(一)報せ②

「グランザーさんに、ひとつお聞きしたい事が有るのですが」

「答えられる話であれば…」

 グランザーが身構える。


「前の動乱で処罰対象となった貴族についてなのですが…」

 ラーソルバールの言葉に、眉をしかめる。

「随分と答えにくそうな話だな」

「……。フォンドラーク男爵は捕縛されたのでしょうか?」

 グランザーは一瞬、動きを止める。

「公爵ではなく、コーフィスト・フォンドラーク男爵の方か?」

「…はい、父の友人で、その息子は私の幼馴染なんです」

 その言葉にグランザーの表情は一層厳しいものになる。

 だが、ラーソルバールの悲痛な表情を見て、大きくため息をつく。

「あまり大きな声で言わない方がいい。君とて、要らぬ嫌疑をかけられる」

「はい……。すみません…」

 ラーソルバールはうなだれて、肩を落とした。

「とはいえ、フォンドラーク男爵は、私のかつての上司でもあった。実直で部下思いの素晴らしい人だったよ…。私もああなりたいと思ったものだ。今回はその実直さが災いして、本家の要請を断れなかったのだろう……。今……、あの人は牢に居る」

 感情を押し殺すようにしながらも、どこか寂しそうに語る。かつて敬愛していただろう上司の置かれた状況に、やり場の無い怒りを抱えているのかもしれない。

 その表情に、ラーソルバールは一瞬言葉を続けるのをためらった。

 だが、聞かない訳にはいかない。


「………今回の一件、妻子にはどのような処罰が?」

 震えながら小さい声で、問いかける。

「基本的に奥方も禁固刑などの処罰が下される。子息、息女は十歳未満であれば罪に問われない。それ以上であれば、やはり禁固刑だろう。反乱に加担した度合いによっては、その刑も重くなる」

「で……では、男爵のご家族は……?」

「奥方は牢に。息子は現在行方不明だ。逃亡中と思われる。国内に潜伏しているのか、国外に逃れたかは分かっていない」

 ラーソルバールは拳をぎゅっと握り、服の裾を掴んだ。

 涙が頬を伝う。

「アル兄……」

 微かな声で、幼馴染の名を呟く。

 今、どこで何をしているのか。エフィアナを連れて逃げているに違いない。

 元のように、笑って会える立場ではなくなってしまったという事を、この時になって、ようやく思い知らされた。


 現実を突きつけられ、落ち込むラーソルバールを見かねたエラゼルが、その肩を抱き寄せる。

「答えなど分かっていたのだろう」

「それでも……」

「それでも、生きていればまた会えるではないか」

 エラゼルが諭すように、暖かく優しく語り掛ける。

「………うん…」

 グランザーは咳払いをして、再び口を開く。

「他にも逃亡している者は居る。先程の話に繋がるが、我が国の情報を持って国外に出られるのは非常に困る」

「ふむ。帝国に情報が筒抜けになりかねんか。国内に協力者を残していれば、我が国は丸裸だ……。それ故に情報を売って生き延びようとする者も居るだろうな」

 お手上げといった様子でエラゼルは天井を仰ぐ。

「やれやれ、明るい話が何も無いな、我が国は」

「我々なりに善処するしかないという事か。頼みの準男爵殿もこの調子だしな…」

 エラゼルとグランザーは顔を見合わせ、苦笑いするしかなかった。

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