(四)職人の想い①

(四)


 老社長に言われるがまま、教えられた店へと向かう一行。重たい荷物を持って、大通りを跨いだ反対側の裏路地を進む。

「何か、付き合わせちゃってゴメンね」

 ラーソルバールは歩きながら、謝罪の言葉を口にする。自分の剣の為に、皆を付き合わせていると思うと、申し訳なさで一杯になる。

「いや、武器は自分の命を預けるもの。納得した物であるべきだ」

 エラゼルは気にする様子はない。

「実際に旅に出たら、これよりも重い荷物を持って動き回る訳だし、へこたれてたら、明日以降困るでしょ。何をどうすれば良いかを、考えるいい機会だと思えば、何ともないよ」

 何となくトゲがある言い回しに聞こえなくも無い。シェラらしい言葉だった。

「あれ、何か見覚えがあるな、この辺り」

 脳裏にあった記憶が蘇る。

「確か、この辺りのはず……」

 ラーソルバールが周囲を見回すと『ヴォルッセン工房』と書かれた小さな木板の看板が掛かった、目立たない店があった。

「ああ、ここだ」

 父に連れてこられた記憶が蘇る。まともに体の動かない父と、馬車でやって来たのは何年前だったか。

 懐かしい記憶と共に、店の扉を開ける。

「いらっしゃい…」

 父と同年代くらいの女性が出迎えてくれた。この人が老社長の言っていた、ヴォルッセンさんの娘さんだろうか。

「何かお探しで?」

 何から言えば良いか考えているうちに、女性に先を越された。

「ああ、ええと、剣を…」

 戸惑い気味に答えたので、後ろからフォルテシアの笑い声が聞こえた。

「珍しいね、こんな店にお嬢さんのお客さんだなんて……。でも、今ここにある物しか無いよ」

「そうですか……では、見せていただきます」

 ラーソルバールは良い言葉が思い当たらず、小さく答えた。

「悪いね、何人も居るのに狭い店で」

「いえ…」

「何でまたウチみたいな店に?」

 不思議そうに女性は首を傾げた。

「良い剣が無くて、『鉄鉱石』の社長にこちらに行くように言われたんです」

「あの社長が? どういう事だい?」

「愛用のこの剣に彫られた銘を見て、もしかしたらここならと」

 自らの剣を抜いて渡す。

「これ、父の作った物なのかい?」

 父と言うからには、この人が今の店主なのだろう。

「そうらしいです。確かに、何年か前…五年前…? 父に連れてこられて、ここで受け取った記憶が有ります」

 記憶の糸を手繰ると、初めて渡された本物の剣に、大喜びした事を思い出した。

「五年前か。子供に持たせるにしちゃ、しっかりとした物を作ったね。貴女、名前は?」

「ラーソルバール・ミルエルシです」

「ミルエルシ? ああ、あんた、クレストさんとリゼリアの娘かい?」

「え、ええ…。母をご存知なので?」

「ああ、私はリゼリアの幼馴染みさ。……うん、確かに、あの娘に良く似てる…。だから父もこんな物を作ったんだね」

 嬉しそうに染々と語る女店主。その瞳はラーソルバールに、かつての幼馴染みの姿を重ねているのだろうか。

 母の事を知っているなら、色々と聞きたい事が有るのだが、それは今日はお預けだ。ラーソルバールは出かかった言葉を飲み込んだ。

「………ああ、思い出したよ、クレストさんから、この剣を渡されて大喜びしてた子が居たね!」

 女店主はその日の事を思い出したのか、ラーソルバールの顔を見て笑った。

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