(四)終わりと始まりと③
フォンドラーク侯爵家の取り潰しと、侯爵自身の処刑。
国内に掲示された内容に、国民は驚いた。
反乱を起こしたとはいえ、侯爵自身が処刑されるとは誰もが予想していなかった。
国王の人柄もあり、禁固刑または、何処かへの幽閉という措置となるだろうと考えられていただけに、衝撃は大きかった。
侯爵の罪状には反乱を起こした事と併せ、不正や裏での犯罪行為なども記載されていた。
宰相暗殺後、国王を傀儡とし、自らが実権を握る算段だったと思わせる書類や、各貴族に送った脅迫まがいの書状なども押収された、という噂も伝わっている。
それぞれの罪の重さを考えての結果だったという事になる。
処分対象となった貴族は全部で十八名。
処刑はフォンドラーク侯爵のみで、他の貴族に対する処分は爵位の剥奪や降格、領地の縮小や没収、禁固刑などといった文字が並んだ。
中にはやはり、アルディスの実家であるフォンドラーク男爵家の名も有り、予想していた事とは言え、その記載を見たときにはラーソルバールは胸を締め付けられる想いだった。
他にもオーカス伯爵、エンガス子爵と見知った名もあり、こちらも取り潰しの上、禁固刑となっていた。自分と同年代の息子達はどうなったのだろうかと、ラーソルバールは少し気になった。
処分対象者の中には、現在も逃亡を続けている者も居るとの記載もある。誰が捕縛され、誰が逃亡中なのかという記載は無いが、時が経てば手配書も出ることだろう。
こうして、カレルロッサ動乱と名付けられた一連の事件は、反乱を起こした貴族達の処分をもって、一応の解決を見ることになる。
大衆の注目を集めた貴族の処分を記した掲示の脇に、ひっそりとジャハネートの子爵への陞爵と、ラーソルバールの準男爵への叙爵を伝えるものがあったが、予想通り大きく注目される事は無かった。
ちなみにラーソルバールの報の脇には小さく「但し翌年四月より」という文字が入っており、本人はそれを見て苦笑いしていた。
翌日、街がカレルロッサ動乱の処分の話題で持ち切りになっている頃、騎士学校では応急修理された大講堂で再度の卒業式が行われていた。
宰相も再び参加したため、今度は騎士団ひとつが警備につくなど、騎士学校の敷地内は物々しい雰囲気に包まれている。
生徒達は呆れつつ苦笑いしながらも、最後となる学校の光景を目に焼き付けていた。
そして式は最後まで無事に進み、誰もがほっと胸を撫で下ろす。
今度は立派に送辞の役を務めたエラゼルだったが、式が終わった後、色々と思うところがあったと感慨深げに語った。
卒業生代表が最後に、「亡くなった友と一緒に卒業したかった」と述べたが、学校側から「証書もあるのだし、ともに卒業だ」と訂正され、卒業生の誰もが笑顔を浮かべつつも、どこか寂しそうな顔をしていた。
ラーソルバールの騎士学校最初の一年は、大きな事件の終幕と共に終わりを告げた。
卒業生の背を見送るラーソルバールに向かって、勲章仲間達が手を振る。
先に騎士になるから、一年後待っているぞ、と。
寂しさを顔に出さず、ラーソルバールはそれに応える様に笑顔で手を振り返す。
「これから一年間、あの背中を追いかけないと……な」
いつの間にか隣に立っていたエラゼルも、同じように手を振って見送る。
「そうだね、もう一年も頑張らないと…」
「ハンカチいる?」
シェラが悪戯っぽく笑って見せる。
「泣いてないよ」
ラーソルバールは友に笑顔を向けた。
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