メリーさん、世界を巡る~ニューヨーク編~

トカゲ

私メリーさん、友達に会いに行くの


 「私の名前はメリーさん。意思を持った呪いの人形なの」


 都市伝説で有名なメリーさんはとても人間臭かった。というか、人間にしか見えない。身長は80cmくらい。セミロングの金髪と人形の様に大きな目が特徴の美幼女だ。スマホを片手に彼女は歩く。画面には人気のソシャゲが表示されていた。


 しかし、彼女は間違いなくメリーさんだ。呪いの人形、持ち主に捨てられた廃棄物だ。でも、彼女は他のメリーさんとは少し違う。


 【復讐を終えて受肉を果たした世界最古のメリーさん】


 それが彼女だ。メリーさんだ。

 車より速く走る脚力と熊をも退ける腕力、そして念動力と分身能力。

 不老不死の闇の眷属……そんな彼女は今、ニューヨークに来ていた。


・・・


 「私メリーさん、暑いのが嫌いなの。」


 メリーさんは3人に分身しながら某有名アイドルのダンスを踊っていた。空港で行われたソレは、周囲にいた旅行者にウケて大量のお金が手前の空き缶に放り込まれていく。メリーさんはそれを見て満足げだ。

 都市伝説だろうが闇の眷属だろうが人間の世界で生きていくにはお金は必要だ。スマホの利用料だって払わないといけないので。


 「こんなものかしら」


 1時間程観客の要望に応えて荒稼ぎしたメリーさんは後ろで音楽を奏でていたラジカセを止めるとその場を後にした。途中、アイドル事務所のマネージャーとかいう人が土下座して事務所に入ってくれとか言ってきたが、それを鼻で笑ってメリーさんは空港の外に出る。


 強い日差しに顔を曇らせながらもメリーさんは目的の場所に向かって歩き出した。向かう先はオカルト博物館だ。そこに待ち合わせの相手はいる。


 「アナベル、久しぶり!」


 アナベルと呼ばれた人形は膝を抱えて俯いている。何やら落ち込んでいるようだ。


 「どうしたのアナベル?」

 「なんか、私のモチーフ映画がまた制作されたみたいなの……」


 メリーはお土産の柿の種を渡しながらアナベルの話を聞くことした。


 「良い事じゃない。これお土産」

 「ありがと。でも、またホラーなのよね」


 アナベルはこの博物館で生活している生き人形だ。

 呪いの人形として有名な彼女だが、本当は呪われていない。只の生き人形で、悪魔から持ち主を守った結果、全部アナベルのせいと勘違いされて呪いの人形判定を受けてしまった哀れな人形である。


 メリーさんよりも若く力もない彼女はそこまで自由に動くことは出来ない。体も人形のままだ。しかし、映画で知名度が上がれば受肉するかもしれない。それはとても喜ばしい事だとメリーさんは思った。


 「ホラーだって良いじゃない。知名度が上がればあなたも受肉するかもしれないわよ? そうすれば自由じゃないの」

 「ホラーな見た目の受肉は嫌なのよね」


 都市伝説や空想生物、妖怪が受肉する場合、その時の共通認識を元に受肉する事が多い。メリーさんが金髪幼女なのは、日本アニメの影響だが、アナベルは不気味な洋画ホラーでしか登場していない。アナベルが憂鬱になるのも頷ける。


 「もうね、今回の映画も呪いの人形感全開なのよね、どうしよう」

 「それはもうしょうがないんじゃない?」

 「やだやだやだやだ! 私も可愛い服とか着たい! チヤホヤされたい!」

 「知らんがな」

 「他人事だと思って……」

 「他人事だし」


 不憫に思ったメリーさんは萌えキャラ版アナベルをデザインしてネットに拡散したが、画力が低すぎて不気味さが増していたので意味がなかった。後日アナベルの悲痛な声が博物館に響いたとかなんとか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

メリーさん、世界を巡る~ニューヨーク編~ トカゲ @iguana

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る