(三)困った招待状②

「はぁ? 招待状?」

 ガイザは驚いて素頓狂な声を上げた。

「休日の朝っぱらから何を言ってるんだよ」

「いや、本当の話だってば……」

 あまりに突拍子もない話だけに、冗談に聞こえたのだろうか。

「多分、うちには来てないし、来ないと思うな。何でまたラーソルに……って、ああ、エラゼル嬢本人からの誘いか」

 ラーソルバールの困ったような顔を見て、思わず笑ってしまった。

「他に考えられないでしょ。ガイザの家は伯爵家だから、そういうの無しで招待状来るんじゃないの?」

「そんあ事あるかよ。デラネトゥス家といえば、招待客は厳選されるので有名なんだよ。伯爵家でも招待されるだけで名誉な事なんだ」

 ガイザの鼻息が荒い。

「でもエラゼル自身の友人枠と言っても、彼女は友人を作るような人じゃないんだけどなあ……」

 幼年学校時代と変わらない態度で他人と接する姿を見ていると、友人を作る気は無いのだろうとさえ思える。

「だから、お前なんだろ?」

「えー」

 ラーソルバールは半ば否定するように眉をしかめた。

「あからさまに嫌そうな顔するなよ」

「だって公爵家だよ。エラゼル本人がどうとかじゃなくて、私なんかが居たら場違いでしょ?」

「彼女だって建前上、友人が要るだろ。助けてやると思えばいいんじゃないのか?」

 他人事だと言わんばかりにガイザは気楽に言ってのける。

「余所の令嬢だったら取り巻き連中が居るんだし、別に男爵家の娘が『友人』として居たっておかしくないだろ」

 正論なだけに、ラーソルバールも言い返せない。

 自分は取巻きではないと言いたいところだが、問題はそこではない。


「行かないで済ませる方法、ある?」

「病気、怪我。それ例外は無いな。行かなきゃ失礼に当たるし、親にも迷惑がかかる。そういや親同伴とか書いてあったか?」

「本人のみで良いと……」

 行かずに済ませる方法が無いと聞き、ため息が出た。

 シェラと違って、ラーソルバールには他の貴族に関する知識も面識も無い。行ったところで、笑顔で挨拶して切り抜ける事しか出来ないだろう。

「いい経験だと思って行ってきな」

「薄情者め……!」

 愉快そうに笑うガイザに、恨み言をぶつけたところで事態は変わらない。

「ちょっとは参考になったよ。ありがとう」

 気落ちしながら部屋を出ると、自室に向かってとぼとぼと歩く。


 エラゼル自身を問い詰めることが出来れば楽なのだろうが、そうも行かない。

「仕方ない。父上の所へ報告に行こうか」

 一旦、寮の自室へ戻ると、支度を整えて自宅へ向かう事にした。

 天気は良いが、気分良くという訳にはいかない。重い足どりだったが、寮からさして時間もかからず家に到着した。

 合鍵で扉を開けると、中から話し声が聞こえてきた。

 父と女性の声だ。手伝いのマーサのものではない。父に良い人でもできたのだろうか、と思ったのだが。聞き覚えが有る声に心が躍る。

「エレノールさん!」

 急いで家の中へ駆け込むと、そこには予想した通りの声の主が居た。

「騒々しい。いい年した娘がはしたない」

「はーい、すみません」

 大して反省した様子も無く、客人に駆け寄る。

「ラーソルバールお嬢様。お久しぶりです。とは言え、こんなに早くお会いできるとは思っていませんでしたよ」

 フェスバルハ家のメイドは嬉しそうにラーソルバールを迎えた。

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