(三)謁見①
(三)
朝、騎士学校寮の前に一台の馬車が現れた。
そこに刻まれた、龍を模った王家を示す紋章。
国王からの迎えの馬車である。
馬車での迎えがあると聞いていたラーソルバールとエラゼルの二人。だがその迎えが、まさか王家所有の馬車などとは思っていもいなかったので、大いに驚いた。
当然、寮にいる生徒達も、突然訪れた馬車に何事かと色めき立つが、王家の紋章が見えたと聞くと、皆畏れて黙ってしまった。
この日は一年生はまだ授業がある日だったが、二人は特別に公休という扱いになっている。
馬車が来る前、事情を知らない生徒達は、制服であるにも関わらず、美しい化粧をして髪をリボンで纏めた二人が、寮の前にただ立っているのを見て、何をしているのだろうかと疑問に思ったことだろう。
国王からの迎えを待たせるなど以ての外、出迎えるのが当たり前。
エラゼルが鼻息荒く力説したせいでもある。
普段から注目を集める事を苦手とするラーソルバールだったが、この日に限っては国王からの呼び出しという緊張から、他の事を気にしている余裕はなかった。
到着した馬車から使者が降りてきたので、二人は敬礼して迎える。
「エラゼル・オシ・デラネトゥス、そしてラーソルバール・ミルエルシで間違いないか?」
「はい」
使者の問いに、同時に答える。
「うむ、陛下の命により、両名を迎えに参った。速やかに馬車に乗るように」
二人が促されるままに馬車に乗り込むと、そこには見知った人物がいた。
「ウォルスター殿下!」
ラーソルバールが最も苦手とする人物だった。
「やあ、父上が二人を呼んだと聞いたので、無理を言って乗ってきたのだ。城では話も出来んだろうからな」
楽しそうに笑う姿に返す言葉も無い。
「ただでさえ緊張しているラーソルバールをわざわざ困らせにおいでですか?」
「そういう意図は無いんだがな。せっかく顔を見に来たのに酷い言われようだ」
「殿下は好奇心が服を着て歩いているようなお方ですから」
顔色ひとつ変えずに王子に対して皮肉を言うエラゼル。
「自覚はあるが、そこまではっきり言いきるのはエラゼルだけだ」
普通であれば処罰されてもおかしくない言動だが、王子は笑って済ます。
仲が良いのか、王子の器が大きいのか、どちらだろうか。ラーソルバールは苦笑いしつつ二人を見つめる。
「さあ、これで緊張も解れただろう、ラーソルバール」
「いや、待て、今のは俺をダシに使ったのか?」
エラゼルがニヤリと笑う。
「殿下、地が出ておられます」
「む……」
エラゼルの方が一枚も二枚も上手のようだった。
「私としましては、殿下が居られるだけで十分緊張するんですが……」
「一緒に踊った仲ではないか。そう硬くなるな」
「そう仰られましても…」
無理矢理引っ張り出されて、踊らされた記憶が甦る。ラーソルバールにしてみれば思い出したくない記憶だ。
エラゼルも誤魔化しては居るが、緊張が消えていないの様子を見れば分かる。先程の言葉も自身に向けた言葉なのかもしれない。
対して、王子は笑みを湛えて二人を見ている。腹が立つので少々やり込めてしまいたいが、ラーソルバールにはその手札が無い。
「そもそも殿下が無理を仰ったから、迎えが王家の馬車に化けたのではありませんか?」
なるほどと、エラゼルの言葉に納得する。
同時に、王子はばつが悪そうに視線を逸らす。
国王からの呼び出しとは言え、余りにも過ぎた迎えだと思っていたが、そういう理由が有ったのか。ラーソルバールは苦笑した。
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