第21話 意外な条件

政府庁の中に入るとホールに行き着く。白を基調とした作りで、正面と左右に扉がありがあった。脇に階段もある。掃除も行き届いており、いかにも豪華な感じの屋内だ。爆破テロがあった現場とは思えない。

「こちらへどうぞ」

先ほどの衛兵が先導する。左手にあるドアに向かってエメラと衛兵は歩いて行く。

長い廊下が広がっており、その廊下の壁側にもいくつか扉がある。何かの事務室であろうか。

そして一番奥まで向かうと、警備兵が止まった。そしてコツコツとノックをした。

「入りなさい」

よく通る女性の声――勿論エメラには聞き覚えのある声――がした。

ゆっくりと重たそうな扉を開く警備兵。中は広めの部屋で、棚があり書類や本などが雑然と並べられていた。

エメラはそっと中に入った。

そこには見知った顔、今は大統領代理であるユラがいた。疲れが顔ににじんでいるように見える。

ずっと探し求めていた妹。だが前にあったときは感動の再会といえるものではなかった。

「ユラ、『狼』の使者としてここに来た」

そこで一呼吸あける。

「私の身柄と引き換えに、捕まった『狼』の仲間を釈放してほしい」

しっかりと目を見つめて伝える。

「お姉様……それはちょっと虫が良すぎるのではありませんか?」

「分かっている。だがそれでもお願いしたい。姉からの最後のお願いだ」

そう。エメラは恐らく無事にここから出られない。投獄ならマシな方で最悪のケースも考えねばならない。だが、これしか手段はないのだ。

ユラは一度息を吐き、再び姉を見つめた。

「分かりました。その条件を認めましょう」

「本当か?」

「はい。その代わり勿論条件があります」

やはり、か。そんな簡単には交渉は上手く行かないと思っていたが、予想は当たったようだ。

「まずはお姉様の身柄は私が預かります。そして、もう一つなのですが……」

なにか嫌な予感がした。聞きたくない質問をされそうな感じが。

「今の『狼』のアジトを教えてください。それであのスパイを解放します」

それは、エメラには一番飲めない内容だった。私が『狼』を裏切る? 出来る筈がない。

「それは出来ない! 私も『狼』の一員だ! 私の命で勘弁をしてくれ……」

もはや縋ることしか出来ない。ユラは賢い。エメラが痛いところを全部見抜いている。

「そう答えると思いました。なのでお姉様には代わりの役割を取っていただくことに致します」

代わりの役割? どういうことだ。私が代わりに出来ることがあっただろうか。

「よく分からないという顔をしてますね。では簡単に説明します」

ユラは無表情にこう言い放った。

「大統領閣下に嫁いでもらいます」

それはあまりにも想像の付かない展開で、エメラはただ立ち尽くすことしか出来なかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

革命――ある女兵士の逃亡譚 姫草りあ @456ouka

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