第3話「そこに、忘れていた青春を」

「ねえ、深也。高校楽しい?」


「いや、別に。中学と対して変わんねーよ」


 俺が高一になってから約一ヶ月たったが、結梨は度々この質問をしてくる。


 読んでいる漫画や小説に影響され青春というものがしたいらしい。

 部屋から一歩も出ないのに何が青春か。そう言えば、今度は部屋の中で青春するなどとのたまう。

 そんな、無茶な。


「第一に何を持って青春したと言えるんだ?」


「そりゃ友達と遊んだりとかいろいろあるじゃん。あとはその……恋とかそういうの、してみたりとか?」


 恋って……やはり結梨もそういうのに興味あるのか。恋に関心があるのは嬉しいが、それはつまり、俺以外の男に意識がいってしまうという事だろう。

 それが気に食わないので、俺は鼻で笑いこの話をさっさと終わらせようとする。


「部屋から出ないのに男との出会いなんてないだろ」


 しかし、気が急いだせいか、最後にポツリと言った結梨の言葉を聞き逃してしまった。


「出会いならここにあるもん」


「え?すまん、なんだって?」


 慌てて聞き返すが、二度目のチャンスは無いようで頰膨らませそっぽを向いてしまう。


「なんでもないですよーだ」


 何やらご機嫌斜めになってしまった。怒っている姿も可愛いが、いつまでもこの調子は困る。

 今日の俺の目的は二人の距離感の再確認だ。最近どうにも調子が狂うことが多かったからな。


 しかし、このままじゃ話もろくに聞いてくれなそうだ。

 仕方ないので俺は今日準備していた秘密兵器をポケットから取り出す。


「結梨、ほらこれ」


 俺があるアプリを立ち上げてスマホを結梨に見せると、ジト目になりながらも興味を惹かれたのかこちらへ寄ってくる。


「武器少女!?昨日リリースしたばかりの!?」


「ああ、始めたのは今日だけどな」


 以前からリリース日が楽しみだとはしゃいでいたので、俺も始めることにしたのだ。

 いつも俺が誘われて後からプレイするので、二人一緒スタートを切ったのは何気に初めての事である。


 スマホの画面を見る結梨の目はいきいきしていて、こちらも嬉しい気分になる。


「どうだ?俺のガチャ運は。まだ最初の10連しか回してないけど」


「星五キャラがまた三人!?どんな豪運してるの!?戦艦少女の時といいおかしくない!?」


 結梨が目見開き、俺のスマホを画面を食い入るように見ている。驚愕のあまりスマホを持つ手がちょっと震えていた。


 自分でも分かっていたが、俺は相当運が良かったらしい。リセマラ10回もせずにこの結果が出たから、もとから排出率が高いのかと思ってしまった。


「というかストーリーの進行度早過ぎない? 本当に今日から始めたの?」


「本当だぞ。朝から初めて、授業中ずっとポチポチ進めてたら、このくらいいった」


 Wikiも読んで、ずっと最高効率で回していたのでこれくらいは当然だろう。序盤はレベルアップでスタミナが回復するからずっと回してられたしな。

 おかげで休む暇がなかったから、ちょっと目がしょぼしょぼする。


「授業中!?大丈夫なの?? も、もしかして私が知らないだけで高校はスマホが使い放題?」


「なわけあるか、あほ。隠れてやってたに決まってんだろ」


「あほは深也だよ!見つかって怒られても知らないよ!?」


 頰を膨らませ、怒ってます!とアピールする。


 子どもか!可愛いがすぎるだろうが!


「ほら、このキャラなんてあとちょっとでスキルMAXだぞ」


「深也って、もしかして私より廃人気質なんじゃない?」


 そんなことをワイワイ言い合っているうちに、先ほどまでの気まずい雰囲気は無くなっていた。



「ねえ、久しぶりにテレビゲームでもしようよ」


「別にいいけど、メリオカートくらいしかなくないか?」


 俺は基本的に友達を家に呼ぶなんてことは無かった。孤立していたとかではなく、親が仕事で家にいないから呼べないというだけの話。


 だからと言ってはなんだが、家にあるゲームといえばソロプレイのもとばかりだ。こんな事ならパーティーゲームでも買っておけば良かったと思う。


「うん、それでいいよ。できるものなら何でも」


 二人でという部分を妙に強調して言う結梨に一瞬ドキリとする。

 いやきっと深い意味などないのだろう。この状況であれば、二人用以上のゲームなら良いとそう捉えるのが普通だ。決して俺と二人で、という意味ではない。

 あぶねーっ!勘違いしそうになったわ!


「ん?なんで固まってるの?」


 気づくと目の前に結梨の顔が迫っていた。俺が気持ちのお散歩をさせている間に、顔を覗き込むため身を乗り出して来たらしい。


「うおっ!?」


 自分の口から変な音が漏れる。

 なにも顔が近かったからというだけでない。それくらいなら普段から多発しているから慣れたものだ。

 あれ?それはそれでだめじゃね??まあ、今はいいか。


 それよりも前のめりに覗き込まれたことによって、俺の眼下に二つのマッターホルンが!!重力に逆らえずフルフル震えてます!!


