見えないゴリラ
駒山キリ
見えないゴリラ
うっほうっほ
どこからか鳴き声が聞こえる。これは……ゴリラだ。まず間違いない。
しかしおかしなこともあるものだ。わたしが通ってきた道筋を考えるとおそらくここは地獄。地獄にゴリラとはこれいかに……
そして鳴き声は聞こえど姿は見えず……
うっほうっほ
血の池地獄でも。
うっほうっほ
針山地獄でも。
うっほうっほ
気になりすぎて地獄の苦しみを味わう余裕すらもなくなってしまった。ゴリラよ、どこにいるのだ……
やさしく語りかけてくるような鳴き声。どこか、懐かしい響きのようにも感じる。わたしは―――ひょっとしてどこかで君に会っていたのだろうか。
その後の地獄めぐりは、ゴリラの加護(?)によって、それほどの苦痛もなく順調に回っていった。周りに聞こえるであろう阿鼻叫喚も遠く、すぐそばで起こっている出来事のようには思えなかった。
しかし募る思いは、私の心を少しだけ締め付けた。
ゴリラよゴリラ。なぜささやく。
惨めなわたしを憐れんで、やさしく語りかけてくるのか……
ゴリラのことを考えながら地獄を行く。わたしのことを守ってくれているのだろうか。
ひとつ、浮かんだ言葉がある。
地獄に仏という言葉があるけれど、わたしにはゴリラでした。
おしまい
見えないゴリラ 駒山キリ @KomayamaKiri
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