第16話 海蔵寺での邂逅 堀 久太郎と柴田 源左 Scean13

「承りました、源左殿。では、少しおもむきを変え当時の山崎での情景を語り部風に話させていただきます・・・私が山崎の宝寺に出向いたのは天正十年の九月中旬過ぎ残暑に近い暑い日でした・・・」


「うむ・・・」




 (チリィ~ンン~~~ チリチリィ~~ンンン~~~)






   ーーーーーー    ☆☆☆    ★★★   -----ー





“” [トウㇳゥㇰトウㇳゥ~~ザア~~・・・トウㇳゥトク~~・・ザザ~~~] “”


(ここ山崎は古来から名水の地と称されておったとは聞いていたが・・・)


 堀は、道端の水路に滔々と湧き出る水をすくい火照った顔に浴びせている・・・


(うまい・・・)


 堀は、その湧き水を口に含むと感嘆する・・・


 この日、堀は高ぶる気持ちを抑えかねて日の出とともに宿泊先であった相国寺を後にし早朝に男山にある石清水八幡宮を訪れこの山崎の地に至る・・・。


『ブルルル・・・』


『おお・・・すまぬ、そちも喉が渇いておったか』


 堀は、そう言うと手で水をすくい愛馬に自ら飲ませてやる・・・


『そなたも早朝からご苦労であった・・・』


 労わるように堀は愛馬の首筋を優しく撫でるのであった。


 と、その時、


『殿、あれを見てどう思われる?』


 同行していた堀直政がかすれ声で尋ねながら近づくと堀と同じ様に水路から水をすくい口にする・・・。


『・・・ほう・・・うまいのう、この水は』


 直政は無造作に口元を袖で拭うと


『男山の砦といい、この眼前にある山崎の宝寺・・・これはもう砦の範疇でなく立派な城郭じゃ・・・。筑前殿の居城のある姫路城から見れば・・・どう見ても大坂、京を睨む強固な出城ではないか・・・』


『・・・確かに・・・な』


『世間で噂されておる通り、筑前殿は・・・やはり大望を持っておるのか・・・殿はどう思う・・・?』


『風評とは、筑前殿は織田家に成り代わり・・・天下を望んでおられる・・・この噂か、直政?』


『うむ・・・』


『それを確かめるのは、これから実際に会うてみてからじゃ。話しの顛末の結果、私は筑前殿を弾劾するやもしれぬ。されば、直政。おぬしもその心持でおるように』


『承知・・・』


『うん?』


『ブルル・・・』


 堀が直政と話しをしているにも拘らず、堀の騎乗の愛馬が彼の背中を鼻先でつついてくる・・・。


『なんじゃ、まだ欲しておるのか?』


 堀はまた自ら手で水路の水をすくうと愛馬に与える・・・


『馬にも、この水のうまさが分かるようだ・・・』


『今日は、ちと暑かったからのう余計に美味しく感じるやも・・・』


 直政も何杯めか、その水を口に含みながら堀にあいづちを打つ。


 堀はそんな直政の様子を脇目に見ながら大きく伸びをすると改めて周りの景色を眺める・・・。


(あれから、ほぼ三月経った・・・当時の景色と変わらないはずだが・・・)


 堀は三月ほど前にこの地であった大戦おおいくさを思い出し感慨に耽る・・・


(まあ、あの時期は周りの景色を愛でるような余裕は無かったが・・・)


 清涼感のある水路の水の音に耳を傾けながら堀は眼前にある川面に映える日の光の流れを見つめ、その先にあるであろう大坂の地を偲び、暫しの間、風にそよぐ葦の群れを見るともなく見つめていたのだがやがて、肩越しに視線を自分達が通ってきた街道に移す・・・。


(勝龍寺城・・・そうであった。あの場所で源左殿と言葉を交わしたのだな・・・)


 往時を思い出し、感慨に耽り微動もせず立った堀の笠のひさしにどこからか来たとんぼが止まろうとする・・・が、


『殿、どなたかがこちらに向こうて参りますぞ』


 堀は直政の声に応じ、体の向きを変える。堀の動きにそのとんぼは一瞬、宙に止まると残念そうにクルリと堀の頭上を回り、いずこかに飛んで行く・・・。


(ん?・・・我らが来るのを待っておったのか?)


