第191話 ケダモノ狩り

「ねえ。その団体って、本当に が知られているの? 私が会った人たちは、誰も白ずくめの集団の なんて、口にしてはいなかったんだけど」

 ユリがそう うと、女は急に難しい顔になって、同胞団どうほうだんを知らないなんて……。と、不満げにつぶやくと、ため をついた。

 その様子を て、ルーツは一瞬、ここは知っているふりをして、適当に話を合わせておいた方が かったのではないか、とも思ったのだが、落ち着いてよく考えてみれば、わざわざそんな危ない橋を る必要はどこにもない。

 自分 の常識は他人の非常識。なんて、言葉があるくらいなのだから、たかが特定の集団の名前に つ聞き覚えが無かったところで、何かが分かるわけがないだろ 

 というわけで、ルーツはユリに追随ついずいして、聞いたことがないと言ったのだが。どういうわけだか、目の前の の人は、誰しもが自分たちの姿を知っているはずだという確証を持っていたらしく、首を げると、口を開いた。

「…… ですね。私たちはここ最近、幾つかの班に人員を分け、こうやって王都全域を巡回じゅんかいすることを日課にしていたはずなんですけど。それなのに、一度もこの姿を にしたことがないとなると……、ひょっとして、ずっとどこかに、 きこもってでもいたんですか? それとも、 たちですら巡回しないような、ほとんど光の当たらない がりで、なにか人には言えないようなことにでも わっていたのでしょうか。……まあ、同胞がどこで何をしでかしていたとしても、私は別にとがめるつもりはないのですが、出来ればここ数日、どこにいたのかを してもらえませんか? その次第によっては、毎日の巡回ルートを改善することができるかもしれませんの 

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 だがそれは、ルーツたちの素性を見抜いているようで、肝心かんじんなところが抜け落ちているような。そして、貴方 たちの行動にはあまり興味がないとでも言いたげな、なんとも謎めいた言い で。

 ともかく、その口ぶりから するに、女性は二人の言動をかなり疑っているようなので、どう対処すればいいのだろうと、不安になりながらユリを ると、ユリはあらかじめだいたいの返答の予測がついていたのか。自信 ありげな横顔で、女性にこう言い す。

「見て回るコースを変える必要はないと うわよ。だって、私たちは、さっき貴方が指摘した通り、観光に ているにもかかわらず、宿屋の中に閉じこもりがちになっていたんだから。それも、どこぞの かさんが初日から張り切り過ぎて、体調が悪くなり、寝込んじゃっていたせいで。……まあ、 は何度か外に出ていたんだけど、必要最低限の買い物をしたらすぐに部屋に っていたし。それで、不運にも、今まで白ずくめの人たちに くわすことがなかったってわけなのね。……でも、フィオラって ったかしら? 貴方って本当にすごいのね。今日初めて ったはずのこちらの事情を、まるでどこかで にしていたみたいに、何でも見抜いてしまうんだから。これなら、あやしげな団体に潜入して、その内情を探り てるような立派な探偵には、私たちよりあなたの方が、ずっと いているんじゃない?」

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 その口調に、なんだか し、挑戦めいたものが混じっているように感じたのは、きっとルーツの のせいだったのだろう。

 ユリの言葉を聞いた女性は、しばらく何かをよどんでいるようだったのだが、やがて、肩を落として後ろを くと、また白ずくめたちと、何やらごにょごにょ話し  

 そのすきに、ルーツはユリに、先の言葉の意図をたずねようとしたのだが、少年のもくろみは、突然聞こえてきた甲高い声に がれた。

「こんな い子どもたちが、害獣どもの手先であるわけがないじゃない!」

 集団の中からあがったそんな に、ルーツたちがビクリと震えると、女性は苦笑いを浮かべながら振り返り、ごめんなさいね、と ってくる。

「…… に、だますつもりでいたわけではないのですが、実は同胞団という名前になったのは、ついこの間の なんです。というのも、先日起こったとある事件のおかげで……いや、せいで、団員が爆発的に えまして。それでこれを機に、改名することになったので。本当はこの名前を らなくても無理はないのかと」

 そう うと女性は、もしかしてあなた方はこちらの名前の方になら興味を示してくれるかもしれませんね、と いながら、以前の名称を口に出す。

「七日前まで たちの団体名はこうでした。半獣人及び、辺境の害獣を追放する会。通称、ケダモノ りの会」

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 それでもルーツは き覚えがなかったのだが、おそらくこの女性は、半獣人という単語の に反応することを期待しているのだろう。そう思い、ルーツはつとめて素知そしらぬふりをし 

 すると、女性はこちらが めてもいないのに、団体の活動内容について嬉々ききとした様子で してくれる。

 正直、二人はボロが出る に、この場から早く立ち去りたくてうずうずしてきていたのだが。かと って、後ろを向いて、すたこらさっさと逃げ出すわけにもいかないので、仕方なく、女性の りを聞くことにしたのだった。

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