第34話 Preparing to return home(帰国準備)

僕と山田は、香港でトランジットしなければならいでの、もうひと仕事が、残っている感じだ。僕は、シェムリアップの街並みをじっくりと鑑賞しながら歩いた。山田もおそらく同じ気持ちだったと思う。二人はしばし無言で、舗装されていない土埃のする路を歩いていた。行きかう人々は、黙々と仕事しているといった様子だった。僕たちはようやくホテルへ着いた。


僕「山田君。お疲れ様でした。ようやくホテル到着ですね。カギを受け取ってきますのでちょっと待っていてください。」


山田「わかりました。」


僕はそういうとホテルのフロントへ行き、預けた部屋のカギを受け取った。


僕「山田君、お待たせ。」


山田「酒井さん。ありがとうございました。」


僕「じゃ、部屋へ向かいましょうか。汗かいちゃったから、シャワーを浴びたい感じですよ。それから帰国準備としますか。」


山田「そうですよね。いよいよ帰国ですね。なんだか後髪をひかれる感じですよ。それに結構歩いちゃったんでさすがに汗をかきましたね。ランチ、御馳走様でした。」


僕「いえいえ、たいしたとことないですよ。」


僕と山田は、ホテルの街路樹の下を通り、部屋へ向かった。サンサンと降り注ぐ太陽の光が少々まぶしかった。僕たちの部屋は2Fだったので、外階段を登り、あらかじめクーラーで冷やしていた部屋へ入った。


山田「あぁ、気持ちいいですね。涼しくて最高です。クーラーはやはり必要ですよね。」


僕「涼しい。本当に涼しくて幸せだね。」


さすがに僕と山田の二人は、カンボジアの暑さには少々ダメージを食らっていた。


山田「酒井さん、今、何時ですかね。カンボジアへきてから、時間の感覚がなくなっちゃいました。」


僕「そうだよね。みんな、のんびりしているから、そのペースに飲まれちゃいますよね。いま、14時ですね。」


山田「そうですか。ちょうどいい感じの時間帯に戻りましたね。ニャン君が来るまで部屋でゆっくりできますね。ニャン君、何時に来るんでしたっけ?」


僕「18時ぐらいじゃないですかね。学校があるって言っていましたからね。」


山田「BGMのテレビでも、つけていいですか。音がないとなんだか寂しくて。」


僕「もちろん、OKですよ。先にバスタイムにしてもいいですか。」


山田「もちろんです。どうぞ、お先に!」


僕は、バスルームへ入り、バスタブにお湯をはり始めた。バスルームの鏡越しに僕も顔をよく見ると、やはり日焼けしていた。ほんのり赤みがかっていた。湯船にお湯がたまり、僕は、足をゆっくりとお湯の中へ入れた。土埃の路を歩いてきたから、おそらく、体にも土埃がしっかりとまとわりついているに違いなかった。ゆっくりと体沈めていった。少し日焼けをした肌がひりひりした。湯船につかっている感覚が、僕の体中にいきわたってくる。


僕は、口の当たりまでお湯に体を沈めた。足の脹脛をほぐした。昨日行ったマッサージにもう一度行きたくなった。歩き疲れた足をほぐしてほしいと感じた。バスタブから天井を眺めると、水面が反射してきれいに映っていた。僕は、きれいだなって思いながら、改めて体を温めていた。バスルームの小窓からは南国の西日が差し込んでいた。


その日差しを眺めながら、バスタイムってすごく幸せだなって実感した。何分経ったかわからないが、しばらくこの幸福感に浸っていた。洗顔し、歯磨きもした。


僕「山田君、お先にお風呂をいただきましたよ。日中からお風呂に入るってなんだか優雅な人になった感じでしたよ。それも外国でバスタイムってなんだか幸せを感じちゃいましたよ。」


山田「そうでしたか。そうですよね。日中にお風呂にはいれるって、日本では休みの日ぐらいですからね。それじゃ、俺も今からシャワーを浴びてきますね。」


僕「了解です。お湯入れておきましたから。」


山田「ありがとうございます。」


山田はバスルームへと入っていった。テレビからクメール語のニュースが流れている部屋の中で、僕は、帰国準備の荷造りを始めた。


今回のアンコール・ワット遺跡群探訪は、念願の渡航先だったため、非常に感動することが多かった。僕の意識の中へインスピレーションを送ってきた人たちのことを、ふと思い出していた。改めて、僕はカンボジアへ訪れてよかったと、旅を振り返った。カンボジア料理も堪能できた。カンボジアの空気・景色・日常を目のあたりにし、感じるところも多々あった。今回のカンボジア渡航では僕の中で新しい意識がめざめた印象を受けた。


ホテルの部屋でもフリーWIFIも利用できたので、フェイスブックへ、カンボジアの情景をアップした。アップすると同時に、「待っていました」といわんばかりにアクセスされた。


