第3話 プロローグ 小田原石垣山城跡地にて Scean 2

「奏司さん、ちょっと聞いていい?」


「うん?なんだい」


「奏司さんの話しだと、秀吉さんはQ太郎さんからの謀反に備えていたってことだけど・・・実際に、Q太郎さんと秀吉さんって仲が悪かったのかな?」


 透き通るような薄茶色の瞳で自分を見つめる悠の視線を受け止め奏司は答える。


「仲が悪かった?・・・そうだね・・・現代風な親しい関係とは言い難い・・・かな」


「うん?」


「良好な関係・・・うん、この言葉が一番フィットするね」


「良好な関係・・・?」


「仲が悪くもなく、かと言って特別に親しいという間でもない、けど・・・」


「けど?」


「お互いの存在に必要としあった間柄・・・関係だったんじゃないかな・・・」


「ふーん・・・じゃあ、ビジネスパートナーって、感じでいいの?」


「ああ! そう、その関係がしっくりくる! さすが、悠さんだ~」


「ウフフフ・・・それで私はQ太郎さんの事今日初めて知ったんだけど、どんな人となりだったのかしら? その時の天下人の秀吉さんに反抗できるような気概の持ち主だったの???」


 褒められて少し照れくさそうな仕草で尋ねる悠に奏司は一つ頷くと


「じゃあ、簡単に久太郎さんのプロフィールを話そうかな・・・んっと、その前に悠さん、せっかくの名物のマロンケーキが温くなっちゃいそうだからお食べになられたほうが良いかと・・・?」


「あっ! そうね!! じゃあ、いただきます!!!」


 目の前にあるケーキを上品に口元へ運ぶ悠を微笑ましく見つめながら奏司はゆっくりと口を開く。


「食べながらでいいから、聞いてね。それと久太郎さん対して全く先入観のない悠にしか頼めないから僕のお願い事をきいてもらいたい、いいかな?」


「お願い事?」


「僕の話を聞いてから彼、そう 久太郎さんのイメージ 印象を教えてくれないかな? 他人が受け取る初めての人物象って、なかなか知る機会がないから・・・特に情報過多の現代において、とっても貴重な感想なんだよ 僕にとってね・・・」


「謹んで、承りました 奏司さん。私の拙い感想が奏司さんのお役に立てればいくらでもお話ししましょう~~」


 悠は、目を大きくして少しおどけた表情で奏司に答える。


「久太郎さんこと、堀秀政は今の岐阜市で生を受けた・・・」


 奏司はそんな彼女からの視線をはずすようやや遠くを見るようにして記憶をたどりながら悠に語り始める。


「信長とは、19・・・秀吉とは、16・・・ぐらい歳の差があったんだ・・・」


「・・・」


 悠は黙ったままケーキを口元に運びながら聞いている・・・。


「一説によると、久太郎は信長に仕える以前に大津 何某・・・それから当時藤吉郎と呼ばれた秀吉に仕えていたという説もあるんだ・・・」


「・・・」


「それから13歳の時に信長の小姓として彼の側に仕えるようになると信長アカデミーと呼べるような執事衆養成の組織の一員に配属される・・・そう 確か本格的にそのアカデミーの様子が記されたのは南蛮からの宣教師が岐阜城下に布教の願いをするために新しく普請中の岐阜城を訪れた時の事を書き残した手紙だった・・・。その手紙 いや 手記とも言うのかな、そこには100人ぐらいの小姓達が集うていたと・・・。この信長アカデミーに入るには条件があってね誰でも良いという分けではなくてね、厳然とした採用ルールがあったんだ・・・フフフ・・・」


 思わせぶりな微笑みで悠の顔を見つめ直した奏司に


「どんなルール???」


 悠は可愛く語尾を口元を丸くして尋ねる。


「織田家の家臣の子弟は当然の事ながら、頭の良い機転の利く子 当時によく使われた言葉では利発な子であること。 更に信長にとって一番の条件であった、容姿が見目麗しい事!!! ハハハ、信長さんらしいだろ~~」


「あら!? ウフフフ・・・そうね~~~ と、いう事はQ太郎さんは美形だったのね?」


「と、いう事だろうなあ~」


「美形かあ・・・」


 奏司の言葉に妄想を膨らませる悠を見ながら彼は続ける。


「その後、アカデミーの中でも古株だった久太郎はメキメキと頭角を現し信長の小姓組の一員から執事衆・・・今風に言えば官僚のような立場かな、主である信長の命により16歳の時には織田家にとって大切なある現場の普請奉行にまでなってるんだ」


