(二)ふたりの想い①

(二)


「さあさ、お楽しみの前に昼飯だよ!」

 ジャハネートが手を叩いて食事を要求した。それに合わせて、学校の食堂で作られた特別メニューが運ばれてくる。

 会場も、決勝戦前に昼食の時間となる。寮の食堂に戻る者も居れば、屋台の食べ物を購入する者もいる。

 賑わう会場には、生徒達の父母も混じっていた。

 わが子の試合を終えても、大会の雰囲気を楽しみに来ている者も多い。事前に申請して、許可が下りれば、一般人も会場に入る事ができる。但し、身分証明の提示など、かなり厳格な審査が行われるのが慣例となっており「狭き食道楽の門」と揶揄される事もある。

「今年は赤と白の対決ですか」

 にこやかに会場の様子を眺めていた軍務大臣のナスタークが、ようやく言葉を発した。

 管轄部署の大会であるだけに、必ず来賓として招かれているのだが、同室に居たジャハネートでさえ、その存在を忘れていた。

「赤と白とは何ですか?」

 サンドワーズが口を開いた。

 大臣が楽しそうにしている理由も良く分からず、気になったようだ。

「いや、ひとり言です。気にしないでください」

 そう言って大臣が笑ったので、サンドワーズは首を傾げるしかなかった。


「ラーソルバール……」

 ふらふらと、フォルテシアがやって来た。その姿を見て、ラーソルバールはほっとしたような顔をする。

「大丈夫?」

「まだ……ちょっと頭がくらくらする……」

「ちょっとここに座ってて。食べ物持ってくるから。エラゼルは?」

 ちらりと対戦相手を見やる。

「私はいい、気にするな!」

 予想通りの答えが返ってきた。

「ん。じゃあ、フォルテシアを見ていてあげて」

 ラーソルバールは小さな袋を手に、屋台へと駆け出していった。

(そういえば、アル兄やエフィ姉はどうなったのかな)

 二年生の会場は隣だが、フォルテシアも心配なので早く戻りたかった。

 狙っていた店が、偶然行列が途切れたところだったので、慌てて店に駆け寄ると、お目当ての商品を三つとお茶を注文した。


「貴女はラーソルバールが嫌いなのか?」

 フォルテシアらしくなく、自ら口を開いた。

「ん? 私に聞いているのか?」

「他に…誰もいない」

「……ふむ。答える義理は無いが……。好きとか嫌いとかいう話では無い。恩も有るしな。ただ、倒すべき相手、というだけだ」

 きまりが悪いのか、エラゼルは空を見上げた。

「倒したらどうする? 倒せなかったらどうする?」

「さあ……。その後考える」

「フフ……貴女は嘘をつくのが下手……」

 フォルテシアは笑った。接点の少ない相手に笑う姿など、シェラが居たらあまりの珍しさに驚いた事だろう。

「私は嘘などついておらぬ」

「じゃあ、自分に嘘をついてる?」

 フォルテシアは首を傾げた。

「自分に……?」

 エラゼルはそう言うと、口をつぐんだ。

 そこへ、ラーソルバールが腕に色々と抱えて戻ってきた。

「はい、フォルテシア、お茶とって。こぼさないようにね」

 そう言って椅子に置いたトレーの上から、コップを取って渡す。

「はい、エラゼルも」

「な……?」

 差し出されたコップに戸惑うエラゼル。

「私はいいと言った!」

「もう、三つ買っちゃったから文句言ってないで。毒なんか入ってないし」

 更に抵抗しようとするエラゼルに無理矢理渡す。ついでとばかりに、大きな葉に包まれた物体も渡す。

「食べたかったやつなの。付き合って」

 フォルテシアにも渡しつつ、自分も葉の包みを開く。中には、野菜と肉を挟んだパンが入っていた。

「いや、だから……」

「文句を言わない……」

 エラゼルの言葉を制して無理やり手渡すと、自身は大きな口を開けてパンにかぶりつく。しばらく咀嚼してから飲み込むと、ラーソルバールは笑顔を浮かべた。

「美味しい!」

 喜ぶラーソルバールの横で、フォルテシアは黙々と食べ続けている。

 その様子を見たエラゼルは、仕方なく自身も包みを開いて噛みついた。

「……!」

 パンを口の中に入れた次の瞬間には、エラゼルの目はキラキラと輝いていた。

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