取調室で女が口を開いた。

 保護された女は事情聴取にも協力的だ。通報を受けて現場を確認しに行くと、コンテナの中に一つの遺体と、その傍らで放心している女がいた。女はどうやら通報した本人だったようだった。

 女には当然殺人の疑いがかかったが、犯人の手記と凶器の指紋から、疑いはすぐに晴れた。女に戻った事情を聞いたが、これだけ手の込んだことを計画し、自分の命を危険に晒してまで殺人を犯すだろうかという点が気になり、疑いきれなかったこと、極限の状況下で特別な感情を抱きつつあったこと、置いて来た自分の行いに罪悪感を感じたことなどが理由ということだった。遺体を発見した際は、拘束したまま連れて来ていれば、自殺まではしなかったのではないかと後悔し、罪悪感のあまりへたり込んでしまったということだった。

 現場からは別人の指が9本見つかっている。指の持ち主はコンテナの裏で死んでいたが。直接的な死因は絞殺だった。遺体の状態は凄惨極まりなかった。口は太い糸で縫われ、指は左手の人差し指を除き切断、死因は絞殺とさぞかし苦しんで死んだことだろう。犯人の死因は失血死だった。首を切りつけたようだったが浅い傷も何箇所かあり、自殺の際のためらい傷と考えられた。遺体の状態はもう一つ気がかりなことはあったが・・・。

 現場にあった手記を女は読んでいないようだった。事件はほとんど解決したも同然であったが、手記の内容に相違が無いかは確認する必要があった。女に手記の確認を打診したところ、意外なほどあっさりと了解した。女はじっくりと、静かに手記を読んだ後、口を開いた。


「刑事さん。この手記は2つの嘘がありますわ。」


「2つの嘘?」


「はい。1つはルールはあと2つあったこと。そしてもう1つは手記の中でわたくしが言っていることに嘘があることですわ。」


「それは具体的にはどのような?」


「手紙は2枚ございまして、もう1枚の手紙に、④1番の質問には必ず嘘を含ませること。⑤ルール④と⑤を伝えないこと。という2つのルールが書いてありましたわ。2枚目だけは破り捨てるよう指示されておりましたので、破って川へ流しました。ルールに関しては彼も知っているはずですのに・・・不思議ですわ・・・。今となってはもう、彼に聞くことはできませんけれど・・・。そしてもう1つの嘘は、1番さんは目隠しはしておられなかったということですわ。彼は、目隠しではなくて、瞼を縫い付けられておりましたので・・・ルールの中に目隠しを取るなと書いてあったことは、当時のわたくしにとっては非常に助けられたルールでしたわ。不思議なことに、彼は痛みも全く感じておらず、何も気が付いていないようでしたわ。思い返すと、恐ろしい光景ですけれど・・・。」


 取調べが一通り終わると、女はニコヤカに微笑んで、家に護送されていった。極限状態から開放されて、清々しい気分だったようだ。その他わからないことだらけであったが、犯人と被害者を結びつけるような情報も、また他に犯人がいることを示唆する証拠も無かったことから、被疑者死亡ということでこの事件は送検することとなった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

嘘吐きが哂う間 QAZ @QAZ1122121

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