「普請奉行って、なあに?」


「ああ、現代風に言えば建設現場の最高責任者だよ」


「ええ!!!  16歳で!!!」


「うん、凄いよね。 その現場は当時将軍様だった足利義昭の仮住まいを建設する現場だったんだ、織田家にとっても頼ってきた時の将軍の仮住まいという事で対外的にも耳目が集まる現場だったから本当に苦労もあったよね・・・」


「何か・・・凄いというか・・・可哀想16歳でしょ・・・」


「それを命じた信長も信長だけど、その主の期待に立派に応えた久太郎も凄いと思うよ・・・」


「・・・」


「それからもね、織田家の公式家記とも呼べる信長公記にも久太郎はいろんな場所、部署で奉行職の一員として名を連ねてるんだ、その結果実績を積んだ彼は信長の側近衆の一員にまでに登用される。現代風に言い換えればエリート中のエリートってことかな」


「そうなんだ・・・」


「補足になるけど、久太郎の他にもエリート中のエリートの側近衆が何人も居てね、中でも菅谷長頼、矢部家定、万見重元、長谷川秀一、この四人も主人信長の苛烈なまでの登用試験をくぐり抜けて頭角を現してきた同僚達でね、お互い切磋琢磨しあった関係で非常に強い結びつきを持ってたんだと僕は考えてる」


「同じ釜の飯を食べた、同志ってことね~」


「そうそう、言い得て妙だねー」


「フッフーン~」


「その後、久太郎は今挙げた四人のうち誰かと組んで信長から命じられた仕事を仰せつかってるんだよ」


「ふーん、そうなんだ・・・」


「それにしても・・・」


 奏司はやや茫然とした表情で見るともなく視線を宙に漂わせる・・・。


「信長という人には驚かせられる・・・まあ・・・今さらなんだけど・・・」


「うん??」


「いやね、久太郎達みたいな家格もそう目立たない家臣の子弟を集めてエリート衆を育成する・・・いったい、誰に教わったのか・・・いや、自分で考え出したのかな・・・。確かに同時代の武田信玄も人材の重要性は認識していて自分の側に見込みのある小姓達を置いて教育していた節があるのだけど、その最たる者として信玄のお側付き時代は武藤喜兵衛と名乗っていた真田昌幸が有名だよね」


「真田昌幸って・・・えーと・・・真田信之、幸村さん兄弟のお父さん?」


「そう、二人の親父さん」


「へえー・・・武藤っていう名前だったんだ・・・」


「確か・・・信玄のお側衆達のことを・・・奥近習衆と呼ばれてたかな。その奥近習衆達の素性は地方の領主クラスの次男や三男といった身分でね、信長アカデミーに参加した久太郎達とは出自がだいぶん違ってるんだよ。よく言われる出自を問わず能力のある人物を登用する・・・信長さんは終始一貫してそれを貫き通した。当時の時代感覚では破格な感覚を持ってたと改めて驚かせられる・・・」


 悠は一人で感心している奏司を見つめながら日頃感じている驚きを口にする。


「私も、改めて驚かせられました。まあ、今さらなんですけど・・・」


「うん?悠もそう思うだろ?」


「違います」


「えっ、違うって・・・」


「私が改めて驚いてるのは信長さんの事でなく、奏司さん、あなたの事よ!」


「えっ!?」


九音奏司くおんそうじさん、あなたの職業は美術絵画のキュレーターさんですよね?」


「ま まあ 一応・・・そうです・・・はい・・・」


 急に話題が自分の事になり戸惑う奏司に悠は、優しい表情で微笑むと


「何でそんなに歴史に詳しいのかなぁ・・・て、感心してるの」


「そ そうかな・・・」


 居心地が悪そうな照れるような表情の奏司に悠は続ける。


「それも尊敬できるほど感心してるんだから。 今さらなんだけど、ずっと感じてた事を伝えたくて・・・」


「そう・・・ありがとう・・・」


「うん、私の気持ちを知ってもらえればそれでいいの。 では、Q太郎さんの紹介の続きをどうぞ」


「ああ、そうだね。その後、久太郎は文官としての仕事だけでなく武官としての仕事も主の信長から命じられるんだ。信長の執事になるには武の心得もなくては勤められないと、いったとこかな。信長公記によれば彼は織田家の一大ジェノサイド戦と呼ぶべき天正三年(1575年)越前の一向一揆討伐に参加を始めとしてから天正五年(1577年)の雑賀討伐のおりにはすでに一部隊を率いる将の役目を命じられてるんだよ。その翌年天正六年(1578年)には荒木村重の謀反による有岡城の戦いにおいては、さっき名前を挙げた久太郎の同僚達、菅谷長頼、万見重元と共に鉄砲隊を率いて・・・」


(ほんとうに・・・少年のように瞳をきらきらさせて話すよね奏司さんは・・・)


 悠は心の中でつぶやく・・・


(楽しいんだよね、歴史の話をすることが・・・)


 無邪気に語り掛ける奏司の顔を見つめながら悠はつぶやく・・・


(私は知ってるの・・・全国の名だたる美術館が催す特別展覧会の内覧会に招待されてコメントを求められ、展覧会の途中にもアドヴァイスを求められたり展覧会終了時のレビュー会議にも呼ばれて、時には入館人数が目標人数に達しなくて苦情を言われたり・・・最もその逆に入館人数が大幅に上回った場合には喜ばれることもあったんだろうけど・・・自分の好きな事を職業にする・・・とっても大変なんだってわかるもの私がそうだから・・・だから だから、仕事とは関係なく自分の好きな事をお話ししたり、その場所に訪れて感じる幸って大切なんだよね・・・私が仕事に行き詰って気持ちをリフレツシュさせたい時にいろんな場所を案内してくれる奏司さんにとても とっても感謝してます・・・)







               ☆☆☆☆





「Q太郎さんが、できる人物だったってことは奏司さんの話しからよく理解できたんだけど、秀吉さんはどうしてQ太郎さんのことをそんなに重要視したの?」


 悠はそう尋ねながら、食べ終えたケーキの受け皿を白色のトレイの上にフォークと一緒にきちんと揃えると手を合わせて小声でつぶやく。


「ご馳走様でした、うん、とってもおいしかった・・・」


 悠が満足そうな表情で奏司に質問をしたのは、奏司がかいつまんで堀の略歴を説明し終えた時である。


「たまたまQ太郎さんは信長さんが亡くなった時に秀吉さんの陣に居合わせてそのまま流れで山崎で光秀さんと戦ってその後も清洲会議では秀吉さんを支持して勝家さんとも戦うんだよね、その説明の中で奏司さんは何度も秀吉さんはQ太郎さんの存在を重視して、気を配ったって言ってたのが気になるの」


「えっ! そんなに何度も言ってたかな?」


「言ってた! 言ってました!!」


「ふーむ・・・」


 考え込む奏司を悠はじっと見つめる・・・。


「たぶん・・・悠と話しをしてるうちに秀吉と堀との間の関係を確信できたからかな・・・この石垣山城跡に実際に来て見て自分の憶測がけっこう正しいんじゃないかと知らず知らず意識してたのかもね・・・」


「秀吉さんとQ太郎さんの関係・・・???」


「うん・・・。秀吉はある時期までそれは、それは熱心に久太郎を取り込もうとしてたんだよ」


「・・・」


「特に本能寺の変後、山崎の合戦を経て清須会議を終えて勝家との賤ヶ岳の合戦までの過程ではそれは、それは涙ぐましい程にね・・・」


「そうだったんだ・・・」


「まあ・・・久太郎側にも打算があって秀吉に擦り寄ろうとしてたのも事実でね、彼が絶対的な主である信長亡き後、何のために自分の生を全うするか・・・彼の心情、信条を如実に現している歴史的事実がある・・・」


「何かしら?・・・その事実って・・・」


「歴史家や小説家達もあまり注目していないのだけど僕が特別注視したのが・・・清洲会議で彼 久太郎は三法師の守役を受けるんだよ、それも三法師の蔵入地の代官も兼ねてね・・・」


「三法師ちゃん! 秀信君ね!!!」


「うん、恐らく久太郎は秀吉に協力する見返りに三法師の守役の件を強く要望したんだろうって僕は想像してるんだ・・・」


「・・・」


「久太郎・・・堀 秀政は それ以降は三法師を心の中で唯一の忠誠の対象にしたと僕は・・・そう思ってる・・・」


「・・・」


「秀吉にとっても、久太郎の存在は大きくて特に備中高松城から光秀との山崎の戦いに至るまでの間、ある重要人物を自分の味方に引き入れさせるために久太郎を取り込む必要があったんだ」


「重要人物って?」


「五郎左こと 丹羽長秀・・・」


「丹羽長秀さん・・・?」


「悠は、この人の事 知ってた?」


「う・・・ん 名前は何となく・・・知ってたかも・・・」


「あははは、そう そうかあ・・・まあ、とっても地味な人だよ」


「とっても地味な人・・・」


「信長の家臣団の中でもあまり目立った活躍はしてないからね」


「ふむふむ」


「北陸方面軍総指揮官の柴田勝家、関東方面軍探題の滝川一益、中国方面軍総指揮官の羽柴秀吉、畿内方面軍総指揮官の明智光秀・・・この四人と長秀を合わせて信長晩年の時には五大重臣の一人だったんだ」


「ふーん・・・」


「信長家臣団の席次においても本能寺の変があった天正十年の時点では筆頭席次の柴田勝家に次いで次席の地位を認められててね」


「そんなに、凄い人だったの・・・ってことは秀吉さんや光秀さんより地位は上ってことだよね?」


「うん、そのとおり」


「でも・・・あまり・・・有名じゃ・・・ない かな?」


「そう、残念なことに彼は派手な戦績はないんだよ・・・でも 僕は彼の事 五郎左こと丹羽長秀のことがとっても好きなんだ 信長の家臣団の中で一番かな~」


「ええ! そんなに?」


「きらびやかさはないけど、朴訥に忠実に主君信長のために黙々と仕事をするその姿勢がとっても共感できるんだ・・・それと僕が長秀ファンとなった極めつけの理由があの信長さんが長秀を称して『長秀は友であり、兄弟である』とまで言わしめた逸話があるんだよ。それほど、信長に信頼されていた丹羽長秀さんのこと、悠は興味が湧かない?」


「信長さんに、そこまで言わせる人だったんだ長秀さんは~、少し興味が湧いてきたかしら。それでその長秀さんを秀吉さんは山崎の合戦に至るまでに味方に引き込むためにQ太郎さんを取り込む必要があったと、奏司さんは考えてるのよね?」


「そのとおり! 本能寺の変があった時、長秀は大坂にいたんだよ」


「大坂に!?」


「大坂滞在の直接目的は四国の長宗我部氏征伐の四国遠征軍の準備のためで、それと別の理由もあってね。京から堺見物に来る家康主従の一行をもてなす役目を信長から命じられてたからなんだ」


「ふーん・・・」


「ちなみに、京での家康さん達への饗応もてなし係りに長秀と久太郎は共に務めてたんだよ」


「へえー、長秀さんとQ太郎さんが一緒にね・・・」


「そこで悠からの問いへの答えだけど、光秀打倒のために旧織田家に影響が大きい長秀を味方に引き込むために秀吉は、長秀と仲が良かった久太郎から説得させるほうが適切だと考えた。そのために久太郎を自身の協力者として取り込む必要があったと、僕は考えているんだ・・・」


「ふむふむ・・・」


「長秀と久太郎は安土城において信長の奥向きの目立たない仕事をよく一緒に務めてた間柄でね、二人の歳の差は18ほどあったと思うけど歳の差はあっても仲の良い先輩、後輩の関係だったと思える・・・ひとつエピソードがあってね、フフフ・・・」


「えっ!、何? 何かしら その意味深な笑いは・・・」


「フフフ・・・これがとってもいいエピソードなんだけどね。同じ天正十年の甲州征伐 武田氏征伐遠征の出来事だけど長秀と久太郎はね信長からご褒美を直々に言い渡されてるんだよ」


「えー?そのご褒美って???」


「武田勝頼自害の報告を受けた信長は甲斐征伐の論功交渉を腹案を筆頭執事である菅屋長頼と打ち合わせをしている時に長頼から上州群馬にとても良い温泉があるらしいと報告を受けてね」


「菅屋長頼さんて、Q太郎さんの同僚だったって人?」


「そう、彼はこの当時信長さんの側近の中では一番の実力者」


「ふーん・・・そうだったのね」


「信長さんは、それでいい事を思いついたんだ」


「ふむふむ」


「後日、主に功のあった部下達を集めて論功行賞の場で直々に長秀さんに休暇を与えると命じたんだ。上州群馬の草津にとても良い温泉があると聞くから、五郎左、お前ちょっと休暇を与えるから骨休めをしてこい・・・と、ね」


「ええ~~草津温泉!!!、なんか、現代風な部下への労わり方ね!信長さん、素敵じゃない~~」


「でも、朴訥な五郎左こと長秀さんは自分はこの甲州武田征伐においては何の功も挙げてないのに褒美をもらう理由がないと休暇命令に対し不満そうな態度をとるんだ」


「あらら、長秀さんったら・・・」


「そんな不満そうな長秀を見た信長さんは、本当に困った奴だと思ったろうね。それで今のやり取りをニコニコと見ていた久太郎にも命じるんだ、お前も五郎左と一緒に草津の温泉に行ってこい ってね」


