(二)繋がる想いは②

 今回の事件を引き起こしたガドゥーイはうつむいてはいるが、反省の色も無く不満そうな表情を浮かべている。

 貴族とは所詮こんなものか。興醒めする出来事に、国王が同じ部屋に居るにも関わらずギリューネクは蔑むような目でヴァンシュタイン侯爵を見た。

「息子は罪人として、いかようにも処分して下さって構いません。この時を以って、この愚者を侯爵家より除籍いたしますが、それでヴァンシュタイン家の罪が消えるわけでは御座いません。甘んじて処罰を受け入れさせて頂きます」

 その言葉にさすがのガドゥーイも慌てた様子を見せるが、縛られているうえ国王の前だけに暴れる事もできない。


 出来の悪い息子を切り捨て家名を守るのは当然だろうが、どこまで本心だろうか。

 宰相として今後の裁定にも加わるのは確実なだけに、メッサーハイト公爵は厳しい目を向ける。

 その横で、デラネトゥス公爵は呆れたように大きくため息をついた。

「陛下の御前だが、ついでなので言わせて頂く。先程、長女から聞いた話だ。そこの男は拉致とは別に、恨みからかは知れぬが我が娘に対し、以前から呪詛を行っていた疑いがある、との事だ」

「な……! 何を根拠に……」

 謝罪して上手く終わらせようとしていたところに、デラネトゥス公爵から追い打ちをかけるような言葉が発せられ、ヴァンシュタイン侯爵は狼狽する。

「我が娘、ルベーゼは対外的には病が快癒せず外出を控えている事になっている。いや、我が家としてもそうだと思っていたのだが、最近になって呪詛が原因であると判明した。だが、それが判明した後も呪詛については公にはして来なかった」

 娘が呪詛を受けるような恨みを買っているとすれば、良くない噂が立ちかねない。それは貴族の令嬢としては不名誉な事だ。言外にそう伝えるのを誰もが理解している。

「……にも関わらず、そこの男はわが娘の体調が悪いのは呪詛が原因だと言い切った。これを証拠だと言っても過言ではありますまい。今回の事件があっても無関係と言えますかな?」

 デラネトゥス公爵の言葉を聞き、ヴァンシュタイン侯爵は愚息を睨みつけた。翻って、助けを求めるように国王と宰相に視線を向ける。

 だが、その反応は厳しいものだった。

「今回の事件と併せ、ヴァンシュタイン家の領地と屋敷および、王都別邸への査察を実施致します。本日は貴家には晩餐会よりの退出を命じますが、証拠隠滅をされても困るので全員王宮に留まって頂く」

 メッサーハイト公爵は宰相として冷たく突き放すように言い切った。


 それはデラネトゥス公爵の言い分を全て受け止める内容。あまりの事にヴァンシュタイン侯爵は愕然とし、がっくりと肩を落としてうな垂れた。

 息子の件ならともかく、表にできないような書類でも発見されてしまえば、侯爵家自体の罪になりかねないとでも思っているのか。メッサーハイト公爵は冷めた目で見ていた。

 実際にも、以前より良くない噂を耳に挟む事が多かった家だけに、大義名分を得て細かく調べる事になるだろう。だが、今回の件に絡むこと以外で、処罰することに対し、国王が首を縦に振るとは限らない。

 黒だけでなく、灰色な家をも消し去りたいメッサーハイト公爵と、やや慎重な国王ではやはり温度差がある。


 ヴァンシュタインの二人が近衛に預けられて退出した後、デラネトゥス公爵はランドルフとギリューネクに向かって頭を下げた。

「貴下の団にて我が娘を助けて頂いたとの事、心より御礼を……」

「公爵閣下、私は何もしておりません。当事者は今、リファール殿下のご要望によりご令嬢と共に別の所に居ります」

 公爵の言葉を制するように、ランドルフは言った。

「恥ずかしながら、私などは出て来るのが遅いと、その者に怒られた程です」

「なんと?」

 デラネトゥス公爵が首を傾げた直後、今まで黙っていたナスターク侯爵が笑い出した。

「殿下と知己であり、デラネトゥス家のご令嬢と一緒に居ても支障が出ない、という事は……当事者とは彼女ですか」

「ああ……」

 メッサーハイト公爵が釣られるように笑い出す。

 それを見たデラネトゥス公爵は眉間にしわを寄せ、僅かに首を傾げた。王子と知己というのは分からないが、それ以外では思い当たる人物がいる。

「ん……彼女……? 確か先程エラゼルが呼ばれたのは……」

 二人が笑い出した理由を悟ったデラネトゥス公爵は、先程までの怒りはどこへやら、国王を置き去りにして、嬉しそうに笑い出した。

「我が家は益々彼女には頭が上がらなくなったという事か……」

 デラネトゥス公爵は己の額をぴしゃりと叩いて、笑いながら天を仰いだ。

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