第192話 参加するところから始めてみては

「でも、歴史はそこまで深くないかもしれませんが、同胞団どうほうだんはそこらのあやしげな団体ではないんですよ? きちんと王国 の文化省から正式な認可はもらっていますし、この五十年、 たちの活動が問題視されたことはないんで 

 そんなふうに、女性 はまるで入団説明でもしているような丁寧な口調で、まずは活動の安全性について、 に熱心に話してくれた。

 とは言っても、ルーツは から話に興味がなかったし、女性の説明があまりにも長かったので、その内容についてはあまりよく えてはいない。

 ルーツが唯一、ちゃんと印象に っているのは、ユリに構成員の数を聞かれた際の、女性の真摯しんしな返答で。

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同胞団どうほうだんの規模ですか? 前に言った通り、ここのところ、加入者が爆発的に増えているので、正確な団員数は かりかねるのですが……。少なくとも、この王都では、住民の二割弱が たちと意思をともにしてくれています。もちろん、その中には、日々の生活にいそがしく、巡回活動に参加できない方もいらっしゃるのですが、 らもまた たちの大切な同胞の一人です。……このように、同胞団は規律ある生活を要求し、人の行動をしばるような厳格な宗教団体ではありませんので、まずは貴方 たちも、参加するところから始めてみてはどうです ?」

 そう言いながら、 という数字を強調するように、胸の前で二本指を立てた女性を見て、ルーツは同胞団の規模の大きさに驚愕きょうがくする羽目になった。

 すると、無数の白ずくめの集団が、街を徘徊はいかいしている様子でも思い浮かべてしまったのか、ユリは少し声をふるわせて。

「それじゃあ聞くけど、その趣味の いローブみたいな服を着ている人たちが、他にもいっぱい、王都中をうろうろしているってこ ?」

 そんなふうに、少女に、辛辣しんらつな口調でたずねられてしまった女の人は、なんだか複雑な表情で、その言い はいただけませんね。と、苦言をていすることにな 

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 だが、白ずくめたちが着ているローブの評判は、どうやら仲間内でも、あまりよろしくないよう 

「確かに、団体名を変えたのを機に、服装も一新いっしんした方が、いいかもしれませんね。見れば分かると思いますが、このゆったりとした礼服は、 き回ることには向いていませんし、なにより同胞団どうほうだんの正装は、夏でも冬でもこれ一つなので。……あとで私の方からも、通気性の い、着心地に優れたデザインを考えるようにと、本部に提案しておきましょ 

 そう言うと、女性は額ににじんだ汗をぬぐい、耐えられないと言わんばかりに、しきりに胸元 をパタつかせた。

 しかし、本当に厳格な規律がないのなら、とっとと服を いでしまえばいい話だと思うのだが、皆が皆一様に、暑苦しい恰好かっこうをしたままへたばっている以上、女性がどう言おうと同胞団は、 しげな宗教団体にしか見えないのである。

 まあ、後ろの集団の人たちが、 しんでこの活動に参加しているのなら、とやかく言うつもりはないのだが。きっと には、こうやって街を練り歩くのも修行の一環のうち、などという適当な言葉で い出され、冷たい飲み物でも恋しがりながら、ずっと暑さを我慢している人も るのだろう。

 そう えると、ルーツはなんだか白ずくめの人たちが可哀そうに思えてきて、 んだ目をしたローブ姿の人々を、ただじっと眺めていたのだっ 

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 すると女の人が、不意に話の矛先ほこさきを変えてきたので、ルーツはまたいくらかの発言を聞き飛ばしてしまったのだ 

「私たちは、誰の手も りることなく、この王都という大都市に、人間だけの楽園を築き上げることを目指 しているのです」

 なにやら不穏ふおんな雰囲気を漂わせている女性の言葉を、ルーツなりに解釈かいしゃくしたところによると、どうやら ずくめの集団は、自分たちの力だけで、王都に平和を築くことを目標に げているらしい。

 しかし、辺境の村々に んでいるならともかくも、王都のような大都市で日々を送っているならば、憲兵隊をはじめとした正式な治安部隊が、 の安全を守ってくれそうなものなのだ ……。

 どうして同胞団の人々は、わざわざ市民が団結して くことに有用性を感じているのだろう 

 そう思い、ルーツが適当にたずねると、女性はにわかに真剣な顔つきになって、今の不甲斐ふがいない衛兵たちには、この街の治安を任せておくことが出来ないのです。と、息をはずませながら断言し 。そして、こちらに り掛けるような仕草を見せると、さらに直接的な話を続けてく 

「貴方たちも、いくら宿屋にこもりがちになっていたとは言え、さすがに先日、この街で起こった大量殺人事件のことは聞き んでいるでしょう? 何と言っても、現役の兵士たちが惨殺ざんさつされ、おまけに建物にも多くの被害が出たこの惨事は、色んなところで、大きく り上げられていましたから」

―――――――――077 ―――――――――

 それは明らかに、ルーツたちが関わった事件の概要がいようで、二人は思わずいきむ。しかし女性は、ルーツたちが顔色を えたことには全く注意がいっていないようで、まるで熱に浮かされてしまったかのように、弁舌べんぜつを振るい続けていたのだっ 

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