第190話 同胞団

「それじゃあ貴方たちは、本当に、此処ここの通りをたまたま訪れただけの観光客の方。……というわけなんです 

 そう言うと、女性は を期待していたのか。なんだか張り合いがなくなってしまったような気の抜けた表情で、何度も深々とため をついた。

 そして、残念そうにこちらを見ると、随分ずいぶんと未練がましく首を振りつつ、何やら になる言葉をつぶやいてく 

「まあ……、でも、それもそうですよね。 えば、あの方々が、これほどまでに堂々と、街中を けるわけがありませんし。……だけど、変ですね。私のかんは、これでも結構、よく当たる なんですけど」

 そこで、ルーツが気になって、事の次第をたずねてみると。まずは自分の顔を鏡で見てから、人にモノを えという話なのだが、この ずくめの不審者たちは、挙動不審に動き回るルーツたちの姿を見て、のところ、辺り一帯を荒らしまわっている、空き巣狙いの常習犯を発見したと い込んでいたらしかっ 

 しかし、単なる思い みの段階で、いちいち素性を疑われていては、こっちもたまったものではない。そう って、二人がそろって抗議に出ると、女性は反論するように口を く。

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「確かに、いきなり不躾ぶしつけな態度を取ってしまったことは、悪かったと思っています。……ですけど、貴方たちの方にも はあるんですよ?

 事件のあった家々の りを、まるで何かを探し求めているように、巡り巡っているその姿は、どう見ても良からぬことをたくらんでいるやからのようにしか見えませんでしたし、そもそも、事件の関係者でもないのなら、勝手に現場に ち入ることは じられているはずでしょう? ……まったく、見かけたのが私だったから かったものの、衛兵の方に見つかっていたら、怒られるだけでは まなかったんですよ? 聞いたところによると、まだ、出火の原因も詳しくは かっていないみたいですし」

 そんなふうに、 なる好奇心に由来する行動を一から十まで見咎みとがめられて、ネチネチと女性に色々問いただされていると、二人 はどうにもバツが悪くなってきて、今度はしきりに ることしか出来なかったのだが。説教をされている最中に、ルーツは不意に、ユリがこの火事の原因を っていたことを思い出し、そのことを目の前の女性に向かって してみる。

 すると、ユリがすぐさまルーツの右足を みつけてきて、ルーツはそれで、言わなくても良いことまで口にしてしまっていたことに づいたのだが。

 その時にはもう く、女性は両目を糸のように細めると、まるでなにかを探るような表情で、ユリのことを注意深く観察 していたのだった。

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「……放火ですか。それはまた、なんとも物騒ぶっそうな話ですね」

 そう われ、これはあくまでも素人の想像だから、とユリは弁明していたのだが、物騒だと ったのなら、その時点で通りを離れればよかったのに、と後ろにいる白ずくめたちは、ぶつぶつ文句をつぶやいている。

 すると女性はにわかに ろを振り返り、そのうちの一人の耳をまるでしかりつけているかのように引っ張って、何やらこそこそ言葉を わすと、作ったような笑顔を浮かべて、ふたたび二人の を見た。

「あんまり にしないでくださいね。どうやら、私の後ろに居る者たちは、人が話をしているというのに、日課のお喋りが められないだけのようですので。……でも、それにしても、現場を少し ただけで、そんな可能性に気づいてしまうなんて。 たところ、貴方たちはまだ十歳そこそこでしょうに、まるで大人が どもの皮を被っているような、年不相応の れた観察眼を持ち合わせているんですね。……うらやましいです。ひょっとすると、将来的には、二人で探偵稼業でも む気で居るのでしょうか。それとも既に、火事で焼け出された人々にやとわれていて、こっそり現場を調査しにやってきたところで私たちに くわした……なんてことは、ありませんよ ?」

 その言葉で、ルーツはこの女性が、何やら の疑いを二人に掛けていることに気づいたのだが。それを知ってか らずか、ユリがキョトンとしていると、女性は胸の前で手を振って、冗談ですから、と言って った。

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 しかし、この通りに執着しゅうちゃくしている女性の様子を見ていると、ルーツは後ろの白ずくめたちの詳しい素性が、ますます にかかってくる。

 人を見かけだけで判断することが くない事だとは分かっているのだが、どう見てもこの人たちは、街を守る奉仕団体のようには えないし。

 もしかするとこの たち自身が放火魔で、自分たちの犯罪をあばかれないようにするために、こうして辺りを巡回して、 りを入れようとする者の口をふさいでいるのではなかろうか。と、ルーツが妄想もうそうふくらませていると、女性はようやく自分が素性を名乗っていないことに が付いたようで、さらりと自分の名を べた。

「ああ、申し遅れました。私は同胞団どうほうだんのフィオラ、と言う者です。これからもしばらく王都に滞在する予定 なら、ぜひ、お見知りおきを。……ですが、私の名前は らずとも、この街を観光していたのなら、同胞団の名前 くらいは、既に何度か小耳にはさんでいるでしょ ?」

 が、自信満々な口調でそんなことを われても、ルーツはまったく、同胞団という名前に聞き覚えが かったのだが。

 ひょっとするとこのフィオラという の人は、ルーツたちがただの観光客ではないことをもう既に見越しており、あえて実在しない名称をかたってみせることによって、二人の反応を確かめようとしているのではなかろう 

 と、ルーツが過剰かじょうに相手のことを疑って、何も言葉を返せずに居ると、ユリはそのそばから正直に、まったく聞いたことが いんだけど。と、スパッと本音をぶちまけてくれたのだっ 

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