第4話
心の中で、私はみんなを探した。
よろこび、やすらぎ、かなしみ、怒り。
たくさんの思いのどこかには必ずみんながいると信じて。
でも、見渡す限り、どこにもみんなはいなかった。
みんなをさがして、私は歩き回った。
それなのに、人っ子一人私は見つけられなかった。
特別な感情を探した。
そこでも私は誰一人見つけられなかった。
私の心の中のどこにも、みんなはいなかった。
それで、私は気づいてしまった。
私の心の中で、みんなはどんな場所も占めてはいないのだということに。
私はみんなのことを、なんとも思っていないのだということに。
あれほど近くにいて、特別な存在だと思っていたはずなのに、それなのに、
私にとってみんなは結局のところ、ただの人でしかなかったんだということに。
私の心の中で、強くて冷たい風が吹いた。
私は思わず身を震わせた。
*
駅へと通じる道を、私は無心にあるいていた。
何とはなしに上を見上げると、もう空は夜だった。
その夜を彩るように、星がまたたいていた。
ふと、星の輝きと距離を想った。
夜空に燦然と輝く星は、とても近くにみえるけど、
私とかれらの間の距離は、まっすぐ伸ばした私の手の何千倍も、何万倍も長い。
私は悟った。
私にとって、みんなは星なんだ。
きらきらとして、遠い。そんな星。
どんなに近くに見えたとしても、やっぱり星は星のまま。
私がこの手を伸ばしても、みんなに届くことはない。
声をかぎりに呼んだとしても、決して届くことはない。
天を飛んで行こうにも、私にそんな羽はない。
どれだけがんばっても近づくことができない星は、きれいだけど、
ただそこにあるだけのものでしかない。
それに特別な思いなんて抱いていなかった。
だから、私は地上からみんなを見上げていた。
ただ見上げているだけだった。
でも、それなのに私は、ずっと見上げているうちに
それがただの星なんだということを、忘れてしまったんだ。
忘れてしまうとみんなが近くみえるようになって、
みんなが近くにみえはじめると、みんながなんとなく
特別にみえる気がしてきて。
そうして、本当はみんなに対して私はなんの思いも抱いていないんだってことを、
忘れてしまったんだ。
夜行 Randolph Holmes @Randolph_Holmes
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