第二十章 真実と虚構の存在
(一)ギルド①
(一)
シルネリアへの道中は順調だった。
治安は比較的良いと聞いていたが、それを裏付ける格好になった。
シルネリアは平野にある小国家で、馬車から見える風景は草か木ばかりで代わり映えしない。遠くにヴァストール国内の山が微かに見える程度だ。時折草食動物を見かけ、目を楽しませてくれるが、馬車から降りて眺める事もなく、ただ通りすぎるだけでしかない。
「シルネリアは楽しみだけど、風景に何も変化がないとつまらないな」
モルアールが一同の気持ちを代弁する。
「もう少し行くと川が有ります。そこで休憩にしましょうか」
御者の提案に賛同しない者は居なかった。
「モゴ……そこで昼食にするか」
「エラゼル、結構お菓子食べてる気がするけど、食事が入る余裕が有るの?」
「ウチのメイドから聞いたのだが、菓子は別腹という胃袋に入るのだそうだ」
そんな胃袋はない、と言いたくて、シェラはウズウズする。
「食べ過ぎっ!」
「あイタッ!」
またひと粒、口に放り込もうとしたエラゼルの頭に、ラーソルバールの手刀が叩き込まれる。エラゼルは頭をさすりながら、反抗的な表情を浮かべた後、しょげた。
「この位の楽しみが有っても良いではないか……」
文句を言いつつ、ラーソルバールに隠れて手に持っていた物をこっそり食べた。
この日の夕方、ようやく目的地のひとつ、シルネラの首都シルネリアに到着した。とは言え、先々の日程を考えるとここでゆっくりしている暇はない。早々にギルドを訪れ、正式な手続きを行わなくてはならない。
シルネリアに入る際も偽名は使わず、正式な書類で許可を得ることができた。
「どうする?」
到着時間を考えると、今からギルドで手続きを行っていては遅くなる。
「出発は明後日にして、明日かね?」
現実的な提案をする。というのは建前で、シェラとしてはこの街を少々観光したかった。馬車の移動ばかりで息抜きがしたくなった、という事に他ならない。
乗り合い馬車の寄合に到着すると、一行は御者に礼と別れの挨拶をする。シルネラの冒険者に偽装する以上、帝国への馬車はシルネラ所属のものでなくてはならない。
「ここまで、有難うございました。またエイルディアでお会いしましょう」
「ああ、皆さん気を付けてな」
御者は穏和そうな性格が良く分かる、優しい笑顔で別れを惜しんだ。
宿を二泊の予定で押さえると、早々に買い出しに出る。何か有っても即時に対応できるよう、準備だけは整える必要がある。そう思い、気が張った状態で居ると美しいこの街も堅苦しく感じてしまう。
翌日に迷わぬよう買い物をしながら、ギルドがある場所を探す。
「ああ、これだね」
持ってきた地図に記された通りの場所で、ギルドの記載がある看板を見つけた。建物自体は想像していたよりも大きく、王都エイルディアのものと比べても遜色無いものだった。
窓から中を覗いたシェラが振り返ると、眉間に皺を寄せていた。
「どうかした?」
フォルテシアが首を傾げる。
「怖そうなおじさんがいっぱいだよ」
冒険者と呼ばれる人々は彼らは己の腕で力で怪物や獣を倒し、日々の糧を得ている。言うなれば腕さえあれば生きていける訳で、定職には就けないが盗賊にまで身を落とす気が無い荒くれ者達が、ここに流れ着くことが多い。無論、シェラの言うような怖い存在ばかりではない。
「王都も変わらないよ」
ラーソルバールは苦笑した。
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