 堀は大山崎の油座の権威の象徴ともいうべき何重にも建てられた黒塗りの木戸の入り口から混み合う人の群れをかき分けるようにして小走りにこちらに向かってくる男の姿を見とめる・・・


 やがて、その人物ははじけんばかりの笑顔で堀達一行の前に立ち止まる。


『卒爾ながら、堀 久太郎様でございませんか?』


 堀は丁寧に頭の笠ひもを解くとかぶりを上げ応じる。


『いかにも、して貴殿はどちらの御家中であられる?』


『こ これは失礼を致しました。御挨拶が遅れましたがそれがしは羽柴筑前守様が家臣、大谷吉継と申しまする。我が主、羽柴様のお傍に侍る近習衆のうちが一人で、只今は殿より御取次衆おとりつぎしゅうのお役目を仰せつかってございます』


(御取次衆だと⁈・・・)


 堀はその言葉を聞き、胸中に何とも穏やかならざるものが湧き上がってくるのを覚える・・・。


『堀様? いかがされましたか? それがしの言動に何か・・・不審な点がお有りでしょうか?』


(御取次衆・・・我らが上様より仰せつかったお役目ぞ!。 長殿⦅菅家長頼⦆、竹殿⦅長谷川秀一⦆、善七殿⦅矢部家定⦆・・・我らが・・・我らが・・・上様のため身命を賭して働いた職名を!!! あろうことか、筑前殿がこの若者に命じているだと⁉ すでに天下様気分でござるか、羽柴筑前守・・・)


『殿、大谷殿が困られておる!』


 直政の野太いかすれ声に、慌てて我に返った堀は目の前で不安そうな瞳で自分を見つめる若者の表情に気づく・・・。


『堀様・・・?』


(ああ・・・そうであった・・・。この若者には罪はない・・・)


 堀は穏やかな笑みを浮かべ、優しい眼差しで改めて答える・・・。


『大谷殿と、申されたな?』


『はっ』


『これは、失礼を致した。貴殿が口にされた御取次衆という言葉が感慨深くてな。私もついこの間まで上様の下で貴殿と同じ御取次衆のお役目を勤めておった・・・それで少し上様がおわした日々を思い出し感傷にふけってしまったようだ』


『そうでございましたか・・・』


 吉継は、柔和になった堀の表情に安心したようにぎこちなくも笑顔で応じる。


『ところで、大谷殿。差し支えなければでいいが、貴殿はお幾つになられるのか聞いても宜しいか?』


『はっ、今年、十八になりまする』


『ほう! 私よりひと回りも若い!! いらぬお世話かもしれぬが、お役目、励まれよ』


『はっ、ありがたきお言葉を頂戴致しました。これからもそのお言葉、励みに致しまする!』


(自分も気づけば、早、今年三十路に入った・・・時が経つのが早い・・・)


 堀は、自分の言葉に嬉しそうに喜ぶ吉継を見てため息を胸中にて漏らす。


『私は、本日堀様が山崎に来られるのを知ってすごく楽しみにしておったのです』


『楽しみに?』


『一昨日堀様より、先触れの使者が当地に参られてから堀様が当地に来られるのを知って私は殿に堀様との御取次の御役を是非にとさせていただくようにお願い申し上げたのです』


『ふむ・・・』


『今日も、あそこに見える物見櫓に朝から籠って堀様が参られるのを今か、今か、と待っておりました!』


『それは、また・・・』


 堀は何かの熱情に押されるよう饒舌になる吉継を困惑気味に見つめる・・・。


『はい、少しでも堀様と直接お話しがしたかったからでございます!』


『私と話しが・・・?』


『はい! そうでございます!!!』


 堀は満面の笑みを浮かべ自分を見つめる吉継の表情をまぶしそうに見返しながら、


『・・・大谷殿の意に添えるかどうか・・・で、何を私と・・・?』


『ありがとうございまする。それでは、お供の方々もここで立ったままでは気が引けますので宝寺まで、歩きながらお話しをさせていただきます』


 吉継は丁寧に堀等一行にお辞儀をすると左手を大きく広げ主が待つ宝寺へと続く街道に誘うのであった。


『私は、備中高松城での戦いから姫路へと戻り、そこから尼崎、富田へと向かう道中殿のお傍に侍っておりました・・・そこで殿が事あるごとに堀様を称賛される言葉を何度も聞かされたのでございます』


