第187話 これからお友達になるのよ


 路地から、光の当たる りに戻ったあとは、商店街を抜け、役所の前を通り過ぎ、ルーツとユリはただひたすらに目的地に向かって いて行った。

 とは言っても、二人は決して先を いでいたわけではない。

 お昼時が づいてくるにつれ、朝晩の冷え込みが嘘のように強くなってくる日差しと、雲一つない い天気。こんなお散歩日和の空の下で、あわただしく振舞う にはどうしてもなれず、二人は例えば歩いている最中に、街の中を流れていく綺麗きれいな川を目にした時には、ちょっぴりその場に立ち止まって、キラキラと輝いている美しい水面みなもに目を落としてみたりもしたのだっ 

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 また、そちらの には、ルーツはあまり興味をそそられなかったのだが。常日頃から生き急いでいるように見える王都の人たちにもちゃんといこいの場所はあるようで。人工的に造ったのか、それともそこだけ開発をけたのかは定かではないが。二人は何区画かごとに ずある野原のようなスペースで、穏やかな時を過ごしている たちをたびたび かけた。

 その年齢層は、若者 から老人までさまざまで、なかには親子連れの者もいる。だが、よく見れば、そのいずれもが、庶民しょみんには手が かないような高そうな洋服を着込んでいて、ああここはやっぱり王都だったのだ、 ルーツは再確認させられ 

 そうこうしていると、二人はいつの間にか閑静かんせいな住宅街の中に居て、ユリはとある通りの曲がり でパタリとその足を止める。

 どうしたの、とたずねると、ユリはいつの間にか色々記号が書かれた紙きれを持っていて、それをじーっと めながら、何やらひとりで悩んでいた。

此処ここがこの通りだから、そっちがあの通りで……アレ? 確か、このあたりだったはずなんだけ ……」

 あまり、 ってしまったとは思いたくないのだが、どうやらその口ぶりから察するに、この紙きれは目的地までの道のりが かれた地図のようである。

 しかし、王都 では機密を保護するため、地図は売られていなかったのでは……? そう思ってよく ると、やっぱりこの地図は、ユリが手書きをした物だった。

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「でも、こんな地図、いつ ったの? シャーロットさんにもらったとか?」

 疑問に思い、そう言うと、ユリはルーツが昏睡こんすい状態にあった時に、一度この辺りを れていたことを白状する。

 それを聞き、てっきりユリが きっきりで看病してくれていたと思っていたルーツは、ちょっぴり残念な気持 ちになったのだが。

「そう らないでよ。……仕方ないでしょう? 情報を集めるためにも、外には定期的に行かなきゃいけなかったんだから。別に、アンタをっぽって、そこらを観光 していたわけじゃないって 

 ユリの指摘もその通りだし、そもそも ずに五日も続けて看病することなんて、普通に考えれば不可能だろうと い直し、ルーツは改めて地図を覗き見た。

 すると、ユリは『サンクリン り』と書かれた場所を指差して、そこから近くにあるバツ印のところまで、 で地図をなぞっていく。

 その動作で、いま二人が る場所と目的地の場所はルーツにも大体わかったのだが、いったいそこに けばどうなると言うのだろうか?

 ひょっとして知り合いでも住んでいるのか、とたずねると、これからお友達になるのよ、とユリはうそぶいて、また き出す。

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「でも、言葉遣いには注意してね。 かってはいると思うけど、この先にあるのは裕福な人のお屋敷ばかりだし……、場合によるけど、もしかしたら から会う人は、几帳面きちょうめんな気難しがり屋さんかもしれないから」

 何気ない口調で、ユリはそんなことを うのだが、そもそもそんな金持ちの持ち家に、見ず知らずのルーツたちが上がり込むことなんて されるのだろうか。

 なんだか、要件を えるより先に、使用人らしき人物の手によって、敷地内からつまみ出される未来が目に える。

 そういえば、二人が今朝けさまで過ごしていた場所も、実はとある金持ちの別邸べっていだったらしいのだが。今から く先の建物は、それよりはるかに大きいと聞いて、ルーツは少し くなった。

「だけど、おかしいわね……。前にここまで来た時は、もう少し西の方に、けむりが上がっていた気がするんだけど。 はちゃんと合っているし……もしかしたら、あれは野焼きか かだったのかしら」

 相変わらず、ユリはそんなことを いながら、どんどん先に進んでいくのだが、これほどまでに家屋が密集した市街地で、枯れ草なんて けるわけがないだろう。

 それに、そもそも、 の原因がなんであったとしても、時が経てば変わってしまうものを目印にしてしまうなんて、あまりユリらしからぬ行動 である。

 そう思って、ルーツがいろいろ口をはさむと、ユリはしばらく考え込んで、だって再び訪れることになるとは思わなかったんだもの、とぶつぶつ った。

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「それにねえ…… った場所を全て記憶していられるような、並外れて物覚えのいい人なら話は別だけど。その は、まさかアンタに説得されて、一緒に村に戻ることになるとは思ってなかったんだから、詳細な街並みまで えているわけないでしょう? それに、その後、ちょっと衝撃的な光景を ちゃったから、そっちに意識が っていかれちゃっ ……」

 そこまで言うと、ユリは急にその の記憶を思い出したようで、ハッとしたように顔を上げると、あたりをキョロキョロと見渡し めた。

此処ここよ、ここ。この通り。ここを曲がった先に、問題の屋敷があるの!」

 興奮したようにそう うと、ユリはひとりで駆け出して行ってしまうので、ルーツはあわてて後を追う。

 そして、二人で を曲がると――、そこには異様な光景が広がってい 

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