(二)誕生日②

 有力な貴族であれば、大々的に誕生祝いを行うが、そうでなければ家庭内か、知り合いのみで、ささやかに行うのが一般的である。

 ミルエルシ家は当然、大々的にやる予算も無ければ、そこまでやる意味もない。娘を宣伝する必要も、名家に嫁がせるつもりもないからだ。

 エラゼルのような公爵家の娘は、本人の意思とは関係なく、無理矢理にでも御披露目される事だろう。父の考えがそうでは無いことを感謝しつつ、ラーソルバールは友と歓談する時間を楽しむ。

「さて、十五才になった事だし、来年の国主催の新年会には出席しないとな」

「うぇ……」

 思わず変な声が出てしまった。

 来年の新年会への参加が、必須だという事を忘れていたのだ。これがラーソルバールにとっての、社交界デビューの舞台になるだろう。

「憂鬱だ……」

「そうだねえ」

 間もなく誕生日を迎える、シェラにとっても、それは同様だった。

 華やかなドレスに身を包んで、笑顔で愛想を振り撒く。下手をすればどこかの貴族に、息子と婚約しろと迫られる。良いイメージなど持っていない。

「まあ、想像しているものと大差ないな」

 今年の新年会に出席した、先輩であるアルディスが苦笑した。

「エフィ姉も出たの?」

「付き人としてね」

「ちゃんと着飾ってたから、まともに見えたのか、言い寄ってくる男共もいたぞ」

 エフィアナがアルディスの頬をつねる。

「ん? 何か?」

「な、なんぇもありまへん」

 本来であれば、使用人つまり平民であるエフィアナが、新年会に出席することはできない。

 付人として同伴させる、それが兄妹のように育ってきたエフィアナへの、フォンドラーク家の配慮なのだろう。親の立場としては「将来のうちの嫁です」という御披露目もという別の目的も有ったに違いない。そこは、本人たちも何となく察していたようだが。

 将来アルディスが尻に敷かれるだろうという事は、想像に難くない。

 いつもラーソルバールは、そう思って笑っている。

「偉い貴族でなくて良かった。誕生会だの新年会だの、色々な催しに引っ張り出されて面倒臭そうだし」

 面倒な事には関わりたくない。ラーソルバールの本音だった。

「そう言うなよ、下っ端には悲哀ってもんがある。しがらみだらけだぞ」

 本家に振り回されて苦労しているアルディスらしい言葉だった。

「貴族というのは面倒なものですね」

 珍しくフォルテシアが口を開いた。平民出身の騎士の娘である彼女には、縁の無い世界かもしれない。それは軍学者の家で育ったエミーナも同様だったようで、横でふんふんと頷き同意した。

「ガイザ君は気にしてないみたいだね」

「まあ、兄達のを見てますからね……。やりたくないとは思ってますよ」

「揃って華やかな場所が嫌いっていうのもな……」

 アルディスは自分の事を棚にあげて、他人事のように呆れてみせた。

「一番苦手なのは、多分こいつでしょ」

「ん?」

 不意に話を振られたが、一応本人にその自覚はあるらしい。

 ラーソルバールは食事の手を止めて、顔をあげる。

「そういう場所って、色々と面倒じゃない。何にも良いこと無いだろうし」

「言いたいことは分かるが、あまり大きな声で言うなよ……」

 余所で誰かに聞き咎められると、不都合が有りそうな内容だったため、ガイザが嗜める。

「場所はわきまえてます」

 悪戯っぽく笑う笑顔に、ガイザは動揺した。

 その様子を横目で見ていたシェラは、何も言わず微笑んだ。

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