第194話 肩入れ出来ない理由

 すると、女性は二人の に、もう一歩踏み出してきて。

「……どうですか? 貴方たちも、 と一緒に、半獣人を追い出す活動に参加してみませ ?」

 親切そうな みを浮かべながらそう言うと、まるで握手を求めているように、右手をルーツに差し べてくる。

 当然ながら、それはあくまでも し出で、断る権利はルーツたちに会ったはずなのだが。周囲の白ずくめたちは、二人が仲間入りを たすことを期待しているようで、女性の手を取らなければ敵対者だとみなされる れもあった。

 ただ、ルーツはユリに確認を ることもなく首を振り、気持ちを表面に出さないように用心しながら、心の で、女性のことを嫌悪する。

 もちろん、独断で勝手な行動を れば、ユリの計画に支障を来たすかもしれないと、ルーツはちゃんと かってはいたのだが。

 これほどまでに き勝手なことをまくし立てられて、にこやかな笑顔で応じられるほど、ルーツは優れた自制心を ち合わせはいなかった。

 だが、意外なことに、それはユリも じであったようで。

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「ねえ。あなたの を聞いていて思ったんだけど、……ちょっと半獣人たちに罪をかぶせすぎなんじゃない? もし、本当に、半獣人が権力に根回しできるほどの を得ていて、少数で巨万の を支配しているというのなら、それを許してしまっている、大多数の人間たちは無能 だってことになっちゃうんだけど」

 不満が積もりに もっていたのか。どう考えても友好的とは思えない口調でそう言うと、ユリは腕を組み、女性の方をにらむように見る。

「あなたの論理 だと、半獣人たちは見下すべき劣等民族なんでしょう? だったら、いろんな組織が半獣人に っ取られてしまっているなんて、実におかしな話じゃない! …… の見解だと、優秀な半獣人たちはほんの一握り。皆がみんな、悪質な金貸しを んで、人々から金をせしめているわけでもないと思うから、放っておいても わないんじゃないかしら」

 そんなユリの持論を きながら、しばらく女性は考え込んでいたのだが、やがて、大きなため息をつくと、苦々しい顔で言葉を する。

「どうやら、何か勘違かんちがいをさせてしまったようですね。……確かに、王都の人々の中には、半獣人を馬鹿にしている たちも多いようですが、私は半獣人が我々人間よりおとっているなどと言ったつもりはありませんよ。むしろ私は人一倍、彼らを狡猾こうかつで団結心を持っている民族だと認めて、その上で警戒を っているのです」

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 それは、少し意外な い草で、二人は一瞬、困惑してしまったのだが、どうやら女性は、半獣人たちのことを優秀だと っているわけではないらしい。

「彼らは決して、我々人間よりひいでた民族ではありません。ですが、ただ一点。人をだまし、利己的に生きる才に関しては、私たちよりずっと優れているのです。よく言えば、商魂しょうこんたくましい。悪く言えば、悪を悪とも思わない。誰かを騙しても、良心の呵責かしゃくすら覚えない人々とでも呼べばいいのでしょうか。……それはそうと、貴方の い分を聞いていると、まるで半獣人たちを擁護ようごしているように聞こえるのですが、まさかケダモノたちの肩を持っているわけではありませんよ 

 不満を じさせる声で、探るようにそう言われ、ルーツは危険を感じてユリを見る。ただ、ユリはあくまでも、こともなげな態度を保っていて。

「あなたたちが私について、どう おうが勝手だけど、私はただ単純に、自分の目で見て確かめた物しか信じる になれないだけだから」

 どちらにも肩入れ出来ない理由を淡々と べると、白ずくめたちの鋭い眼差しに委縮いしゅくすることも無く、女性に向かって手を し伸べた。

 いわね。……でも、世の中のことをもっとよく知って、自分だけで冷静な判断が出来るようになるまでは、私はどこの集団に するつもりもないの。まあ、双方の言い分を聞いて、それでもあなたたちの主張が っていると えるようなことがあれば、気変わりすることもあるかもしれないから、期待しないで っていて」

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 ぶっきらぼうなそんな言葉で、勧誘を られてしまった女の人は、仕方がありませんねと言いたげに軽く笑みを かべると、ユリの手を握り返し、握手をする。

 それから、今後も観光を けるつもりなのでしたら、少しだけ忠告をさせてくださいと、丁寧な口調で申し てきた。

「前にもった通り、私は貴方たちがどこで誰と会っていようと、とがめるつもりはありませんが……、出来れば王都に るうちは、半獣人だけには近づかないでください。……もちろんこれは、命令ではなくお いです。ですが、先日の大量殺人事件に半獣人が関与 していたことは、もう正式な発表の元、事実と認定されていますし、その計画を首謀しゅぼうしていた人々が、北方の村に住んでいることも、もう調 べがついているのです。……宿屋に閉じこもっていた貴方たちは らないかもしれませんが、この街では数日間の間に、先日の事件を、半獣人全体が蜂起ほうきする計画の始まりに過ぎないと考える人たちが多数派をめるようになり、既に王国はその村に軍隊を派遣することを決定しました。そんな で、半獣人たちと会っている姿を見られたら、どんな目を向けられるかは かるでしょう?」

 本当にルーツたちを心配しているような態度でそう うと、そろそろ見回りを再開しなければならないからと理由をつけて、女性は軽く会釈えしゃくをした。

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「それでは、 たちはこのあたりで失礼しますが……くれぐれも気を付けてくださいね。もしかすると、まだこの りのどこかに一人くらい、半獣人が隠れ住んでいるかもしれませんか 

 そう いながら、同胞団どうほうだんの所在地が書かれたメモをユリに手渡すと、女性は白ずくめたちを引き連れて、来た道を っていく。

 その姿が建物に隠れ、完全に えなくなるまで、二人は何も喋らず、その場で見送ったのだっ 

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