 パジャマを着崩しているので肌色の面積かなり広い。本気で目がつぶれそうだったので全力で逸らし、メリオカートのもとへ這って行く。


 ん?重力に逆らえず?

 あれ、まさかあいつノーブ――


「ねえ、深夜。今何を見てたのかな?」


 振り返ると結梨が満面笑みを浮かべていた。

 俺が土下座をした回数と結梨の胸を見た回数は、もしかたら同じなのかもしれない。






「はい深夜、ここ座っていいよ」


 結梨からこの部屋にある唯一の座椅子を譲られた。

 本人はベットの上にいるのでそこからプレイするつもりなのだろう。

 昔と違い無線で自由度が高くなったことに文明の進化を感じるな。まあ、世代的に優先のコントローラーを使っていたのなんて幼少期くらいなんだけど。


 そんなくだらないことを考えていたせいだろうか。俺は自分の目の前まで結梨が迫っていたことに気が付かなかった。


「よ、よいしょ」


「!?」


 胡坐をかいて座っていた俺に、恐る恐ると体重をかけ座ってくる。

 そう、まるで恋人がするようなあれだ。

 背中を預け最終的に俺の胸元へすっぽりと収まる。


 驚きすぎて一言も発せられなかった。


「こ、これは青春だから///!お試しだから///!」


「あ、ああ」


 顔を真っ赤にしながら必死に言葉を紡ぐ結梨に、こちらも何とか返事を返す。

 これはシャンプーの匂いか?なんかすっごい良い匂いがするんだけど。

 顔の目の前にで揺れる髪の毛に鼻孔をくすぐられる。


「えっと、それじゃあ始めるぞ」


 あくまでポーカーフェイスを保ちつつ、さっさとゲームを始めるためコントローラーを操作する。こういうのはゲームに早く逃げたほうが良い。


 しかしコントローラーを操作するとなると、当然場所は結梨のお腹の前あたりになるわけで。


「んっ///」




 聞こえないふり!聞こえないふり!聞こえないふり!聞こえないふり!

 というかなんでそんなけしからん声が出るんですかね!!


 鋼の意思で操作してようやく1レース目を始める。


「よっし!赤甲羅3連!」


「ちょっと深夜!それはずるい!!」


 ゲームが始まってしまえば煩悩なんてなんのその。無事1位を獲得し王冠を被ることに成功した。


「次!次は絶対負けないから!」


 負けず嫌いの結梨に促され、続けてレースを進めていく。

 勝率は8割近くまでいったか?


「もう!深夜強すぎ!」


「このゲームは昔よく遊んでたからな」


 普段別ゲーで弄ばれるのでここらへんで勝利数を稼いでおこう。


「じゃあ、次から妨害ありで!」


「え」


 次のレースが始まるというところで、唐突にそんなことを言われた。

 結梨のわきの下を通していた腕を、ガッチリホールドされて動けなくなる。

 しかも挙句の果てにコントローラーを叩き落された。


「それはさすがにずるくね!?」


 このままでは拾えないと慌てて腕を引き抜こうとする。

 っく!こいつ結構ガチの力で挟んでやがる!


「ええい!離せ!卑怯者!」






 先に言い訳をさせてほしい。この時の俺たちは浮かれていたんだ。



「せいっ!」


 俺の気合一閃、腕を思いっきり引き抜くとフヨンッというやわらかい感触が腕に伝わる。


 フヨンッ?なんかデジャブを感じ――


「ひゃっ!」


 結梨の悲鳴が間近で聞こえる。耳を真っ赤にしながら振り向いた結梨が涙目でこちらを見ていた。


 え。え??


「な、なんでノーブ――」


「違うからーーーっ!!!」


 そのまま叫んで部屋を出ていく結梨。

 思考が追い付かないまま、俺はその場に一人残される。


「ど、どういうこと!?」











 勢いよく部屋を飛び出した私は、部屋の扉に背中を預ける。

 深也を閉じ込めるかたちになるけど、今はちょうどいい。


「うー、触らせるつもりまではなかったのに......」


 逆に言うと見せるつもりはあったということになってしまうが。


「だって意識して欲しかったしー///」


 一人でに漏れる言葉には、制御できずに自分の願望がのってしまう。


 今だ熱を引かないこの顔は鏡を見るまでもない。きっと相当だらしない顔になってしまっているだろう。


「もうちょっとだけ。もうちょっとだけここにいよう」


 廊下のひんやりとした冷気がやけに気持ちよかった。

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可愛い巨乳幼馴染が引きこもったのは俺の部屋だった!? 琴乃葉 ことは @kotonohakotoha

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