「構うな・・・」

低迷アクション

第1話

「あ、まただ。またいるよ、あの女!」


友人Sの体験だ。彼が学生時代、4人の友人と電車旅行をした。その帰り道の事である。

素っ頓狂な声を上げ、窓を指さしているのはSの友人のCだ。窓際に座った彼は

眼鏡をかけ直したり、自身のレンズを覗き込んでは、首を傾げ、

興奮した様子で騒いでいる。


「さっきから何言ってるんだよ?お前…」


Cと向かい側に座るTが自身の隣のSに目配せしながら、渋々声をかけた。


「何って、見えないのか?お前等?もう3回目だ。

岡谷にもいた。上諏訪にも、今は茅野だ。やっべぇな、絶対…全部おんなじ奴だよ。」


彼の話によると、電車の車窓風景に、こちらを指さす“女”が写るそうだ。

容姿は白のワンピースに黒の長髪。長い髪のせいで、顔は見えないが、それは田んぼの畦道、道路の端、民家の庭とあらゆる場所に全て同じ格好、同じ姿勢で立っているらしい。


勿論、S達には何も見えない。だが、元々この手の話が好きなCだ。こちらが

何も見えない事を伝えても、気にする様子もなく、窓を見つめながら、

喋り続ける。


「すっげぇな。次の駅を出たら4回目だ。あれは絶対、幽霊、いや、それとも

妖怪?とにかくすっげぇな!ハハッ!」


「もう構うな…」


興奮するCを静かに窘めたのは彼の隣に座るBだ。仲間内では一番の無口で

温厚な男だ。しかし、今日は珍しく、その顔に不快をハッキリと表している。


「何でだよ?B、これ絶対、テレビとかネットでやってる怪談だぜ?マジすげーよ。

次は写真を撮ってやる。そしたら、絶対、お前等も信じる。てか、お前、そーゆうの

得意系?」


「知らねぇよ…ただ、何度も同じ事が続くのは、普通に考えて絶対よくない。

だからあまり構うな。そうじゃないと女に気づかれるぞ?」


「ハッ…まぁ、いいや。了解、わーった、わーったよ!」


不機嫌そうなBの声に、帳尻を合わせるような返事をしたCは再び窓を見つめ直す。

何となく車内には重苦しい雰囲気が漂い、SもTも黙っていた。


やがて電車が次の駅で停車し、再び走り出す。Cがスマホを出して撮影準備を始める。

呆れたSが声をかけようとした時…


「あっ…うぇっ」


と言う不気味な声が響き、声の主のCが、窓からこちらに振り返った。

Cのかけた眼鏡の左右のレンズを繋ぐ、鼻にかかる部分が

中心から真っ二つに折れている。


「目が合った、目が合った…」


と震えながら、呟くCの隣でBが吐き捨てるように呟いた。


「だから、言っただろうが…」…(終)


 

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「構うな・・・」 低迷アクション @0516001a

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