(四)闇の門①
(四)
「ああ、鬱陶しい!」
魔法使いと思われる男は、連携する攻撃に怒りを爆発させた。
「ぐぁっ!」
「うっ!」
その怒りは魔力の波動となって、エラゼルとグランザーさんを弾き飛ばした。
「いつまでも調子に乗るなよ」
グランザーさんは近くの石造りの家に激突したが、鎧を着ていたのが幸いして軽傷で済んだようで、即座に剣を構えなおすことができた。
対照的に、エラゼルは弾き飛ばされた勢いで、私のすぐ目の前まで転がってきてしまった。受け身を取りながらだったので、大した怪我はしていない様子だが、途中で手放してしまった剣は、相手との中間の辺りに転がっている。
受けた衝撃が大きかったようで、エラゼルは立ち上がるのが遅れ、隙ができてしまった。
「死ね!
男は先程と同じく、予備詠唱無しで魔法を発動させた。
男が差し出した手から炎の槍が何本も発現し、無防備なエラゼルを狙って襲い掛かかる。慌てて私は大きく前へ飛び出してエラゼルの前に立つと、剣を振るい無我夢中で炎を薙ぎ払った。
魔力制御で身体の補助をしていても、体がきしみ、激痛が走る。元々、魔力制御がろくに出来ない私が、一朝一夕で完璧にできる訳がない。むしろ、正しくできているかさえも怪しいものだった。
それでも何とかエラゼルに襲い掛かった魔法を、全て消し去る事が出来た。
「お前は何なんだ! 何故、僕の魔法を消せる!」
「剣のおかげ、かな?」
私の剣は切れ味が凄いわけでも、強力な魔法がかけられているわけでもない。ただ、軽く丈夫に作られ、同じく軽く丈夫になるよう魔法がかけられている。そう、恐ろしく丈夫な剣で、少々魔法がぶつかったところで壊れるような代物ではない。
ただ、それだけでは魔法を消した理由にはならない。
「ふざけるな!」
私の答えに憤った男は、グランザーさんを目で牽制した後、私を睨みつける。
「エラゼル、魔法が来る。私から離れて」
背後で立ち上がるエラゼルに聞こえるように囁く。
「大丈夫だ。幸い、私はラーソルバールの陰だ。魔法が来れば、私が止める」
私は小さく頷いた。とはいえ、実際には私は先程動いた分で痛みが出ていて、それが消えていない。
少しだけ時間が欲しい。
「グランザーさん、エラゼルの剣を!」
「分かった」
グランザーさんはエラゼルの剣を拾いに走る。
同時に、男の魔力が高まるのを感じた。
「……大いなる力となりて……」
男が何か詠唱している。詠唱をするという事は、先程よりも規模の大きいものに違いない。制止するために動きたいが、体が動かない。
その時だった。
「
私の背後から、エラゼルが魔法を発動させた。相手の魔法に対する牽制を狙ったのだろう。
「がっ!」
光り輝く一本の矢が、避けそこなった男の右肩に直撃する。とっさに予備詠唱無しで発動させたため、威力も弱く大したダメージは与えられなかったようだが、相手の詠唱の中断には成功した。
出来た隙を突くように、グランザーさんがエラゼル剣を拾い、男に迫る。
(ここだ!)
大きく息を吸って、左足で地面を蹴る。私は男から見えないようグランザーさんが居る直線上に入り、距離を詰める。
その間に、グランザーさんが剣を振るい、男に小さな傷を負わせる。
グランザーさんが次の攻撃を仕掛けた時だった。
「邪魔をするな!」
男は左手に持っていた杖でグランザーさんの剣を止めた。そしてニヤリと笑う。
「消えな!」
男の右手が光り、グランザーさんに向けられる。
避ける事ができないと分かったグランザーさんは、身構えた。
「させないっ!」
私はグランザーさんの背後から飛び出し、腕を伸ばして剣を突き出した。
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