時のない教会
駒山キリ
時のない教会
わたしの耳に彼女の指が触れる。
目をつぶるわたしはその時を待つ。
耳元に彼女のささやきが聞こえた。聞き取れない異国のような言葉を認識して、わたしは一つの風景を浮かべる。それは遠い昔のようで、遠い未来のようで、ただわたしが感じたのは"なつかしさ"だった。
原初の森のような、荒廃した都市を自然が覆い隠すような。
この教会にはわたしと彼女の二人しかいない。
周りには音は聞こえず、静寂がわたしたちを包んでいた。
彼女の言うことには、この儀式で失った大切なものが取り戻されるらしい。
彼女の言葉が終わり、唇に感触が伝わった。
目を開くと彼女の感触はなくなり、姿は見えなくなっていた。
小さく呼吸をすると、彼女の残り香はなくなり、わたしは"なぜここに一人でいるのか"という疑問が生まれた。
外から遠く、喧騒が聞こえる。
教会から出ると、わたしは自分の家に帰るために、体が覚えている道を歩いていく。
ふと、風が頬を撫でた。耳に風が触れる。
振り返ると、教会の扉は重く閉ざされていた。
おしまい。
時のない教会 駒山キリ @KomayamaKiri
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