第19話 エメラの革命――戦いは終わった

「伝令! シェーメル隊長よりエメラどのへ伝言!」

野営地に急に入ってきたのは伝令兵だった。

あの夜、シェーメルがエフィを撃ったあと、エメラの元に伝言を飛ばしていた。

「シェーメル隊長より配置変更の任を伝えに来ました」

「配置変更? どうして……?」

今いるのは戦線の最前線。ここから配置変更は少し考えにくいのだが……。エメラは訝る。

「何処へ配置になるの?」

「それが……」

エメラは配置先を聞いて、驚いた。

「ここ、安全地帯じゃない……。何も無い中部の村……」

「ここにいるゼップスを頼れとのこと! あと、手紙を受け取りました。ご確認を」

エメラは手紙を受け取ると、急いで目を通した。

『親愛なる我が娘エメラへ。革命はもうすぐ終わる。恐らく我々の敗北という形で終わるだろう。お前は配置先の村に行き、いざという時は村を守ってくれ。そして、もし革命が失敗したなら、ゼップスに匿ってもらい、なんとしてでも生き延びてくれ。これは命令だ。隊長命令に背くような真似はしないでくれ。愛しているよ、エメラ」

「そんな……」

革命が失敗なんて絶対に嘘だ! 今まで完璧に進んでたじゃないか! 何かの間違いだ!

「如何なさいます?」

……暫く考えた後、出した結論はこうだった。

「……私は村に行く。残る兵士のことは、副隊長に任せておいてくれ」

「はっ。馬はこちらに」

「くっ……。それでは後のことは任せた。私は戦線を離れる」

「仰せのままに」


そしてエメラは早馬を飛ばした。

丁度夕暮れ時にその村には到着した。エメラを見ると、村人達は怯えて家に入ってしまう。

「すまない、誰かゼップスという者を知らないか?」

シーンと静まりかえる。まるで村が死んだかのようだ。

暫くすると、一人の中年がこちらに向かって来た。

「こちらへ」

「すまない。貴方の名前は?」

「ゼップスと申します。エメラ様ですよね?」

「ああ、そうだ」

求めていた人物に出会えた。エメラはほっと安堵する。この村を守ることが私の任務でもあるわけだ。エメラは深呼吸する。

「さぁ、こちらへ」

「あぁ、行こう」

外観と違い小綺麗な内装は、主の几帳面さを表しているようだ。暖炉には薪がくべられている。そういえばもうそんな季節か。

「この中に」

中は地下室になっていて、まるで隠し部屋のようだ。

「何故こんなところへ……?」

「シェーメル隊長からの任です。ここで、愛娘を匿ってくれとのこと」

「何故だ! 私だけがこんなところで安全に暮らさなければならないのか? 革命に殉じて死ぬことが私の役割なのに!」

「エメラ様、落ち着いてください。今戦いはとても難しい状況にあります。もし革命軍が敗北したときは、間違い無くエメラ様も亡き者にされるでしょう」

「構わない! 私はそれを望んでいる!」

一気にまくし立てる。

「ダメなのです。貴女は革命の最後の希望。シェーメル隊長の意志を継げる、たった一人のお方なのです」

嘘だと言うことくらい気付いている。だが、父のために死ぬわけにいかないのも事実だ。

「分かった。暫く厄介になる」

ゼップスはほっとして、エメラに微笑む。

「全てが上手くいくことを祈っていましょう」


全ての歯車が狂った今、全てが上手く行くはずもない。だがエメラはそれを知る由もない。

ここで、エメラの革命は、終わりを告げた。

じきに冬になる、木枯らしの吹く夜のことだった。

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