『羽柴殿が、私を・・・?』


『はい。特に感嘆されたのが、あの当地山崎で行われた合戦の前日、富田とんだの地で高山様、中川様、池田様・・・遅れて参集された信孝様、丹羽様が一堂に集うて始まった軍議の席での一場面でございました・・・』


『富田での軍議・・・』


『はい。あの時池田様は我が殿との挨拶では、ただ一言、「ご苦労である、筑前」と

申せられただけで、身を翻すや誰も寄せ付けない鬼気迫るご様子で床几に腰かけておられました・・・高山様、中川様もあまり口を開かず重い雰囲気でございましたな・・・ですが、堀様が信孝様、丹羽様をお連れになって軍議の席に戻られた時でございました・・・私は 私は、今でもその情景が思い出されます・・・。陣幕を開けて入られた堀様の姿を池田様は見つけるや、すぐさま立ち上がるや堀様に近づき肩を掴みながら「久太郎!!! わしは・・・わしは、殿の許におらなんだ事、これほど悔やんだ事はないぞ!! オッ オ オオオオ・・・・」 池田様は・・・辺りをはばからず男泣きされました・・・。それから、高山様やあの中川様までも堀様に近づいて「ご丁寧な、書状。本当に痛み入る。詳しい状況が掴めず不安であった我らの心の内をよく汲んでいただいた・・・感謝致す・・・」 お二人が感謝の言葉を堀様に述べる様子を陣幕の隙から覗いていた殿は私にこう申されました・・・「見よ、紀之介あの様子を・・・わしが堀殿を備中の陣からここに至るまで、あれほど心を砕いて丁重に堀殿を立てた理由が分かるであろうが・・・。上様からの上使だったというだけではないあの堀殿が持つ織田家中における影響力を恐れたからであるぞ。池田殿のあの様子を見たか?わしには用心して余分な口も開かずにおった池田殿が、堀殿を見るや、ああも自身の感情をさらけ出しておる・・・高山、中川の両名についてはわしが二人に我が軍勢に合流する条件として人質を寄越すように申したためわしには不満があるのであろうが、決して自らは声を掛けてはこぬ・・・それが、どうじゃ!堀殿、久太郎殿を見るや自ら足を運んで礼を言いにくるぐらいじゃ・・・いかに立ち位置が違うとはいえ、こうも態度に違いを見せられるとさすがのわしもこたえるわ・・・」と、申されました・・・。


『そんな事が・・・』


『はい。その後遅れて軍議所に入った丹羽様が池田様と泣きながら抱擁する様子の後ろで、陣幕の前で自分の場所を所在なさげに見回している信孝様に気づかれた堀様がさりげなく信孝様の腰かける場所まで誘う姿を見た殿はこうも、申されました・・・「さすがだのう・・・あの目配り・・・そして気配りよ・・・紀之介もよう見ておれ、あれが、上様が渾身に手塩に掛けて育てた人物ぞ・・・わしは、堀殿を少年の頃から見知っておったが、ここまでなるとは・・・。それにしてもよく信孝様を説得して富田までお連れあそばしてくれたわい・・・わしが下に付く事を渋って丹羽殿を困らせていた信孝様をどうやって口説いたのか? 明智を討つ上様の弔い合戦の旗印には織田家の血筋の方が何としても必要だったからのう・・・更にじゃ、丹羽殿が我が軍勢に合流するのがこの富田を集合地に決めた肝であった・・・織田家の次席家老である丹羽殿が合流すると聞けば他の織田家諸将達も敢えて謀反人の明智に味方する意味を失うであろうからのう・・・だが、わしがいくら書状を出しても腰を上げようせぬ信孝様を説得できずに困っておった丹羽殿を救ったのが、あの堀殿よ・・・。信孝様、丹羽殿が参陣できぬ事に焦りを抱いておったわしに、「私が、行って参りましょう」と、軽やかにその秀麗な顔で請け負うや、本当に今日、二人を伴なって戻ってきおった・・・」と、殿は私に感に堪えないといった表情でこぼされました・・・』


