「頼むから…」

低迷アクション

第1話



「俺は霊が視えるとかって言う奴を絶対信じないよ。旅先の滝とか撮って

“霊が写った、ほら、ここ見える?”なんて、スマホを振り回す輩はな。」


そう喋る友人の“T”が、学生時代の話だ。

ゼミ仲間で車を借り、1週間のドライブ旅行をした。


その最後の夜、運転をするTの友人の“S”が少し寄り道をしていこうと、皆に提案した。


Sはいわゆる“視える人”を自称しており、授業やゼミ中にも、その特性(?)を

披露していた。Tは全く信じていなかった


だから、眠気覚ましくらいの気持ちで車を向かわせることにした。


道を変えて30分程経った辺りで、目的の“家”が見えてきた。

Sの話によれば、ここに住んでいた家族の父親が突然発狂し、深夜、嫌がる妻と娘、

自らにガソリンをかけ、焼身自殺をした。


事件後、借り手がつかない家はそのまま残される。ここからは

定番、無人の家の窓に黒い影が映るや、夜中に悲鳴が聞こえるなどの話だ。


問題の家の前に車を止めたTは、路駐の心配もあるため、自分は車に残り、Sと友人達だけを家に向かわせた。スマホのライトを持って玄関前に立った彼等はしばらく、そこで何かを

いじるような様子を見せていたが、諦めたように、こちらを振り返り、肩を竦めてみせた。


当たり前と言えば当たり前だが、管理会社がしっかり施錠をしていたらしい。だが、Tは

それ所ではなかった…


初めは黒い靄のようなモノだったと言う。S達の後ろからチラチラ見えていたそれは

彼等が玄関から移動するにあたって、ハッキリと黒い人間の形と認識できるような形に

なった。


酔っぱらったようにふらつくそれは、S達を追いかけるように、

両手を突き出し、左に右にと揺れながら、彼等を追いかけ始める。


「オイッ!早く戻ってこい」


慌てたTの声に、友人、勿論Sも振り返り、後ろを確認した。だが、何の反応もない。

頭を前後に振った黒い影が眼前に迫っているというのにだ。


「何、お前っ?俺達担いでるの~?そしたら、もっとうまくやらなきゃダメじゃん!

なぁっ、オイ?アハハーッ!」


笑うSのすぐ後ろで、振り過ぎた黒い頭がゆっくりもげ、顔に覆い被さる。それに続き、

黒い全身がSの体に崩れ溶け込んでいく。Tは思わず口を押さえた。


「頼むから、視えててくれよ。ホントに頼むからさ…」


彼の呟きは車に乗り込んでくるS達によって、遮られた。帰り道、はしゃぐSは

発作に近い咳をしきりに繰り返していた。


TはSとそれ以降会っていない…(終)

 

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「頼むから…」 低迷アクション @0516001a

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