(四)闇の門②

「ぐあぁ!」

 剣は男の右肩を貫き、男は魔法の発動を止めた。

 そのままうめき声を上げてよろけたが、グランザーさんと距離を取るように地面を蹴って大きく後退する。

 追ってもう一撃入れたいが、体が言う事を聞かない。グランザーさんも、身構えていた分だけ動きが遅れた。

「屈辱だ」

 苦渋に満ちた顔でそうつぶやくと、男は怪我をした右腕で、服から何かを取り出して放り投げた。それは黒い石。

 三個がそれぞれ放物線を描き、小さく音を立てて地面に転がる。

「石?」

 そう思った瞬間に、石から黒い煙のようなものが噴出し、すぐさま闇の門を生み出した。その不気味に空間を歪める様子に、夜に見たものと全く同じだと即座に理解できた。

「またな。今度は貴様らを殺す……」

 男は右肩を押さえつつ短い言葉を残し、門のひとつに入って姿を消す。と、その門は男を隠すように閉じて消えた。

 だが、他の二つは残ったまま、暗い闇が口を開けている。

 今、怪物が出ても対処できない。

「……いて、いてててて……」

 目の前の敵が居なくなり魔力循環を緩めると、その瞬間に体中の痛みが増す。右足が痛い。背中が痛い。私はよろけて、片膝をついた。

「大丈夫か?」

 慌ててエラゼルが駆け寄ってきて、私の顔を伺う。


「エラゼルさん、だったかな。この剣はすごいな。私の剣は全て弾かれたというのに」

「それは切れ味と、魔法干渉を弱める力が付与されていますので」

 グランザーさんが剣を差し出すと、エラゼルは代わりに拾ってきたグランザーさんの剣を手渡した。

「便利な代物だな。騎士団の制式剣にも、そういうものを採用して欲しいものだ」

 そう言ってグランザーさんは苦笑いしたあと、私の顔を見る。

「さて、この門はどうやって消せる?」

 夜も門の対処に当たったのだろうか、グランザーさんの表情が硬い。

「夜のはどうやったんですか?」

「同時に駆けつけた魔法院の連中が処理してくれたんでな、我々騎士団はこの扱いは分からんのだよ」

 グランザーさんは私の問いに首を振った。

「それは困りましたねえ……」

「とりあえずは、出てくるものを叩くか、門をどうにかするかだが」

「下手に触ると危険な気がしますね」

 エラゼルの言葉に、私もグランザーさんも頷く。

「街中での攻撃魔法使用があったから、それを感知して魔法院の連中が駆けつけるだろうが、連中が門を消してくれる前に何か出てくるのだろうか……」

 肩をすくめて苦笑する。

「グランザーさん、私はもう動けないので、私の剣を使ってください。片刃で使いにくいかもしれませんが、折れる事は無いと思います。切れ味はエラゼルの物と比べるべくもないですが、使用者の魔力を通しやすいようです」

「使い方次第か。だが魔法を消すというのはそう簡単に……」

「何か出て来おったぞ」

 言葉を遮るように、エラゼルが警告する。呼応するように、グランザーさんの表情が厳しいものへと変わる。

 そして、エラゼルとグランザーさんは私の前に立ち、剣を構えた。

「またオーガか。能の無い」

 オーガが門から現れたのを見ると、エラゼルが侮蔑するように言い放つ。

「明らかに変なの出るより、いいんじゃない? これはこれで困るけどさ……」

 私が言い終わらないうちに、もう一つの門から得体の知れない腕が現れた。

「なに、あれ……?」

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