第11話
昼下がりの公園。若い葉が強すぎる日差しを遮って、適度な光量がベンチへと差し込んでいる。読書をするにはうってつけの場所だ。
雪比奈は読み終えたハードカバーの本を自分の横に置き、砂場でじゃれている和葉と子供を眺めた。母親に似て活発な子供の容姿は自分にも和葉にも似ておらず、強いて言うならば和葉の兄の面影を持っていた。
「老けたな、お前」
ふいに自分の影に誰かの影が重なった。記憶にあるより小さな影と高い声。しかしそれが誰だか雪比奈が間違えるはずがない。
「やま…」
「振り返るな」
がっしりと頭を掴まれて、雪比奈の視線は和葉と我が子に固定される。
「竹内柳都はどうなった?」
「多分何も覚えてない」
月見里の訃報を聞いて雪比奈はすぐに竹内柳都の病室に行った。すでに目を覚ましていた彼に誰だと問われ、何も言えずに病室を出た。腹立たしさはあった。だがそれを彼にぶつけたって無意味だということを雪比奈はきちんと理解していた。
「ならいい」
どこか安堵したようにそういって、彼はハードカバーの上に何かを置いた。雪比奈はそれに視線を向ける。丁寧にラッピングされたそれは、妻の大好きなお菓子だった。
「あの時和葉にたべさせてやれなかったからな。渡しといてくれ」
「了解した」
「じゃあな。ありがと」
頭を解放されて、雪比奈はすぐに振り返る。するときょとんとした表情の少年と目があった。六、七歳ほどの少年は自分が何故ここにいるのか分からないようで、きょろきょろと周囲を見回している。
「おじさん、ここどこ?」
半そで短パン姿は活発な男の子らしい。初対面の相手におじさんと呼びかける無邪気さは雪比奈が出会ったころの月見里にはなかったものだ。
「小学校の近くの公園だ。君は一人かい?」
「うん」
「では、うちの子供と遊んでやってくれないか?元気な子なんだがどうにも人見知りでね。なかなか友達が作れないんだ」
雪比奈は砂場の方を指さしてそう言った。少年は雪比奈と砂場の方を交互に見やってる。それからいいよ、と頷いて笑顔で砂場の方に駆けていった。
命の灯 @rui_cat
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます