第35話 See you again(別れ)

僕と山田、ニャンは、支配人へ案内され、シェムリアップ国際空港までの送迎車へ向かった。


時刻は、18時を少し過ぎたところだった。あたりも徐々に陽が沈んでいき夕間暮れの時間帯も終わりに近づいていた。陽が沈むのは、本当にあっという間だった。


その景色がさらに僕たちの旅情にメランコリックさを増幅させた。


本当に人の出会いというのは、偶然で、出会いは別れの始まりといったものだ。ニャンとあのパブストリートのレストランバーで知り合ったときには、別れの始まりだったということだ。あの時は僕と山田は、こんなにも親しくなれるとは思ってもいなかった。人の縁というものは本当に不思議としか言いようがない。


支配人「酒井様、山田様、送迎の車が来ました。ガイドのヤンさんも一緒ですよ。」


僕「わかりました。山田君、じゃ、車にのりましょうか。ニャン君も同乗で大丈夫でしょうか。」


支配人「ガイドとドライバーには伝えてありますので、大丈夫です。」


僕「よかったです。」


山田「なんだか数日しか滞在していないのに、なんだかとても寂しいですよね。後ろ髪をひかれる感じですよ。」


支配人「そういっていただけて、私どもはうれしい限りです。皆様に素敵な思い出ができてよかったです。またのお越しをお待ちしております。酒井様、山田様、お気をつけて日本へおかえりください。」


僕「いろいろとお世話になりました。」


山田「本当にお世話になりました。」


ニャン「さぁ、酒井さん、山田君、車へ乗りましょう。」


ヤン「酒井さん、山田さん、お車へお乗りください。荷物はこちらのものだけで大丈夫ですか。忘れ物がないようにしてください。」


山田「了解です。」


僕「こちらの荷物だけで大丈夫です。」


ニャン「それではシェムリアップ国際空港へ向かいましょうか。」


ヤン「ニャン君も酒井様と山田様と一緒に後ろのシートへ座ってください。それでは行きましょう。」


僕と山田は本当に寂しい感情であった。カンボジアへの渡航前には、アンコール・ワット遺跡に満足しているだけだと思っていた。


ところが、実際、シェムリアップでの人の出会いでは、ニャン、ホテルの支配人、ホテルのボーイ、ガイドのヤンさん ドライバーといった人たちとの出会い。こんなにも素晴らしい経験ができたのだから、それは名残惜しくなるのも当たり前であった。あっ、そうそう同じホテルに滞在していたおばちゃまたちもいらっしゃいました。僕は彼女たちのことはすっかりと忘れていた。


ヤン「酒井さん、山田さん、今から国際空港へ向かいます。あらかじめ帰国便のシェムリアップ➡香港 香港➡成田空港へのフライトのリコンファームは、私がしていますので大丈夫です。安心してくださいね。」


僕「安心しました。実際のところ初めての国だから、ちょっと不安もあったんですよ。」


山田「俺もですよ。酒井さん。」


ニャン「本当に、二人にはお世話になりました。ありがとうございます。また、素晴らしい出会いに感謝です。」


僕「お礼を言うのはこちらですよ。ニャン君には、学校が休みの日にわざわざ遺跡探訪に付き合ってもらった上、ガイドまでしていただいて本当にありがたかったです。現地の人が付いていてくれたので、本当に心強く安心できましたよ。」


山田「俺も、本当にニャン君には感謝しきれない感じですよ。ありがとう。」


ニャン「なんだか名残惜しいですね。」


僕「まだまだ、カンボジアには見どころがたくさんあるので、いくら時間があっても足りないくらいですよ。本当に名残惜しいです。名残惜しいからまた次がるんでしょうね。」


山田「カンボジアの人たちには、本当によくしていただきありがとうって感じですよ。」


ヤン「私たちとニャン君は、空港の入口までしか行けないので。お見送りは入口までとなります。」


僕「了解です。」


山田「了解。」


そんな会話を車内で交わしていた。僕たちの乗った車は、シェムリアップ川を越え、国道6号線へひたすら空港へ向かって走った。


夜のとばりが、なんだかこの旅情に一つ二つと名残惜しさを付け加えていった。国道6号線は、初日同様に変わらず埃っぽかった。僕たちの車が走るその後には、土埃が舞っていた。国道の道端では、夜の涼しさを求めてたくさんの人たちが、屋台で食事を楽しんでいた。


こんな景色も帰国前に僕には、愛おしく思えた。僕たちを乗せた車は、シェムリアップ国際空港の入口ゲートへ入っていった。空港ゲート内には、車がひしめき合っていた。搭乗客は、ほぼアンコール・ワット遺跡群を探訪した人々だと思う。それぞれの心の中には、どんなアンコール・ワット遺跡の思い出が残っているのだろうか。


