(一)憧憬と屈辱③

「次はデラネトゥス家の娘か。あれもいいよねえ」

 ジャハネートは楽しそうに観戦している。

「とはいえ、名家のお嬢様を自部隊に加えるってのは、中々難しいな」

 どうしても、気位が高くて扱いにくいという先入観がつきまとう。

 ランドルフが渋い顔をする。

「確かにちっとばかし面倒だねえ。それにさっきの娘もそうだが、あの見た目じゃあ男共が大人しくしてられないわな」

「じゃ、うちで二人とも引きとるよ」

 シジャードがここぞとばかりに、口を挟む。

「なに言ってるんだい、あのラーソルバールって娘はうちが貰うんだよ。他所にはやんないよ」

「どのみち我々が決められる話じゃ無いがな」

 ジャハネートをからかって、してやったりのシジャード。

 賑やかな三人とは対照的にサンドワーズは腕を組んで黙って試合場を眺めていた。


「エラゼル、約束は守ったよ」

 ラーソルバールは笑顔を向けた。

「……そこに座って待っているといい」

 取り繕うように、抑揚なく答えるエラゼル。

 その横でガイザは苦笑していた。

「あのー、ラーソルバールさん? 俺は黙って負けてりゃいいんですかね?」

「んー頑張ってエラゼルに、冷や汗くらいはかかせてね」

「はいはい。期待してないわけね。せいぜい頑張って抵抗させてもらいますよ」

 そうは言ったものの、特段怒った様子もない。

 今までの試合を見て、エラゼルの強さを感じていたからだろう。

「さあ、いつでもどうぞ」

 剣を構えてエラゼルに向き合う。

 審判員が手を上げる。

「始め!」

 開始の声が響いた。


「真っ向勝負で行くぜ」

 剣を握り、エラゼルを見る。

「……望むところだ」

 エラゼルもガイザの意気に応じる。

 先手を取るため、ガイザは大きく踏み出し、剣の届くギリギリの距離から、素早く突きを放つ。

 若干、意表をつかれた形になったエラゼルだったが、半歩さがってこれを避ける、ガイザは勢いのまま、もう一歩踏み出すと、続けざまに連続で突きを放つ。

 だが、いずれもエラゼルには届かず、最後には剣で止められた。

「さすが……」

 ガイザは感嘆しながらも、手を止めない。

 もう一度大きく突き出す素振りを見せると、エラゼルが動いた。

 ガイザは即座に手首の角度を変えると、エラゼルが来るのを待っていたように横薙ぎを入れる。

 だが、エラゼルは刃部分に左手を添え、強烈な一撃を剣で止めてみせた。

「ちっ、ラーソルとやってるのと変わんねえな」

 止められた剣を押して弾くと、次の攻撃に移る。

 その瞬間だった。弾いたはずの剣が思いもよらぬ角度から襲いかかってきた。

「終いだ」

 下から脇腹を狙うように襲いかかる剣に、反応が遅れた。

「がっ……!」

 既のところで剣を受け止めたガイザだったが、大きくバランスを崩してしまった。なんとか踏み留まって体勢を立て直そうとしたが、エラゼルがそれを許すはずが無かった。

 真上から振り下ろされた剣が、ガイザの肩に襲い掛かった。必死に剣を出して止めようとしたが、間に合わない。

 直撃が来る。そう思った時だった。

 剣は寸止めされ、そして肩を軽く叩かれた。

 それを見届けた審判員は、勝者としてエラゼルの名を叫んだ。

「面白かったぞ」

 エラゼルの微笑が、ガイザの健闘を称えた。

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