『・・・』


 そこで話しを止めた吉継は、往時を思い出したのか沈黙する堀の顔をちらりと一瞥するとまた語り始める。


『私は、その時殿にこう申し上げました・・・何ゆえに、ああも堀様は皆様から慕われておられるのでしょうか?・・・と』


『ふむ?』


『殿は、こう申されたのです。「それはな、紀之介。堀殿自身が持っている人柄、人格の良さはもちろんだが、織田家の諸将達にあれほど信頼され慕われるには堀殿の織田家においての立ち位置が影響しておる・・・上様に代わり、上使として諸将に上様の命令を言って聞かす役目・・・これは堀殿が上様の近習で御取次衆の役目を担っておるからであり、堀殿が上使として参られればわしどころか、あの柴田修理殿であっても上様に接するように応対しなければならぬ。そして、ここが肝要だが、上意を聞いた後に我らに何ゆえにこのような命令を上様より命じられたのかその理由や、この命令がどういった経緯でもたらせられたのか、上様からの書状だけではくみ取れない事情を堀殿は自らの主観も交えて分かりやすく説明してくれたのじゃ・・・これは主命を受ける我らにとってこの上もない情報でな、その説明も非常に的を得たものであってその後の我らの行動指針にどれだけ役立ったことか・・・そういった経験を織田家の諸将は多かれ少なかれしておりあの堀殿を信頼するに至ったとわしは思うておる・・・」と・・・。私はその話しを殿から聞いて、とても納得した次第でございます。そして、更に、更に! 殿は堀殿を称賛されたのです!』


『⁉』


『「圧巻であったのが、姫路に着いてからの堀殿の仕事の凄まじさよ!!」と、殿は私に少し興奮の面持ちで申されました。備中から姫路へ戻る道中でも堀様は上様が安芸への下向の折、利用される予定であった沼城を初めとする上様の御座所にあった糧食、武器弾薬の開放をすぐに御自らの命で行い、姫路に着いてはすぐに京坂の入り口に最も近い最後の御座所となる兵庫城に使いを出させました・・・「これは、上様からの上使である堀殿でなくては出来ぬ・・・わしが命じると越権行為になるからのう・・・」御座所の所有物は全て安土におわした上様の物・・・そうでしたね、堀様?』


『・・・いかにも』


『矢継ぎ早に書状をしたためる堀様の姿を凝視していた殿が惚れ惚れとした表情で申されたのです、「あれが上様のお傍で【添え状】をしたためておった堀殿の姿か・・・あの【添え状】がもたらす意味をよおく想像せよ紀之介・・・わしが、虚実まじえて出す書状に堀殿が【添え状】を付けることによって書状の貰い手が感じる信頼感が増えるのじゃぞ。特に後背定かでない摂津衆達が受ける感想についてじゃ、我が軍勢が姫路までもう戻っておるという事実をまさかと思いながらも堀殿の【添え状】が裏付けしてくれる・・・これがどれ程影響があったか・・・あの様子を見れば一目瞭然だわい・・・」殿の視線の先には談笑される高山様、中川様と堀様の姿がありました・・・。上様がお亡くなり情報も錯綜して疑心暗鬼の状態であった摂津衆のお二人にとって堀様からの【添え状】は一筋の光明であったに違いないと若輩ながらも私にもそう思えた次第にございます・・・。

「それにしても堀殿の【添え状】の持つ影響力の大きさよな・・・あの世の中を常に斜めに見て、口うるさい小六でさえ堀殿の【添え状】には絶賛しておった。あれは、去年? いや一昨年であったか・・・小六が初めて城持ちになった時の事じゃ、安土より上様から長水城の城主とする旨の公文書が小六の許に持たらせられた時に堀殿からの【添え状】も一緒に届けられたようでのう、その文面には上様がどういった経緯で小六を長水城の城主に指名したのかはもとより、今まで主将である藤吉郎への格別の勤めぶりを上様がことのほか褒め称えていたことも書きしたためてあったと小六は言っておったわ・・・まるでその情景が浮かぶほどであった・・・と・・・。そういったささやかな厚情の積み重ねが諸将の心を掴み今の姿の堀殿を・・・あのように慕われる人物にさせてしまったのであろう・・・まさに堀殿だけが持つ【書の力】だ・・・当の本人は気づいてはおらぬようだが・・・」』


