第183話 似た物同士

「ねえ……、ユリって、本当 は何歳なの?」

 ためらいがちにそう くと、ユリは一瞬ぽかんとした顔になって、それからルーツをまじまじと見返してくる。 も喋らず、ただただ此方をじっと見てくるそのさまに、ルーツはなんだか無言の圧力を じた気がしたのだが、このまま素直に引き下がってしまうと、どうにも になって眠れなくなってしまいそうだったので、意を して、そのまま けた。

「だって……、 から飛び出した時に、シャーロットさんに手渡した記憶が十一年分。そして、それから、もう十一年の月日が っているんでしょ? だったら、普通に考えたら、二つ わせて二十二年。つまり、ユリは少なくとも二十二歳以上だってことになっちゃうんだけ 

 しかし、 にそうだとするならば、どうしてユリは、ルーツとあまり変わらないような年恰好としかっこうをしているのだろう。ひょっとして成長しきってその きさなのか、とたずねると、失礼ね、とユリは怒鳴っ 

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「……まあ、小さい頃から夜更よふかしばっかりしていたし、食生活にもあんまり気を っていなかったから、背が びない要因には、いろいろ心当たりがあるけれど。それでもさすがに、こんなにちんちくりんのまま、成長が まっちゃうわけないでしょう? だから、きっとまだ、成長期が ていないだけなのよ。……うん、絶対そう」

 なんだか、自分に言い かせているだけのようにも聞こえるのだが、ユリが言うのだからきっとそうなのだろ 。それはともかく、年齢のことを今一度、少女にしつこく追及すると、ユリは意外に 、自分がルーツの二倍近くは生きていることを、ケロッとした ですんなり認めた。

「でも、十一年前に、城でシャルと別れてから、森でアンタにひろわれるまでの思い出が、未だにほとんど い出せないせいなのかもしれないけれど、どうもそんなに長いこと、生きてきた がしないのよね。……それに、背丈だけならまだ分からなくもないけれど、骨とか、 つきとか、声域とか。どう考えても、未発達な部分がまだまだたくさんあるみたいだし。……これだと 、立派な大人になってから、ようやく思春期を えていることになっちゃうんだけ 

 そういうことならきっと多分、悪魔と人間では成長の度合いが うのだろうと、ルーツは答えを見つけた でいたのだが、どうやらユリは、あまり納得してはいないようだっ 

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「私も最初はそう思ったんだけど、記憶の で見た文書には、悪魔の寿命は九十年そこそこって、そう かれていたのよね。九十年って考えると、確かにちょっとばかりは人間よりも長生 きなのかもしれないけれど、二倍も三倍も、平均寿命に差があるわけではないでしょう? それなら、二十を ぎても身体がまだ不完全っていうのは、おかしな だと思うんだけど。……それに、私がシャルと初めて った時、シャルはまだ十八歳で……なのに、あんなに きかったし!」

 いったい何がそんなに しいのかは知らないが、自分の身体を眺めては、ため息をつくユリを見ていると、ルーツはなんだか し訳ないような気分になってくる。

 しかし、ルーツがいままで勝手に いていたイメージからすると、悪魔は神様にでもやっつけられてしまわない限り、 いることも死ぬこともない、限りなく万能に い存在のはずだったのだが……。おとぎ や神話の中で、神々の宿敵として かれている悪魔たちが、まさか自分たちと同じく老いて くなる生き物だったなんて、そんなことがあり るのだろうか。そう思ってたずねると、ユリはこくりとうなずい 

「ええ。そこらへんはシャルに いて、私も詳しく知っているんだけど、なんでもシャルの知る限り、百五十年以上も きている悪魔はたった一人しかいないみたい。それも、本人がそう自称じしょうしているだけで、ちゃんとした出生の記録がどこにも っていないみたいだから、本当にそこまでご高齢なのかあやしいもんなんだって。……まあ、なかにはちっとも外見が わらないせいで、不老不死だと われている人もいるらしいけど。何も無いところからお金を産み出した、とか。空を んでいく妖精を見た、とか。そんなたぐいのほら話は、いつの時代も存在するものだから、信ぴょう性はまず りなくゼロに しいわね」

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 それなら悪魔と自分たちとでは、いったい何が っているのだろう。そう思い、ルーツが小声でつぶやくと、ユリはにわかに を細め、アンタはどこが違っていると思うの? と、真面目な顔つきで聞き してくる。

「アンタを抜きにして えれば、人は多少の違いはあれど、みんな等しく魔法を使うことができるんでしょう? だったら、この世界に きる人類は、二足歩行で魔法が使える、優れた知能を持った生き だって、そう解釈してしまっても大丈夫そうね。そして、魔獣 をたった一言で言い表すには、魔法が使える図体の大きな 、という言葉がよく似合う。違いはいろいろあるけれど、そのほとんどが四足歩行で、身体の きさに見合うだけの強い力を振るうことが出来る。おもだった、人との相違点はこのくらいかしらね。そして悪魔は、人の形をとった さな魔獣。魔獣なんだけれど二足歩行で、そして魔法に でている。寿命は人とさほど わらず、見た目もそれほど わない。……分かった? たった一点、魔法にほんの少しばかり適性の があることを除いては、本来、悪魔と人類は似た物同士のはずなの 

 それならば、どうしてユリたちには、悪魔などという、物々ものものしい呼称こしょうがつけられているのだろう。そうたずねると、ユリは肩をすくめて、困った様子を見せ 

「さあ? 私も好きでそう ばれているわけじゃないんだから、いきなりそんな事を言われても かりかねるけど……。でも、まあ、世の中には、種族が細かく分かれていた方が、 をする人たちがいるんじゃないの? わざわざ対立する構図を り上げて、どうしたいのかは知らないけれど、 えば、ほら。半獣人と人間だって、本質的にはほとんど わらないはずなのに、種族の名前が違うっていうだけで、互いをきらっているみたいじゃない」

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 確かにユリの う通り、一見とても複雑そうに見える種族間の対立は、そんなひどく馬鹿らしい、とても単純 な理由がもとになっているのかもしれない。そう思い、ルーツが何度もうなずくと、ユリは話を元に した。

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