顛末
目を覚ますと僕は白いシーツに包まれて見知らぬ天井を一人にらんでいた。
ぼんやりしていても仕方ないのでナースコールで看護師を呼んで事情を説明させた。この男がおしゃべりな男で事情説明以上に多くのことを聞かされたが、大体の事情は把握した。
どうやら僕は山菜取りに入っていた見知らぬ男性に救助されたらしい。骨折、
歴史研究会のほかのメンバーは
神社の人たちから不法侵入等の罪で起訴されるなんて言う話も挙がっていたけれど「すでに天から罰は受けている」ということで僕のケガを
親にはどうしてあんなところにいたんだとか問い詰められたけどはぐらかした。そして、もう二度と犯罪行為には手を出さないことを誓わされた。
そんな日々の中、僕は人の顔を見てもぞわぞわという感覚に襲われないようになっていた。そういう風に感じていた記憶すらも、僅かしか経っていないのに薄れてしまっていた。
目覚めてから僕は色んな人にいろんな形であの日の真実を聞かれた。でもあの出来事の真相を知っているのは、僕じゃない。
「――あの時何があったか、お前が教えてくれるんじゃないのか?」
退院の前日に僕の部屋を訪れたその人に僕はそう言葉を投げた。
言葉を投げられた彼女は肩をすくめてそれに答えた。
「
「知らないよ。大体、怒られるって誰に?」
「——————様」
「なに? 以後、炉鳴く?」
そう僕が鸚鵡返しに言うと満足したように彼女は僕へ背を向けた。歩き出す直前に初めて見た彼女のその顔は僕が今まで見た顔の中で一番邪悪に笑っていた。
立ち去った後、僕は首を傾げる。彼女の顔は僕の目に汚らしく醜悪な何かに映っていた。そんな彼女にどうして研究会の連中がひきつけられたのだろうか。しかも、彼女のことを絶世の美女のように扱って、——。
きっと僕にはわからない何かがこの事件にはあるのだろう。でも、僕にそれを追うことはかなわないことも同時に分かった。
見上げる月夜。二階であるはずの窓の外に人影が見えた。人影はぶくぶくと太り、肉塊と言われてもいいくらいだ。満月が首の上をちょうど陣取り頭のようになっている。いや、そんなはずはないだろう。普通は頭が影になって見えないはずなのだから。でも僕はその実例を知っている。頭のない人間ならばそれがあり得ることが冷静な頭の中で理解できていた。その人影は窓をすり抜け僕に手を伸ばす。
最後の記憶。その手の真ん中に三日月の如く歪んだ口が僕を見ていた。
忘れていたことだけど。
祖父の死に顔を僕は見たことがない。何故なら祖父が死んだ時、
——頭をなくしていたから。
相貌 深恵 遊子 @toubun76
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