(一)ギルド②

 ギルドの前を通り過ぎ、荷物を持ったまま食堂へ向かう。

 ところが選んだ場所が悪かった。匂いに釣られ、ギルドの近くにある酒場に立ち寄ったのだが、そこは荒くれ冒険者のたまり場だった。

 まだ陽も沈みきっておらず、周囲の建物も赤く染まる頃合だというのに、店内は喧騒包まれている。酒に酔った冒険者たちが戦果を自慢しあっていた。

 先導したシェラは踏み入れた足を戻し、扉を閉める。運良く、その事に誰も気付かなかったようで、胸をなでおろす。


「嬢ちゃんたち、入らねぇんならどきな」

 大きな斧を担いだ男が扉の前に立っていたシェラを睨む。

「あ、ごめんなさい」

 勢いに圧され、すぐに避ける。

「なんだ、一端に剣なんか持って。そんな貧弱なのに冒険者気取りか? やめとけやめとけ」

 シェラが腰に下げていた剣を見つけたのか、大声でからかうと男は笑いながら店の中へ消えていった。

「なんだあの態度は」

 エラゼルが憤る。

「ホレホレ、店の前で邪魔だぜ、綺麗な嬢ちゃん達。何なら俺たちと一緒に飲むか? そんな坊や達と一緒よりいいと思うがな」

 先程の男の仲間だろうか。続いてやってきた男たちがエラゼルに近寄る。

「いきなりその物言い無礼ではないか!」

「無礼だぁ? 気取りやがって。ちょいと痛い目見せれば大人しくなるか……」

 男がエラゼルに手を伸ばした瞬間、その手は弾かれた。

「余計な真似をするな。痛い目を見るのはそちらだ……」

 進み出たのはフォルテシアだった。男を睨みつけ、いつでも剣を抜く構えを見せている。男も反射的に武器に手をかける。

「フォルテシア、街中だからやめておいて」

 ラーソルバールがフォルテシアの腕を押さえて間に立つ。

「なんだ、お前さんが相手になるって……ん……」

 無言で睨み威圧するラーソルバールに気圧され、男はたまらず半歩退がる。後ろの男達も近寄れず、固まったままとなった。

「このような往来では何ですので、ご不満があるようでしたら明日伺います。我々は朝、ギルドに顔を出しますので、その時にでもどうぞ」

「お、おう! 明日、きっちりカタつけてやる」

 虚勢を張っているのが分かる程に、男はうろたえる。

「良かったな、この黒髪の娘が静止されずに剣を抜いていたら、お主らただでは済まなかったぞ」

 エラゼルが引き下がる男達に皮肉を投げかけた。後ろに立っていたシェラが、せっかく収まった騒動に、また火を点けるつもりかと苦笑する。当然、騒動になったところで危険なのは向こうだと分かっているから何も言わないのだが。

「ち、気分わりぃな。さっさと酒にしようぜ」

 視線に射すくめられたのか、男達はどこか怪しい足取りで、扉の前に移動する。威勢の良かった男も、慌たのか震えた手がドアの取っ手を掴み損ねた。二度目で取っ手を掴むと、逃げるように店内に駆け込んでいった。


「さ、別のところで食べて今日はゆっくり寝よう」

 ふっと力を抜き、いつものように戻ったラーソルバールは、仲間達に笑顔を向ける。が、次の瞬間にはエラゼルを睨み付けた。

「あと、エラゼルは余裕持ちすぎ!」

 小言も忘れていなかった。

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