(四)終わりと始まりと②
二人を乗せた馬車は、昼過ぎに寮に戻ってきた。
緊張で空腹を忘れていたが、馬車から降りた途端にラーソルバールの腹が鳴り、朝から何も食べていない事に二人は気付いた。
「朝早かったからね。食べるのも忘れてたよ。学校があるのに化粧を手伝ってくれたシェラにも感謝しないとね……」
「そうだな」
普段は自分で化粧をするというエラゼルだが、国王の謁見という一大事を前に不安になったようで、シェラに最終確認をして貰っていたのだった。
「あとで菓子の差し入れでもしておくか」
「エラゼルは食べちゃ駄目だよ」
「な……」
からかわれたエラゼルは顔を赤くして、逃げるラーソルバールを追いかけた。
学校はまだ授業を行っているため寮は静かで、戻ってきた二人に気付く者はいない。
荷物を部屋に置くと、とりあえず食事をすると決めて、食堂へ行く。
寮の食堂は寮と同じように誰も居らず、料理人は暇そうにしていたが、腹をすかせた二人を見るとすぐに食事を作ってくれた。
人が居ない分、すぐに料理は出来上がり、暖かい料理を口にしてようやく二人はひと心地ついた。
「今更だけど、生きた心地がしなかったよ」
「そうか、ラーソルバールは初めて陛下にお会いしたのだったな」
エラゼルは笑ってシチューを口に運んだ。
「もうね、陛下と大臣全員がずらーっと並んだ光景、夢に出てきそうだよ」
「ふむ。また悪夢だといってうなされるでないぞ」
そう微笑みながら、優しい声で言われると、外見の美しさと相俟って誰でもエラゼルの虜になってしまいそうな気がする。
「ありがとう、エラゼル」
「ど、どうした、急に…」
ラーソルバールの言葉に、慌てて口ごもる。
「うん、本当にエラゼルには助けられてばっかりで、感謝してる。エラゼルが居なかったら、私は死んでるか潰れていたと思う」
「な…、何を言う、私を重圧から救ってくれたのはラーソルバールだ。礼を言わねばならぬのは此方の方だ」
二人は食事の手を止め、互いに微笑む。
「本当に、幼年学校の時には、こんな風に食事をしたり、一緒に居る事なんて想像もしてなかった」
「そうだな。つい半年ほど前でも同じだ。だが、私はきっとどこかで、こうやって一緒に話が出来たら良いと、思っていたのだろうという気がする。すまぬな、不器用者ゆえ」
ラーソルバールはうふふ、と笑い「うん、不器用だよね。私もだけどね」と付け加えた。
誰も居ない食堂で静かに語らう時間は、国王との謁見という大きな出来事の精神的疲労を癒す良い機会になった。
エラゼルに渡された勲章と褒賞金は、連絡を受けたデラネトゥス家の手によって、卒業式を前に里帰りしている対象者の各家庭に送り届けられた。受け取った者達の反応は一様に明るいものだったという。
また、ドラッセの両親は勲章を受け取るなり、「有難うございます」と言って泣き崩れ、そのまま使者が帰るまで言葉が出なかったと伝え聞いた。
そして再度の卒業式の前日、反乱貴族らの処分が発表された。
内容は、国内を騒然とさせるには十分なものだった。
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