氷壊






薄く張られた氷

ふとした拍子に壊れて

埋め立てられていたかつての感情が

じわじわと溢れ出し


飲まれまいと

切れ味の悪い切先で

斬りつけた喉元から漏れ出したのは

埋め立てたはずのかつての言葉だった




心を眠らせれば楽になると

思い込んでその通りに生きてきた


心が煮えたぎり爛れては凍える

そんな悪夢に飲まれるようなことは

減ったように思えるが

だからといって

染みついたシミが薄くなることはなく

埋没させた感情や言葉も消えることはなく

美しいなにかになれるわけでもない


眠らせたと思い込んで

その実ずっと煮えたまま

爛れたまま

凍えたまま


何も変わらぬまま

何も変われぬまま




心が爛れた僕に

人と生きるという行為は

果たして可能なのだろうか


心が凍えた僕に

君を愛するという好意こころ

果たして許されるのだろうか




おとなしく降る雨よ

いつまでも消えない爛れて凍えた感情

僕には似つかわしくないこの言葉こころ

どうかやさしく

泡のように全て消してください
















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