少なくても僕と山田の記憶の中には、アンコール・ワットの悠久の時間の貴さが焼き付いていた。僕たちを乗せた車は、国際線ターミナルのゲートを通過し、出発ロビー入口へと間もなく到着する。夜のとばりに色とられた空港の入口。その景色を見ているとなんだかものさみしくなってきた。また、昼間とは違ったシェムリアップの世界へとつながっているような気がした。僕と山田には日本へ帰国するというもうひと仕事がある。スムーズにトランジットできることを祈るばかりだ。


ヤン「酒井さん、山田さん、シェムリアップ国際空港に到着しました。忘れ物のないようにしてください。お荷物はドライバーが、降ろしますので、少々お待ちください。」


僕「ヤンさん、ニャン君、いろいろとお世話になりました。ニャン君との素晴らしい出合いができてよかったです。日本に到着したらメールしますね。」


ニャン「酒井さん。こちらこそ楽しい時間を一緒に過ごせて本当に貴重な時間でした。ありがとうございます。」


山田「ニャン君、いろいろとお世話になりました。ぜひ、日本へも遊びに来てください。俺も帰国したら、メールをしますね。」


ニャン「山田君、体に気を付けて就職活動に頑張ってください。僕も頑張って勉強していきます。これからもよろしくお願いします。」


ヤン「酒井さん、山田さん、僕たちはここまでしか行けませんので、こちらで失礼いたします。このゲートでチェックインカウンターへ向かってください。セキュリティチェックもありますので。お気をつけて日本へおかえりください。」


僕「ヤンさん、ありがとうございます。」


山田「ありがとうございます。」


僕「ニャン君も体に気を付けてがんばってください。」


山田「ニャン君、ありがとう。体に気をつけてください。じゃぁね。」


僕たちをガイドのヤン、ニャン、ドライバーは見送ってセキュリティエリアで姿が見えなくなるまで見届けてくれた。こんな出会いもあるんだぁと感傷に浸りながら自動ドアを通過していった。僕と山田の周りには、それぞれの国へ帰国する人たちが連なっていた。


山田「酒井さん、キャセイ・パシフィックのチェックインカウンターはこちらみたいですね。」


僕「そうですね。早速、荷物を預けてチェックインしましょうかね。免税店も見て回りたいですしね。」


山田「そうしましょう。空港内の無料WIFIもあるようなので、酒井さん、祖語ともできますよ。」


僕「そうですね。山田君もFace Bookをアップできますね。カフェでお茶でもしましょうか。まだ米ドルはありますから。」


そういうと山田は、キャセイ・パシフィックエアーのチェックインカウンターへと僕を導いていった。


僕は山田の後姿を見て、彼も成長したなって感じた。シェムリアップ国際空港から香港までは行きのフライトと同様に、ドラゴンエアーだった。帰国便なので人数は、結構搭乗するはずだと思った。チェックインカウンターもかなり込み合っていた。


早めにホテルを出ていてよかった。搭乗までは3時間半はまだあるので、時間の余裕はあった。とりあえずは、チェックインし、搭乗ゲートまで辿りつけば、一安心だ。


僕と山田は、そつなくチェックインできた。出国手続きも順調に終わった。僕たちが並んだ列は、スムーズに対応してくれるスタッフだった。出国ゲートをくぐり、待合室へ向かう途中には、免税店が、所狭しと店が立ち並んでした。ブランド品はわざわざ免税店で買う必要もなく、日本で買えばいい。それに免税店では、新作の商品がないため、あまり僕の購買意欲をそそらない。


お土産をもう少し購入しようとおもい、ショップへと入った。定番のチョコレートが2箱ぐらいあればいいかなと思った。免税店は、最後の外貨支払いの場所なので、僕は2箱のチョコレートを購入した。山田は、民芸品を見ていた。山田もチョコレート購入したようだった。僕たちは、それぞれ不足していたお土産を購入した。


山田「酒井さん、何を買われたんですか。俺はチョコレートとカンボジアンクッキーを購入しましたよ。」


僕「僕はチョコレート2箱ですね。昨日、マーケットで購入したお土産では、ちょっと足

りない感じがしたんで。」


山田「お土産って少し余るぐらい買っていたのがいいですよね。」


僕たちは免税店の袋を手に持ち、搭乗口へと向かった。出国便ではよくあるのだが、ディパチャーの時間やゲートが良く変わる。電子掲示板の近くにいた方がいい。英語のアナウンスで僕たちの搭乗ゲートと時間が変更になったとインフォメーションしていた。


山田「搭乗ゲートと時間が変更になったみたいですね。」


僕「そうだね。海外ではよくあるよね。案内掲示板の近くにいた方が、最新情報が手に入るので安心ですよ。まじかになってバタバタするのは嫌だからね。」


山田「酒井さんがいつもおっしゃっている事前準備ですね。」


僕と山田は変更されたゲートへ向かった。搭乗時間も変更になっており遅くなっていた。シェムリアップの離陸時間が遅くなると、トランジットの香港での時間も減ってくる。そうすると香港でバタバタする可能性があった。香港では1時間少々しかトランジットの時間がないためだ。


