(四)職人の想い②

 女店主の勢いに押されていたラーソルバールだったが、時間も無いので店内の品を見ようと手元にあった剣を手に取る。どれも洗練されていて、見事な出来のものだった。立地と目立たない外観が、この店の売り上げの邪魔をしているのだろう。

「あ! ちょっと待ってて!」

 女店主は何かを思い出したように、背を向けると、店の奥へと消えていった。

 一行はラーソルバールと視線を合わせると苦笑いで返した。


「ええと、何処にやったっけ?」

 奥から何かを漁る物音と、声だけが聞こえてくる。しばらく続いた探し物は、大きな声と共に終わりを告げる。

「あったあった!」

 何やら長細い箱を抱えて女店主が戻ってきた。

「これ、貴女用の剣よ」

「私…ですか…?」

 差し出された箱を受け取るが、中身が剣だけにずしりと重い。

「父はクレストさんの剣の腕をいつも誉めていたのよ。だから娘の貴女も、きっといい剣の使い手になるに違いないって。最初の剣を卒業したら渡すんだ、って言って嬉しそうに作ってたものよ」

「私の為に、ですか?」

「そう、直接渡せずに死んじゃったけどね……去年の今頃かなぁ? ……あ、それ、開けてみて」

 言われるまま箱の蓋を開き、中に入っていた布の包みを解く。すると、布袋の中から鞘に納められた剣が出てきた。柄も鞘も質素な色合いだが、質感は別格だった。柄を握ってみると、何故かしっくりくる。

「抜いてみていいですか?」

「どうぞ、貴女の為のものだし」

 女店主は満面の笑みを浮かべる。

 持ち上げてみると、今のものよりも重量感が有るものの、しっかりとした作りだと分かる。留め具を外し、鞘から少し抜いてみると、刀身の出来も何段も上の仕上がりで驚いた。

 ラーソルバールは好奇に任せ、鞘から全て抜き放つと剣の全容が明らかになる。今の剣と同じく片刃だが、長剣程の長さがある。箱の中で眠っていた割には、一切の錆びも無く、ラーソルバールは見た瞬間に魅せられた。


 やや青白く発光する剣身に手をかざすと、僅かに魔力を感じる。何かの魔法が付加されているのだろう。

「何か魔法を付加してたみたいなんだけどね、私には分からないよ。機会があったら、分かる人に見てもらいな」

「はい……。その……これはおいくらでしょうか?」

「さあねえ、父がどうするつもりだったか、私には分からないからね」

 女主人は苦笑いすると、顎に手を当てて首を傾げる。

「では、金貨二十枚くらいで足りますか? 他のお店ならそれくらいは…」

「な、何を言ってるんだい、そんな金額貰う訳にはいかないよ。それに貴女、そんなお金どこに………あ!」

 女主人は何かを思い出したように声を上げると、そのまま固まった。

 少しの間の後、口を開けたまま、ラーソルバールをゆっくりと指差す。

「さ……宰相…様を暗殺から救った女の子が、準男爵になったって噂で聞いていたけど……あの、ミルエルシ…って、あなた?」

「はぁ……」

 頬を赤く染め、恥ずかしそうに縮こまりながら、小さな声で答える。

「じゃあ、お祝いだ。そんな人からお金は貰えない! きっと父ならそう言うよ」

「いえ、駄目です! 受け取ってください。受け取っていただいて……今度……」

「ん?」

 ラーソルバールが言い淀んだので、女主人は、顔を近づける。

「今度…母の話を聞かせてください」

 小さな声で、そう嘆願した。

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