『・・・羽柴殿がそのように思われておったとは・・・』


『はい、私も殿の御そばで堀様の様子を見てとても羨ましく思えました。その時からでございます!』


 吉継はそこで言葉を止め、堀を見つめると


『私は、その時から知らず知らず堀様の様子を羨望の眼差しで追うようになったのです!!!』


『いや羨望とは⁉・・これは、少し面映おもはゆいですぞ、大谷殿』


 堀は自分に対する憧れを無邪気に口にする吉継の若さに戸惑う・・・


『申し訳ございません! 自分だけが舞い上がって話しをしてしまいました・・・あっ! もうこんな場所まで・・・』


 堀との話しに夢中になりいつの間にか黒門の近くに居ることに気づき慌てる吉継であったが、気を取り直して堀に問いかける。


『堀様、最後にお聞きしたいことがあるのですが、宜しいでしょうか? 私が今日、堀様とお話しできる時間を心待ちしていたのは、この一点をお聞きしたいがためでもございます』


『自分がお答えできることであれば・・・』


『あ、ありがとうございまする!! 私が、お聞きしたかったのは、この地で行われたあの日の戦についていでございます』


『ふむ・・・』


『あの日雨の中、日没まで一刻ほどという時に先鋒を務める高山様の陣の左隣りに中川様が無理な陣移動をしようとしたため突如明智勢との戦が本格化してしまいました・・・当初、予定では翌日開戦との軍議で決まっておったのが突然開戦となり、その事でも本陣に詰めていた殿を含めた我らに動揺が走ったのです。殿など、何度も「瀬兵衛が、やりおった! 瀬兵衛がしでかした!!」と何度も連呼されたぐらいです。更に追い打ちをかけるように本陣の我らを不安にさせたのが先鋒の第三陣として街道に待機していた池田様の軍勢が突然街道から右端にその姿を消し、全軍川沿いの道無き道に移動してしまったことです。その状況に我が殿は絶句したまま、しばらく声も出ない有様でした・・・我が軍勢の先鋒を務める三つの部隊が横に広がったため黒門から通じる街道の空間がぽっかり空いてしまったのです。「中央が薄くなる!」と、皆がそう思ったその時でした。先鋒の後詰として急遽編成された堀様の軍勢が何事もなかったかのようにそのぽっかりと空いた空間を埋めるよう粛々と前進する様を見て殿は驚喜されました!!「あれを見よ!!堀殿が動く、動く!! 見よや、紀之介!!将たる者、ああでなくてはならぬ!!機を見て敏に動く!! 戦場全体の釣り合いを計りながら最善の行動を取る、あれが本当の良将よ!!!』と、絶賛されました・・・堀様?』


『何で、ありますかな大谷殿?』


『私がお聞きしたいというのはあの時、堀様はどんな御心待ちで戦場を眺めておられたのでしょうか? 突如の開戦、そして目の前に居た池田様の軍勢の突然の離脱、普通であれば狼狽する状況にもかかわらず遠くから見ていた私には堀様が動揺しているようには映りませんでしたので・・・ましてや、あの時分の堀様の置かれた状況です。軍監として来られていた堀様はわずかなご自身の兵しか伴っておらず、あの合戦では我が殿から与力として付けられた加勢の兵ばかりを指揮しておられました、それも急ごしらえの部隊です。勝手知った配下の兵でなく突然借り受けた他家の兵を率いる事に不安はなかったのでしょうか?更にはその借り受けた兵も騎乗の士分はともかく徒歩かちの兵達のほとんどは備中高松城からの大返しの疲労のためほとんど使い者にならない状態です。無論、我らが詰める本陣の兵も同じ状況でございましたが・・・そのような逆境の場面で堀様は、いかな心境で臨まれたのでしょうか?後学のためにも教えを乞う次第でございまする・・・』


 吉継は、そう言うと改めて堀に深く頭を下げるのであった・・・。















 
























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