わないんだけど……。とにかく、いくらここ数年で、世知せちがらい世の中になってきたとは言っても、こうして自宅の真ん前で、子どもが尿意と戦っている姿 を目にしたら、未だに何か一言くらい、声を掛けてくれる大人も いでしょう? 

 まあ、王都のような広い は、人のつながりが薄いから、例え相手が どもでも、用心されちゃうのかもしれないけれど。それでも普通は、見ず らずの他人が玄関の前でずっと叫び続けていたら、うるさいとか、 う家のを使えとか、衛兵に言いつけるぞとか。何かしらの反応を してくるものじゃない? それなのに、先ほどから、何も ってこないということ ――」

「家に誰も ないってことなんじゃないの?」

 ルーツがそう言いながら、腕を組むと、ユリはあきれたような仕草を見せる。

「まあ、アンタがそう うならそうなんじゃないの? 私は、なにか人前には出てこられないような事情を えているんじゃないかって考えたんだけど」

 そんな言葉を きながら、ルーツは難しい顔をして、他人に顔を見せられない事情とは何なのだろうと、 え込んでいたのだった。

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