第10話 最終決戦
「どうして兄さんはアンタの味方になった! どうしてアンタは兄さんを撃った!?」
ぶつかり合う二機の瓜二つのシルエット。片方は虹色で、もう片方は黄金。
『何故だと? 元々ヤツは私の配下だった! そして使えない駒は捨てるに限る! それだけの事よ!』
「ふっざけるなぁぁぁぁぁ!!」
虹の剣を両手に構えた二刀流で斬りかかる。対する黄金は素手でそれに相手をする。受け止め、受け流し、反撃の一撃を見舞う。
だが虹も負けてはいない、両方の剣を合わせ巨大な両手剣を作り出す。それにより繰り出された一撃は黄金に傷を付けてみせた。
ノートとカデンツァ。一進一退の攻防。どちらも譲ることはない。
「あなたはここで何をしている!?」
『はっ! いい質問だ模造品! ここは時空変異の中心、こここそが。時空変異を操る全ての中枢なのだよ!』
「なっ……!?」
『そして、それを操る事が出来るのは生まれもって時空変異を引き起こす異能を持った私だけという事だ!』
それじゃまるっきりゲームに出てくる魔王のようではないか。全ての元凶。それが彼女だというのなら、兄の仇のついでに世界を救うのも悪くない。
「はあああああああぁぁぁぁぁ!!」
虹色の球体。特大の時空変異。それを引き起こしてぶつけようというのだ。
『ならばこちらもそうさせてもらおう!』
黄金の球体、極大の時空変異。互いに最大の攻撃をぶつけようとしている。
球体がぶつかり合う。辺りの時空が歪んでいく。時空の嵐が巻き起こる。だが微動だにしない二機。レインボーノートは再び二刀流で斬りかかる。今度はカデンツァも同じように二刀流で受け止める。剣戟が始まる。時空変異によって作られた刃は音も無く弾き合う。鍔迫り合いになる。超至近距離。そこでレインボーノートは小さな時空変異を引き起こす。
「これでどうだ!」
小さな時空変異はそれでも確かにカデンツァの装甲を削り取ってみせた。
『ここまでやるとはな!』
剣を弾き距離を取るカデンツァ、レインボーノートは追撃の姿勢を取る。
『お前はなんのために戦っている!』
嬉しそうな声、戦いを楽しんでいる。ルストラは尋常な精神の持ち主ではなかった。
「兄さんの仇討ち、それで十分!」
『はっ! 下らん!』
斬り結ぶ二機、すれ違いざま互いに小さな時空変異をぶつけ装甲を削り取っていく。
「あなたこそ! なんで私と戦うの!?」
『無論! 私のクローン、つまり私自身と戦うという経験を得るため! それで充分!』
「っこの戦闘狂!」
虹の剣を砲塔へと変化させる、放たれるは虹の奔流、カデンツァは黄金の時空変異を自らの身に纏いそれを防御する。しかし、その一瞬の隙を逃さない。
レインボーノートはワームホールを形成、一瞬でカデンツァの懐に潜り込んだ。二刀にて斬り付ける。躱す事も防御も間に合わなかったカデンツァはその装甲を深くえぐり取られる。
さらに続けざまに連撃、時空変異で相手の腕を捻り切る。さらに虹のマントを翻して一気にもう片方の腕も削り落とした。
『馬鹿な……私が模造品に負ける!?』
「模造品模造品うるさいのよ! 私にはメルカって名前があるんだからぁ!」
最後の一閃、二刀を一振りの両手剣へと変えて、カデンツァを袈裟斬りにした。
『ふっ、はははははは!! 見事だ! 模造品! 世界をくれてやる! 好きに苦しむがいいさ!』
爆散するカデンツァ、その火を眺めるメルカに感慨は無かった。ただ虚無感に包まれていた。
「これからどうすればいいんだろ……ねぇ兄さん」
レゾナンスの残骸に近づく、すると――
「メルカ……よくやったな……」
撃ち抜かれたはずの機体からボルロットが抜けだしているではないか!?
「兄さん! 生きてたのね!」
「生かされた……んだろうなルストラに」
彼女も彼女なりに兄を思っていたという事だろうか。
死んでしまった今では確認は出来ない。
「兄さん、私、時空変異を抑えたい。私なら出来るんでしょ?」
「それがお前の選択する運命か……ならば止めはしない。浮遊区画の中枢へと向かうぞ」
浮遊区画中枢。そこには巨大な心臓のようなモノがどくんどくんと脈をうっていた。
「これが時空変異の原因!?」
「ああ、ルストラから摘出した時空腫瘍を摘出し培養したモノだ」
「時空腫瘍?」
「お前にもある、時空変異を引き起こす突然変異によって出来た器官だ」
「えっ、こんなのが私の中に……」
「さあ、これを破壊するんだ。そうすれば時空変異は収まる」
「それだけで……? ルストラはなんでこんなものを抱えていたの?」
「世界に対する権力を手に入れられる。理由としてはそれだけで十分だろう……」
ルストラ・バートも普通の人間だったという事だろうか。権力に溺れた普通の人間。
メルカはノートに戻した機体でビームハープを取り出し斬撃を飛ばした。それで時空腫瘍は切り裂かれ肉塊と化した。
「これで終わり?」
「ああ終わりだ」
「あっけない……」
その後、兄をノートに乗せ浮遊区画を脱出する。時空変異が無くなった世界で浮遊区画はその存在を維持出来なくなったのだ。外に出ると同じように地面へと落ちていくディヴェルティメントの姿が見えた。
「みんな大丈夫!?」
『よくやったジョーカー! まさか時空変異を止めちまうとはな!』
『メルちんならやってくれると思ってたよ! ディヴェルティメントは落ちちゃうけど私達は大丈夫だから心配しないで!』
「よかった……」
「お前にも仲間が出来たんだな……」
「……兄さんにとってもファンタジアの人達は仲間だったの?」
「昔の話さ」
完全に地面に墜落したディヴェルティメントにて合流する。メルカに抱き着くアル。メルカはそれを恥ずかしそうに受け入れる。
これで時空変異を巡る戦いに一幕の決着が付いた。
これからの世界どうなっていくのかは彼女達彼ら次第だ。
時空調律システム・オルフェウス 亜未田久志 @abky-6102
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