第20話 捨て身の交渉

時はまた十年後に戻る。

エメラは朝日輝く中を、貧民街を抜け政府庁へと向かっていた。

私はたぶん皆の元へは戻れないだろう。だが私に出来ることを全力でやろう。

その想いが恐怖を忘れさせてくれる。ユラは取り合ってくれるだろうか。分からないが行くしかない。

政府庁が近付いて来た。物々しい厳戒態勢を敷いている。街中に兵士がいるかのようだった。昔培った隠密技術で政府庁前まで辿り着くエメラ。そこには二人、警備と思わしき銃を持った男たちがいた。

一人はなかなかの男前で、もう一人は特に特徴の無い男だった。

「止まれ!」

男前の方の男が声を出す。呼応してエメラはその場に止まる。

「何の用だ。ここがどこだか分かっているのか? 早く去らないと好ましくない状況になるが、承知の上なのか?」

警戒を解かず、エメラを問い詰める。エメラが女ということもあって、少し気を緩めてはいるのかもしれない。

エメラはなるべく落ち着いた口調で応える。

「待て。私は使者として来た。ユラにエメラが来たと伝えてくれ。それで通じる筈だ」

「大統領代理閣下だと? あの方は今テロの処理で忙しい。お前の様な者にかまっている暇などない」

当然の反応と言えるだろう。素姓も知らぬ女が大統領代理に話しがあると言うのだ。警戒の度合いが高まる。

「いいからエメラが来たと伝えてくれ。それだけを頼む」

男前の方の衛兵は暫し考えてこう伝える。

「エメラが来たとだけ伝えることは承知した。だがお前の様な不審者を放っておく訳にもいかない。手を縄で縛らせてもうぞ」

「ああ、構わない」

「よし、俺が伝えてくる、お前はこの女を見張っていてくれ。男前の方の男は、特長の無い男にそう残し、政府庁の中へと消えていった。

沈黙が場を支配する。エメラは考えていた。ユラは恐らくヤンと引き換えに私が力を貸すように交渉してくるだろう。その時私は、自分の命と引き換えという条件を提示する。ユラは飲んでくれるだろうか。

その時、先ほどの衛兵が帰ってきた。

「失礼しました! ユラ様がお会いになりたいとのことです! 失礼の無きようご案内するよう頼まれました。付いてきてください」

「ありがとう。恩に着る」

エメラはほっとして礼だけ述べた。

そしてエメラと衛兵は、政府庁の中へ入っていった。

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