第10話
「なんで……」
病室に入ってきたのは母でも雪比奈でもない。どこか苛立ったような表情の月見里が右手にメモをもって立っていた。月見里はぐしゃりとメモを握り潰してゴミ箱に捨てる。柳都が横たわったベッドの傍で立ち止まり、じっと柳都を見下ろした。
月見里の手が柳都の心臓にあてられる。柳都自身が触れられなかったそこに、月見里は難なく触れた。その心臓は、まだきちんと動いているのだろうか。
「……俺だって」
月見里がポツリと言葉を漏らす。
「俺だって生きてたいっつの」
吐き捨てるようにそういって、月見里は踵を返した。慌てて呼び止めても柳都の声は届かない。
雪比奈はきちんと柳都の言葉を届けてくれたようだ。その事に安堵しているのに、どうしようもない罪悪感が拭えない。
柳都はぎゅっと両膝を抱え込んだ。そのまま柳都はぷかぷかと風船のように何時間も漂っていた。
死神がくつりと笑みを零す。
「ではそのように処理しておこう」
月見里理人は何も言わずにただ頷いた。死神が指を鳴らすと、その姿は忽然と消える。
「これで満足か?」
咎めるように問われ、セツは顔を上げた。死神がぐびぐびと酒を呷る。
「しってたんですか」
「これでも神の部類だからな」
深淵のような暗闇であるこの場所が明るいのは、無数の灯が照らしてくれるから。蝋燭は無造作に浮いているように見える。しかしセツには分からない法則があるのだと世話係になったばかりのころに聞かされた。あの日、その蝋燭の位置をずらしたのはセツだった。
「俺たちには多くの権限が与えられているが、だからこそ行動に対する責任は重い」
死神がぱちんと指を鳴らす。セツの目の前に青い傘が現れた。セツが唯一ここに持ち込んだ生前の持ち物だ。
「次、同じことをしたら容赦はしないからな」
「……はい」
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