第十八章 旅立ちは報せとともに

(一)報せ①

(一)


 騎士学校で二年生としての初日を迎える前日、ラーソルバールの元にある報せが舞い込んでくる。

 春の僅かな休暇の最終日であり、例のごとく暇を持て余したエラゼルが、部屋に押し掛けてきて居た時だった。

 来客があり、寮の応接室まで来るようにと呼び出された。勿論、エラゼルも何事かと応接室の入口までついてきた。


 ラーソルバールが応接室のドアを軽く叩いて開けると、室内のソファには見知った人物が座っていた。

「グランザーさん!」

「やあ、お二人さん揃って」

 グランザーは二人に笑顔を向ける。

「先日来たばかりなんだがな…。実を言うと今回もいい話じゃぁ無い」

「と、仰いますと?」

 ソファに腰掛けつつ尋ねる。

 エラゼルも相手がグランザーだと分かると、当たり前のようにラーソルバールの隣に座る。

 グランザーの持ってきた情報、その内容は「騎士団の演習場に、この地域には自生していない植物が観測された」というもの。

 詳しくは、演習場に現れたオーガの行動範囲に、常闇の森にしか自生していないはずの植物が芽を出していた、というものだった。

 ラーソルバールの予想した通りの結果で、「どこからやってきたのか」の疑問を払拭するには十分な証拠になった。


「本来ならここには部下が来る予定だったんだが、見知った私の方が良いだろうという事になってな……」

「あはは…、損な役回りになっちゃいましたね」

「ジョニア二星官には、綺麗な娘さんを見て目の保養でもしてくればいい、とからかわれたがな…」

 苦笑いするグランザー。

 頭を掻いたあと、言葉を続ける。

「この件に関して学校側にもある依頼をしているので、君達にも影響が出るかもしれない」

「依頼、ですか?」

「まあ、ざっくり言うと常闇の森の調査依頼だ。我が国の領土にも掛かっているが、あれはほぼ帝国領土内だ。騎士団が公に動くわけにも行かないのでな……。すまない……」

 そう言ってグランザーは申し訳無さそうに頭を下げる。

「はあ…。まあ、そこから先は学校側が決める事ですよね」

「そうなるな…」

「今からジタバタしたところで何も変わらぬという事だ」

 黙って聞いていたエラゼルが、そう言って笑った。


「それからもうひとつ。君達にだから言っておくが、あまり声を大きくして言えない話だ」

 グランザーの顔が一転して厳しいものに変わる。

「何ですか?」

「予想通りというか何と言うか…。フォンドラーク侯爵が取り調べの際に『今回の反乱はある魔法使いに唆されたのだ』と言ったそうだ。名前は恐らく偽名だろうから、正確には聞いていない」

「やはり背後には奴が居るのか」

 エラゼルが身を乗り出して、怒りに任せテーブルを叩く。

「門石もその男に渡されたらしいので、間違いないだろう」

「常闇の森と門石、反乱や破壊活動による国力低下。全て繋げると、ほぼ間違いなく帝国が裏で糸を引いている気がしてきますね……」

「ここまで綺麗に繋がると、さすがに知らないでは済ませられないな。帝国の動きが戦争準備に向かっているという噂も有るし、まあ十中八九そうなるだろう」

 グランザーが大きくため息をつく。

「実に嬉しくない見解だが、実際それしか考えられん。とは言え、我々が国防に口を挟む訳にもいかぬしな…」

 苛立つエラゼルの拳に手を添えると、ラーソルバールは友の顔を見て微笑む。

「私達が考えるような事は陛下や大臣方が気付かない訳がないよ。きっと対策は立ててくださる」

「そうだな…」

 エラゼルは納得したように小さく頷いた。

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