「へえーー」


「派手な戦働きができる戦場への仕事をさせずに我が奥向きの仕事を黙々と誠実に仕事をやり遂げてきた褒美だと長秀に告げたんだ。それで、久太郎に再度命ずる。お前には名湯と噂の高い草津の温泉郷を視察してこい、五郎左も説得して一緒にかの地に行ってくるように・・・とね」


「・・・それで、長秀さんは行ったの? 草津温泉に」


「ああ、実際に訪れたようだね。久太郎に説得されたのかどうかわからないけど、ハハハ」


「へえ・・・いいお話しだ・・・」


 頬を緩めてうれしそうに相槌をうつ悠を見ながら奏司は続ける。


「こんなエピソードから分かるように主君の信長から見ても長秀と久太郎は仲が良かったのが偲ばれるよね、頑固者の長秀さんを久太郎なら説得できると思ってた訳だから」


「そうね・・・長秀さんとQ太郎さんは仲良しだったんだ」


「話を元に戻すと、長秀がそんな親しいな関係だった久太郎を、光秀との決戦の前に織田家の次席家老である長秀を味方につけたいと考えた秀吉にとっては何が何でも取り込もうとするのは必然だったんだよ」


「なるほど・・・」


「山崎の合戦後、清洲会議を経て柴田勝家との決戦を迎えるまでの間においても長秀を自分の見方に引き入れ続けたい秀吉は、彼と昵懇な久太郎に対して気を配る必要があったんだ・・・」


「そういう理由だったんだぁ・・・」


「これは・・・あくまでも僕個人の私見なんだけど・・・」


「うん・・・」


「久太郎にとって、長秀の存在は・・・年配の同志だったと・・・」


「同志・・・?」


「うん、絶対的な忠誠の対象であった信長亡き後その忠誠の対象を三法師に見出してその三法師を守り立てて共に織田家を支えようとする同じ考えを持った同志だったとね・・・」


「・・・」


「二人が三法師のために良かれ、織田家のために良かれと考えて手を組んだ秀吉が予想に反して力を増してゆく・・・次第に強まってゆく秀吉の影響力の大きさに二人は驚愕し、時には呆然としながら事の推移を見守るしかなかった・・・そこには二人にしか分からないジレンマ、今で言うストレスが凄くあったと思う・・・」


「そっかぁ・・・奏司さん聞いていい?」


「うん?」


「Q太郎さんにとって大切な存在だった人物・・・長秀さんはその後どうなったのかしら? ここ 小田原征伐には参加してたのかな?」


「いや、長秀はずいぶん前に亡くなってるんだよ」


「ええ!?」


「小田原征伐のちょうど5年前に亡くなってる・・・」


「5年前って・・・」


「悠が知ってた小牧・長久手の合戦の翌年の春四月にね・・・」


「そんなに早くに・・・」


「長秀の晩年はこんなはずではなかった・・・という失意の期間だったかもしれないね・・・。小牧・長久手の合戦が終結した同じ年に秀吉は小牧・長久手での合戦相手だった信雄に織田家の家督相続を認めてしまう事があったんだ。まあ、和睦のための政治的配慮ってやつかな・・・。この決定には三法師を守り立てて織田家を支えようと考えていた長秀や久太郎にとって相当なショックだったと僕は思う。清洲会議を経て柴田勝家との決戦において秀吉に協力する理由として二人は清洲会議の決定を秀吉が守ると約束したに違いないからね・・・。それどころか、信雄に織田家の家督を相続させるにあたって秀吉はこの時点でもう独断で決めてるんだよ・・・長秀は呆然としたろうね・・・」


「そんなことがあったのね・・・」


「久太郎は・・・長秀が他界してからのここ小田原征伐までの五年の間どんな気持ちで過ごしてきたんだろう・・・」


「うん・・・」


「ついでに悠に補足説明させてもらうと、久太郎は小田原征伐の折、この地で亡くなるんだよ・・・」


「え!!! そんなぁ・・・」


 何故か、久太郎に感情移入してるような悠の姿を奏司は優しく見つめながら誘う。


「実は、久太郎のお墓がこの石垣山城跡地からほんの近くの海蔵寺にあるんだけど、悠 一緒に行ってみるかい?」


「えっ!! そうなの!! 行きます、 行きましょう!!!」

















































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