(二)ふたりの想い②

 三人が軽食を食べ終わる頃、周囲にも人が戻り始めていた。

 二人の決勝戦は、もう少し後、二年生の準決勝が終わってからの予定となっている。

 アルディスと、エフィアナの事が気になっているので、隣の会場に行って観戦しても良いのだが、人ごみで戻ってくるのも大変そうなので、動く気になれない。

 一年生の決勝戦後に、二年生の決勝戦が行われる事になっているので、結果はその時になれば分かるだろうと思っている。


 食堂から戻ってきた生徒に混じっていたシェラが、フォルテシアを見つけ、凄い勢いで駆け寄ってきた。

「フォルテシア、大丈夫だった?」

 シェラも試合後に担架で運ばれるフォルテシアを見て、臨時救護室まで行こうとしたそうなのだが、人ごみが邪魔で動けなかったらしい。

 慌てて駆け寄るラーソルバールの姿を観覧席から見て、任せようと思ったとシェラは語った。

 そこまで話したところで、すぐ近くに座っているエラゼルに気付き、シェラは軽く頭を下げる。

 そして、フォルテシアの腕を軽く掴んだ。

「フォルテシア、戻るよ」

「あ、フォルテシアは安静にって言われてるから、無理させないでね」

 ラーソルバールは、フォルテシアを連れて行こうとするシェラに呼びかける。

 シェラはそれに頷くと、ふと何かを思い出したように止まった。

「あ、そうそう、アルディスさんもエフィアナさんも勝ち残ってるみたいだよ。えーとあと、マデ……なんとかさん、もうアルディスさんに負けちゃったみたいだよ」

 シェラの言葉を聞いて、ラーソルバールは安心したように笑顔を見せた。

「また、あとでね」

 シェラは手を振ると、フォルテシアと共に人ごみに消えていった。


「……思い出した。報告がある」

 シェラ達が居なくなって間もなく、二人になった気まずさもあるのだろうか、エラゼルが沈黙を破った。

「昨日、家の者に聞いたのだが、姉上を暗殺するよう指示した者が、捕縛されたのだそうだ。」

 誕生会の一件に関する話だった。イリアナの顔が頭に浮かんだ。

「良かったね、これでちょっとは安心できるね」

「うむ、一応な。これがどうも身勝手な恨みが原因らしくてな。相手はどこかの貴族の御曹司で、何処かの社交界で、姉上に一目惚れしたらしい。だが、見向きもされずに軽くあしらわれたと感じたので、殺そうと思ったというのだ」

 迷惑な話だ。とはいえ、犯人捜しは、どうやってその相手に辿り着いたのだろうか。

「姉上の所に送られてきた先方からの手紙が、何通か未開封で残っていてな。中に脅迫めいたものが有ったらしい」

 疑問に思ったところで、丁度エラゼルの口から聞くことができた。

「で、調べてみたら…ということか……」

「そういうことだ。でな、悪い話も有って、例の暗殺者どもの行方は掴めておらぬそうだ。捕まえた連中も口が固くてな」

「まあ、狙われるときは二人一緒だよ」

 ラーソルバールは意地悪く笑って見せる。

「致し方ない」

 エラゼルは大きく溜め息をついた。

 直後に隣の会場で大歓声が上がる。勝負がついたのだろうか。

「気になるのか?」

「まあね、兄と姉みたいな幼馴染二人が勝ち残っているらしいから」

 それを聞いてエラゼルは、ふんと鼻を鳴らした。

 このエラゼルの反応は何を意味するのか、良く分からない。ただ、ラーソルバールに向けられる態度には、以前のような刺々しさは無い事は分かる。

 それはエラゼルが変わったからなのか、自身が変わったからなのか、ラーソルバールには分からない。

 そんな事を考えながら エラゼルを見つめる。

「さて、馴れ合いもここまでだ」

 言葉と共に、エラゼルの顔から穏やかさが消えた。

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