第193話 奴らに報いを

「もちろん私たちは、惨劇さんげきが起こった当初から、この事件の犯人が半獣人であると、 に見抜いていたのですが……」

 そう言うと、女性は何もかもが腹にえかねたように声を上ずらせ。指を噛みながら、衛兵たちの捜査に、どこかから圧力 がかかった可能性を指摘する。

「事件の痕跡こんせきは十分すぎるほど残っていたというのに、どういうわけか、犯人像はなかなか かび上がってきませんでした。上層部の命令と法律に手足をしばられた衛兵たちは、事件の協力者とにらんだ人物を片っ端から取っ捕まえては、自白させるばっかりで、肝心かんじんの実行犯の捜査の方は、からっきし。その態度があまりにも露骨ろこつなので、私たちは、半獣人どもが裏から根回ししていることを ってしまったものです」

 だが、女性はどうにも半獣人たちが、この王都で らしていることを前提として話をしているようなので。きらわれているはずの半獣人がこんな街中で生きていけるものなのだろうかと、ルーツは疑問に思い、たずねてみる。すると、女性はついに しい仮面をかなぐり捨て、半獣人たちへの敵意をあらわにしたのだっ 

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「ええ、もちろん。貴方たちが今居るこの通りにも、はじらずにも堂々と大きな邸宅ていたくを構えていましたよ。 は善悪の友による、とはよく言ったものですが、数日前までこの りは、半獣人たちの、もしくはその協力者たちの巣窟そうくつになっていたのです。……まあ、その方々は、この前の『不幸』な火事で焼け され、いずれも行方が知れないみたいなのですが。それにしても、ケダモノどもの思想 に感化される人間がいるなんて、 には理解しかねます」

 しかし、それは らかに、私が放火魔です。と、自白しているような口ぶりで。

「それはそうと、最初に貴方たちを にした時、染み付いたようなケダモノのにおいが漂ってきたような がしたのですが……。どこかで最近、半獣人たちに会ったりしませんでした ?」

 そんな言葉とともに、一瞬、 り付くような眼差しを向けられてしまったルーツとユリは、二人そろって否定 する。

 すると女性は、不意にこちらに近寄ってきて、 にかかった髪の毛をかき上げるような仕草を見せると、ルーツの匂いをすんすんといだ。

「……まあ、この いは十日以上前の物みたいですし、今回の事件とは、関係がないようです 

 どういう をしているのかは知らないが、おそらく女性は、ルーツの身体に染みついた、村長やハバスをはじめとした村人たちの いに反応しているのだろう。

 それにしても、少し匂いを いだだけで、半獣人たちと接触した日付まで言い当ててしまうなんて。ルーツは目の の女の人が、心底恐ろしいものに見え始めていた。

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 ともあれ、ルーツたちの疑いが れたところで、女性はまた、間髪かんぱつ入れずに、半獣人たちを非難し めて。

 っていましたか? 半獣人たちは、私たちのような善良な人間を、だまし、あざむき、おとしいれ、その犠牲の上に、自分たちだけ、裕福な暮らしを んでいるのです」

 もっともらしくそう る、女性の言葉を聞いていると、ルーツはなんだか体調が、だんだん くなってくる。

 だが、この話を聞いて、その りだと賛同する者がいるからこそ、同胞団どうほうだんは存在していられるのだろ 

「最初は善人の りをして、人々に歩み寄っては金を貸し、その金が払えないと見るや、借金の として、何もかもを持って行ってしまう。そんな、卑劣ひれつきわまりないケダモノの手に掛かり、今まで、生活に困窮こんきゅうした者たちや、身寄りのない どもたち。それ以外にも多くの人々が、明るい未来を われてきました。……ですから、半獣人たちに近寄ってはなりません。 しかけてもいけません。彼らは、人々から巻き上げた金を、賄賂わいろとして高官に差し出し、代わりに非合法な商売を認めてもらうとともに、この美しい国を内部からくさらせているのです!」

 そう言いながら拳を固く りしめているところを見るに、既に女性は、過激かげきな言葉を並べ続ける自分にってしまっているようで。

 後ろの白ずくめたちがしきりにうなずいている様子を視界に れながら、人間たちと半獣人たちの間の問題が、予想以上に根深かったことを、ルーツは 、再確認する。

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 を守る――つまり今、私たちが行うべきことは、この国から、いや、この世界から、半獣人どもを永久に追放することなのです。…… かに、まだ時期尚早じきしょうそうなのかもしれません。相手の出方をうかがった がいいのかもしれません。ですが、襲撃しゅうげき事件といい、この頃の行いといい、もうこれ以上、ケダモノどもの陰謀いんぼうを野放しにしてはおけません。……考えてみれば、今までが すぎたくらいなのです。これまでだって我々人間は、ずっと我慢がまんを強いられてきました。ケダモノどもに、 い金の見返りとして特権が与えられるそのかたわらで、弱き同胞どうほうは見捨てられてきたのです! それに、幾年にもわたり いている不作も、横行する犯罪も、国の疲弊ひへいも、全ての原因は半獣人。……半獣人さえ い出すことができれば、何もかもが綺麗に解決するのです。さあ、 さん。今こそ、私たち一人ひとりが立ち上がり、奴らに いを受けさせましょ !」

 女性がそう い切ると、後ろの集団は気合が入った声をあげ、演説を終えた、自らの指導者を出迎 えた。

 喋りすぎて れてしまったのか、女性はなんだかぐったりしていたが、それでも周囲の団員たちに、その笑顔を振る いている。

 そして りから聞こえてくるのは、割れんばかりの拍手の音と、女性をめそやす白ずくめたちの 

 そんな中でルーツとユリは、この雰囲気にまれてしまわないように、互いの身体を寄せ合って、ただじっと無言で っていたのだった。

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