ジレンマ

嗚呼何故...なぜあなたはなのか。


「坊っちゃま、もう中へお入り下さい。」


何故貴方は体が弱いのか。


「いいんだ。もう少し居させてくれ。」


何故貴方はそんなにも強いのか。


「雪が綺麗だな...。」


貴方の方が余程綺麗なのに。


「山は寒いのだろうね...。」


ええ、でも貴方の声を聴いて暖かくなりました。

そう、言えれば良かったのに。


「もう指が赤くなってきた...。」


何故私の爪と牙はこんなに鋭いのか。


「一面の雪化粧を楽しんだ代償かな。」


何故私の体はこんなにも青白く冷たいのか。


「この景色を見れるのも、あと少しか...。」


嗚呼何故________


「今年の春は迎えられるだろうか...。」


貴方は老いてしまうのか。


「旦那様、もう中へお入りになって下さい!」


艶やかな黒髪は殆ど白髪に変わり、赤みがさしていた頬には皺がいくつも刻まれた。


「いや、もう少し居させてくれ。」


でも私は変わらず鋭い爪と牙に青白い肌と二本の角。


「もう!こんな時間まで外に出てると、鬼が来て喰べられてしまいますよ!」



何故、

何故貴方は人で、私は醜い鬼なのか。


この爪では触れることも叶わない。この肌では貴方を凍えさせてしまう。こんな角では貴方を怖がらせてしまう。


「鬼?はは、大丈夫だよ。だって____」




私は、貴方と話すことすら、できない。


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この想いを 雨水 @amamizu415

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