第2話 幼馴染は無理やり服を買う

「じゃあ、服買いにいこーう!」

「正気か……」


 そこそこ量があったパフェをぺろりと平らげると、由希は俺の腕を引っ張って歩いていく。

 この方向は……ショッピングモールか……。


「なっ……なぁ、俺は本当に女装する気なんて無いんだぞ!」

「わかってるってっ」

「いやわかってないだろ……」

「ちょっと!?逆になんでそんなに嫌がるの?」

「だって女装だぞ!?普通の男はしないことだから!俺パフェ奢ったし帰るぞ、アイスはまた明日――」


 そう言いながら腕を払って家に帰ろうとした途端、再び腕を掴まれる。


「ちょっ……しつこい――」

「お母さんに言うよ?」

「は……?」

「悠佳のお母さんに、あなたの息子さんは女装が趣味の変態ですって言っちゃうよ?」

「か……、勝手に言えばいいだろ?母さんだって流石にそれは信じないと思うぞ?」

「どうでしょうね?悠佳のお母さん、私の事全面的に信用してくれてるから」

「うっ……確かに……」

「それにー、部屋に女装物のえっち本があるって知ったら、ちょっとは信憑性増すんじゃないかなー?」

「ひ……卑怯だぞ!」

「卑怯じゃないよ?普段の行いの差だよ?」


 由希は勝ち誇ったドヤ顔でこちらを見下すようにしている。


「わ、わかった服をとりあえず見るだけだぞ!買いはしないからな!」

「うんうん。わかったわかった、じゃあ素直に買いに行こうね?」


 噛み合わない会話をしつつ、俺は仕方なく由希についてショッピングセンターに行くことになってしまった。



 =======================================



「うーん、どれがいいかなぁ」

「俺が服を選ぶんじゃなくて、お前が服を選ぶんだな」

「そうだよ?悠佳じゃ女の子の服がどんなのがあるか殆どわからないでしょ?」

「いやまぁそうだけど」

「それとも何?自分で選びたかった……?」

「……っ!?なわけっ!」

「だよね?まぁまぁ待ってなって、私の好み……じゃなくて、悠佳に似合う服、選んであげるからさ」

「へいへい」


 男が女性用の服屋に入っていると浮くかと思ったが、案外カップルできている客も多くて浮いてるというよりかは……俺たちも周りから見ればカップルに思われてんのかな。なんて……、

 まあ、誰も由希が本当は女好きで、俺には微塵も興味が無いなんてわかりもしないだろうけど。

 てか……初めて、女性用の服をまじまじと見たけど、すごいな。色々と。

 男が着ている服……って言っても、俺が普段来ている服がシンプルな物ばっかなせいもあるかもしれないけど。凄い凝ってるって感じがする。


「おーいっ、これどうかな?」


 なんて考えていると、由希に呼ばれたのでそっちの方向に行ってみる。


「どれどれって……え?」

「可愛くない?」

「マジ?」

「マジマジ」


 由希が見せてきたのは、膝上ぐらい長さのベージュ色のフレアスカートと、オフショルダーの薄水色のブラウスだった。


「いやまてまて!なぜスカート!そしてなぜそんなに丈が短い!?」

「だってスカートの方が可愛いでしょ?」

「そして何故肩を出さなきゃないんだ!?」

「その方がエッチでしょ!?」

「そんな興奮した表情で俺に女の子としてのエロさを求めるな!」

「エロいイコール可愛いでしょ!?」

「そもそも女であるお前の可愛いの認識はそれでいいのか!?」

「あたりまえです!」

「いいのかよ……」


 俺が由希にまともな思考を求めたのが馬鹿だったと反省した。


「てか、スカート以外にも店内に可愛い服いっぱいあるじゃん……他でいいじゃん……。」

「だってこれが悠佳に一番似合いそうだし」

「似合う似合わないの問題じゃない……」

「まあまあ、来てみれば案外着心地良いかもよ……?」

「……良くてたまるかっ、っておい、レジに行こうとするな!俺、そもそも買う金ないからな!」

「だいじょーぶ、私が悠佳のために買ってあげるからさー!」

「その金あるならさっきのパフェも自腹で払えよ……」

「それは昨日の情報提供の分でしょ?」

「いや……まぁ、そうだけどさぁ……」

「私も、あれ話すの結構恥ずかしかったんだから!十分な対価ですぅー!」


 そう言って由希はレジに服を持っていき購入してしまった。


「はいこれ!」


 店を出ると、服が入った袋を押し付けるように渡される。


「いや、ちょっと待て!漫画を親に見られるより、この服を持ってるのがバレる方がまずいんじゃ……?」

「大丈夫大丈夫!私の服とか言えばいいでしょ?」

「そうか……っていや!お前の服が俺の部屋にあることも問題だろ!」

「聞かれたら口実は合わせておくからさ」

「……何ていう気だ?」

「え?恥じらいつつ、悠佳君に無理やり脱がされました…って」

「なるほど……っておいっ!?」

「冗談だって、まあでも隠すなりして持っときなよ」

「えー……」


 強引に渡され断ることもできずに、その袋を受け取る。


「えっと後は……化粧は私の使えばいいし……ウィッグは通販で買ったし……」


 なんて独り言を言いながら俺の少し前を歩く由希の背中を見ながら、俺はため息をついた。

 なぜ自腹を切ってまで俺を女装させようとしてくるのか、その意図が分からない。


「さて、お目当ての服も買ったことだし、悠佳の部屋行こうよ?」

「は?も……もう女装するのか!?」

「ちーがーう!単純に私が寝たいの!」

「眠いのかよ!?って、なら自分の家で良くないか?」

「私の家ここからだと悠佳の家より少し遠いじゃん……」

「微々たる差だわ!」

「いいから!家までもたない!」

「あー分かった!分かった!ほら、家帰るぞ!」

「りょうかーい!」


 そう言って二人並んで歩く。


 カップルには……みえないよな。俺が一番それをよくわかってる。



 =======================================



「はー!今日ずっと眠かったー!おやすみ!」


 そう言いながら由希はベットに倒れ込むようにして既に寝る体制に入る。


「眠くてあのテンションかよ?」

「眠いからこその……ハイテンションなのぉ……」

「てか、お前なんでそんな眠いんだ?テスト前とかならまだしも」

「……昨日の夜……悠佳に女装させたくて色々調べてたの。朝まで……」

「朝までって」

「……だからぁ、今日ほとんど……寝てなぃ」

「そこまでするか!?」

「…………ぅん……」


 ……こいつ、いつもは睡眠不足はお肌の大敵!とか言って遅くても日付が変わる前には寝るくせに。


「なぁ、由希がそこまでして俺を女装させたい理由はなんだ?――って」


 由希の方を見ると、気持ちよさそうな表情をして静かに吐息を立てていた。


「……寝たのかよ」


 思春期の男の部屋でこんな無防備になるのは、どうかと思うけどなぁ。

 まあ、俺も今こいつに悪戯をしようだなんて微塵にも思わないが……。

 いや嘘、少しは思うけど行動には移さない。ヘタレだなと自分でも思う。


 はぁ……でもまあ、ここまでされたら流石にもう断りにくいよな。


 するしかないか……女装。









  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

可愛い幼馴染は”可愛い”俺と百合がしたいらしい 葵蕉 @Applehat

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