(二)誕生日①

(二)


 八月二十四日。

 この日はラーソルバールの十五才の誕生日だった。

 四月に入学してから色々な事があった。ここ数年に比べて、明らかに多くの出来事を経験したが、自分はその分だけ成長できただろうか。ベッドに転がりながら、思い起こすように考える。その時、部屋の扉を叩く音がした。

「ラーソル、入っていい?」

 シェラの声だった。

「どうぞ」

 扉を開けて迎え入れようとするが、彼女はそこから動かず、ラーソルバールの腕を掴んだ。

「食堂へ行こう!」

 何やら分からず、シェラの誘いで部屋を出る。休日ということもあり、寮の人影はまばら。


 食堂で待っていたのはフォルテシアとエミーナ。そしてエフィアナと、アルディスが後ろに座っていた。

「誕生日おめでとう!」

 友人達は声を揃えて、ラーソルバールを迎える。

 昼食にはやや早い時間だったためか、生徒達の姿はほとんど無く、友たちの声が食堂に響いた。

 学生達が食堂で誕生日を祝うことは、珍しい事ではない。

 食べ物と飲み物の他に、依頼すれば料金は取られるが、祝いの菓子等も食堂では用意して貰える。皆が少しずつ出し合って、ラーソルバールを祝う準備をしていたのだった。

 騎士学校に入学してから、誕生日祝って貰えるなどとは思っていなかっただけに、驚きと嬉しさで一杯になった。

 それぞれが包みや箱を、ラーソルバールに手渡す。

「あ……、ありがとう……」

 ラーソルバールは驚いてテーブルに頭をぶつけそうになるほど、頭を下げた。

 その様子を見た皆から笑い声が漏れる。

「さあ、食べようか」

 アルディスに促されて、皆が食べ物に手をつけようとした時だった。

「遅くなってすまない、家の者が来ていて……」

 慌てたようにガイザがやって来た。額には汗が滲んでおり、余程急いで来たのだろうという事が分かる。

「やあ、ガイザ君、久しぶり」

 嬉しそうにアルディスが迎えた。女ばかりの集まりに、ようやく男が来てほっとしたという所だろうか。ガイザは照れ臭そうに頭を下げた。

 ガイザが座り、賑やかな会話が始まって間もなく、ラーソルバールの後ろに人影が現れた。

 気配に気付いたラーソルバールはゆっくりと振り返る。と、そこには見知った顔があった。

「エラゼル…?」

「む、こんな所で誕生祝いか」

 祝い菓子の存在には今気付いた様子だったが、偶然というにはあまりにも不自然な現れ方だった。

「丁度いい、会ったら渡そうと思っていた。先日の良い茶の礼だ」

 そう言うと、エラゼルは紙包みを差し出した。

「ありがとう、エラゼル」

 ラーソルバールが笑顔で受けとると、エラゼルは僅かに視線を逸らす。

「ふむ」

「エラゼルも一緒に食べようよ」

「……いや、私はいい」

 一瞬、何か戸惑うような表情を浮かべたが、誘いを断ると、エラゼルは配膳カウンターへと去っていった。

「不器用な人だね」

 去っていく背を見つめつつ、シェラが苦笑した。

「そうだね……」

 そう答えるラーソルバールの顔は、どこか嬉しそうだった。

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