よく見るとその中に、香港国際空港で偶然に出会った同級生、奥本涼子の「いいね」もあった。なんだか知り合いからの「いいね」は、ほっこりする感じだった。まもなくすると山田もバスルームから出てきた。


山田「酒井さん、シャワーを浴びたらすっきりしましたよ。何されているんですか。」


僕「フェイスブックを更新してたんだよね。」


山田「そうなんですね。」


僕「香港国際空港であった同級生の奥本涼子からも「いいね」があったよ。」


山田「そうなんですね。良かったじゃないですか。知り合いから「いいね」をもらうと、うれしいものですよね。俺は、なんだかちょっと焼けちゃいますけど。」


僕「外から帰ってきてシャワーを浴びると、気分すっきりするよね。」


山田「テレビから流れるクメール語のニュースが、なんだか海外にいますって感じですよね。でも間もなくカンボジアを出国ですよ。寂しいですね。」


僕「明日の今頃は日本にいるんですよ。今回のカンボジア渡航は、いろいろと面白かったよね。ニャン君との偶然の面白い出会いもあったしね。」


山田「ニャン君との出会いも、本当に偶然の重なりですからね。」


僕と山田は、そんな話をしながら旅情をかみしみていた。


僕は部屋のバルコニーへ出て、サンサンと降り注ぐ南の国の太陽を思いっきり浴びた。僕は、このモアっとした東南アジアの季候が好きだ。なんだか落ち着くって感じがする。山田も僕を追ってバルコニーへ出てきた。


山田「酒井さん、この南国の太陽光線を思いっきり体中に浴びで、日光消毒って感じですよ。」


僕「日焼けもほどほどにしないとね。」


山田「そうですよね。紫外線を浴びすぎると後にシミになりますからね。」


僕「年を重ねてわかるって感じですよね。」


僕は、思いっきり背伸びをした。本当にこの太陽光線が気持ちよく思えた。


僕「山田君。僕は帰国準備を先ほどしましたよ。山田君は?準備OKですか。」


山田「俺も酒井さんがバスタイムの時に帰国準備をしていましたよ。荷造りも完了しています。酒井さんを見習って段取りよくしました。」


僕「了解。山田君も、段取りいいね。社会に出たら全てにおいて、仕事は段取りは必要ですから。今からトレーニングし、ならしていたのがいいですよ。」


僕が時計を確認したら、17時30分を過ぎていた。なんやかんやしていると、あっという間に時間は経った。


山田「酒井さん、いい時間帯になりましたよね。あっという間でした。そろそろ、ニャン君もホテルに来ますね。」


僕「そうだね。ニャン君もそろそろ現れる時間だね。」


僕と山田は部屋に戻り最終荷造りを始めた。といっても忘れ物がないかを確認し、着替える程度だった。僕と山田が着替え終わったころ、ボーイが僕たちを迎えに来た。


ボーイ「ニャンが来ています。そろそろチェックアウトの時間にもなります。」


ボーイ「お二人の荷物をお持ちします。こちらのスーツケース2個でよろしいですか。」


僕「そうですね。よろしくお願いします。」


山田「こちらもお願いします。」


僕たちは、ボーイの後をついて行き、フロントへ向かった。


僕が滞在した部屋を改めて確認するため、振り返ってみた。なんだか寂しく思えた。ボーイは、僕と山田をフロントまでナビゲートしてくれた。


僕たちがフロントある2Fまで上がっていくと、ニャンはソファーに座り、支配人と話していた。ソファーに座っていたニャンは、まさに学校帰りといった雰囲気だった。ニャンも忙しいのにわざわざ僕たちを見送りするために、このホテルへ立ち寄ってくれた。本当に感謝してもしきれない限りだった。カンボジア人の純粋さに感動した。なんだか涙が出そうになる。


ニャン「酒井さん、山田君、お疲れ様です。」


僕「ニャン君、学校帰りなのにわざわざ見送りに来てくれてありがとうございます。」


ニャン「いえいえ、大丈夫ですよ。僕が勝手に来ちゃっただけですから。お二人には何か縁も感じますしね。」


山田「ニャン君ありがとう。いっしょにいた時間はこの数日だったけど、本当にいろいろありがとう。すごく楽しい旅になったよ。」


ボーイ「お二人の荷物はこちらに置いときます。」


僕「ありがとうございます。」


山田「ありがとうございます。」


支配人「酒井様、山田様、今回は私どものホテルに滞在いただき、誠にありがとうございました。ぜひ、またお遊びに来てください。ニャンも望んでいますから。」


ニャン「本当にそうですよ。叔父の言う通りで、是非、またカンボジアのシェムリアップへ遊びにきてください。」


山田「はい、是非とも。また、アンコール遺跡を案内してください。まだまだ行っていない遺跡もたくさんありますから。」


僕「是非、また来たいです。山田君と一緒に来たいと思いますよ。」


支配人「酒井様、山田様、ガイドが来ましたよ。」

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