山田「酒井さん、搭乗時間も遅くなっていますね。ということは、香港でのトランジットの時間も減ってきて、なんだかバタバタしそうですね。」


僕「そうなんだよね。おそらくバタバタすると思うよ。まぁこういうことも旅にはつきものだからね。心の余裕が必要なんだよね。」


山田「そうですね。香港でバタバタですか。マジですか。」


搭乗ゲート近くのソファーにt二人は腰を下ろした。搭乗ゲートへ向かう途中に、カフェは見当たらなかったような気がする。というか、僕が入ってみたようなカフェがなかったってだけだったが。


山田「搭乗ゲート前まで来ると、なんだか一安心ですね。後は、搭乗アナウンスを待つばかりですね。感じのいいカフェありませんでしたよね。酒井さん、何か飲まれますか。自販機で俺飲み物買ってきますよ。」


僕「山田君、ありがとう。じゃ、ごちそうになろうかな。僕は紅茶か何かでいいですよ。まぁ、ここまでくると第一関門の通過って感じですね。」


山田「じゃ、俺、自販機を探してきますね。」


僕「行ってらっしゃい。荷物は見ているから大丈夫ですよ。お店を散策してみるといいですよ。」


僕は山田の後姿を見送りつつ、早速、空港内のフリーWIFIで接続開始をした。フェイスブックのアップのためだった。僕はサイトへアクセスし、情報アップをした。


しばらくすると山田が僕のところへ戻ってきた。その様子を見ていると、子犬が飼い主のところへしっぽを振って走ってくる感じがした。なんだか山田がチワワの子犬に見えてきた。山田はドリンクとちょっとした現地のお菓子を買ってきてくれた。


山田「お待たせしました。酒井さんへ紅茶とシェムリアップのお菓子を買ってきました。俺はコークと現地のパッケージのポテトチップスみたいなお菓子を買ってきました。」


僕「山田君、ありがとう。山田君は若いのによく気が付くよね。」


山田「いえいえ、酒井さんの傍にいるといろいろしたくなっちゃうんですよね。」


僕「山田君は、ちゃんとしたご家庭でご両親から大切に育てられたんでしょうね。こういう時に育ちって出てくるんですよね。」


山田「まぁ割と実家では躾は厳しいほうだったと思います。今も子供ですが、小学生のときはその躾の束縛は嫌いでしたが、今になってみると親にきちんと躾られて本当に良かったと思います。」


僕「親から受けた恩は、時間がたつとわかってくるもんですよね。その時はわからないんですけどね。」


山田「そういうもんなんですね。」という会話を山田と交わしていた。


山田が僕のところへ戻り、ソファーへ座り始めたころは、人はほとんどいなかったが、搭乗時間が迫ってくるとあちらこちらから、人が集まって来た。


このゲートの待合スペースへいる人たちは、シェムリアップアから香港へのフライトの人々だ。この人たちとも同じフライトというのは、これもまた何かの縁なんだろう。


山田「ここにいる人たちは、俺たちと一緒のフライトなんでしょうね。あちらには、修学旅行の集団がいますね。香港からですかね。」


僕「そうですね。香港からの修学旅行みたいですね。みんな今回の運命共同体ですね。これもまた何かの縁でしょうね。」


山田「人の縁って本当に不思議ですよね。シェムリアップのディパーチャーの時間が、おそくなると香港でのトランジットが少々不安です。」


僕「そうなんだよ、山田君。香港では手際よくしなきゃですね。香港からはキャセイ・パセフィックの期待ですから、LCCと違い多少は離陸の時間も待ってくれそうですけどね。ただ、香港の空港職員が手際よく搭乗ゲートまでナビしてくれるかどうかというところですね。日本でしたら、おもてなしの国だから日本人であろうと外国人であろうときちんと対応してくれますけどね。」


山田「そうですよね。」


搭乗アナウンスが流れ始めた。いつものように今か今かと搭乗の時間を待ちわびていた人たちで、あたりはザワザワしていた。列に並び順番に機内へ入っていった。


僕と山田の順番になってきた。二人並んで機内へ入っていく。これで今回のアンコール・ワット遺跡探訪紀行がまもなく終了となる。なんだか、寂しく感じた。この2日半ぐらいのシェムリアップの滞在時間であったが、中身の濃い時間が過ごせた。改めてニャンとの偶然に出会った奇跡の出会いに感謝感激をした。


僕は、一歩一歩機内へと入っていった。山田も僕の後ろについて機内へと向かった。僕たちの席は29番のA/Bだった。間もなく離陸の時間となった。


これで今回の探訪紀行はこれにて終了である。後は香港でうまく成田行きのフライトへ搭乗できれば、言うことなしだ。「カンボジア、また来ます。」と心で思い席へ着いた。席へ着くと早々に離陸となった。僕と山田の今回の旅行も終了となった。


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Siem Reap(奇跡の出会い) 有野利風 @Arino_Toshikaze

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