最終章:フェニックス・ハリウッドエンディング
終前話『太陽の先で光る羽』・「大、好き」
『神とは天の領域に属する住人。
天とは太陽。
故に
だが大地に落ちた僕らはもう神ではない。
僕らの片眼は地球の青に染まった。キミが属する大地の色に。
『
故に隻眼。右側の青を塗り潰した。
ヤツは半死人。半分は死人で半分は神。
人間の肉体は物理的に傷つけられるが、アストラル体はアストラルでしか傷つけられない』
『肉体的なヤツの弱点は眼だ。
神の象徴、黄色の瞳がヤツには何より重要だから。
弱点を隠すためにも仮面を被っている。
だが肉体でさえも傷つけるのは容易じゃない。
魔術防壁。ヤツにはあらゆる攻撃を遮断する絶対防御のバリアがある。
しかもヤツは
それでも僕には切り札がある。キミにもその時がくれば必ずわかる。
水のように柔軟に感じて、
鉄のように強く考えろ』
マスクで場所は捕捉できてた。
彼女のスーツには羽衣が入ってる。
夜が近づいてる。
ここら一帯はルハラグループが所有してる工場みたいだ。
工場地帯なら夜間でもずっと明るい。
街中よりも戦うにはうってつけか。どうりでウォータンがここに呼ぶわけだ。
俺がくみしないのはバレてる。彼女もフェンリルにはならない。有利な内に片をつけるつもりか。
「プロメテウス、ナビを」
『了解です♪ 追尾開始。戦闘は行われてない模様』
まだ始まってない。
急いで道を進んだ。
「
どこだ、今いく。
黒いスーツも浮き上がって駆けた。
目の前なんメートルか先、二匹の犬がいる。
違う、狼。ゲリとフレキか。
妨害を? どうする。
戦うか、一気に抜けるか。
一気に抜ける。
賭けた。彼らなら見逃してくれるかもしれない。
二匹の間を走り抜ける。
襲ってこない。やっぱり、よかった。
ハッハッハッ、
ハッハッハッ、
なんだ。
走りながら息つぎが聞こえた。
俺じゃない。
右と左を見ると、
狼が走ってる。
並走してるのか。
なぜ。
『戦闘、始まりました!』
考えてる暇はない。
走る速度を上げた。
グングン走る。我ながら速い。しかも息が切れない。スーツの性能か。
ハッハッハッ、
ハッハッハッ、
まだついてくる。
なにがしたいんだ。
『ナオヤと仲良くなりたいのかも』
そうなのか。
だったら、
「助けてくれ! きみらの力を少しでも俺に!」
助力を頼んだつもりだった。
だが不思議な現象が起きた。
並走してる狼たちの体が金色になっていく。
粒子に、
川の流れみたいに、
流れが俺の脚に、
集まってくる。
『僕が名づけ親になる時がきたようだ!』
「セックか!」
『彼らは今この時より、
彼女がマスクの中で叫ぶと脚が金色のブーツに変わった。
『ブーツではない! 足甲、
スコルとハティ。
それがゲリとフレキの新たな名前。
ヒーロー名か!
途端に脚が軽い。
まるで風が舞うように駆けてる。
このまま走ってたら空でも飛べそうだ。
そう感じた時、前方で捉えた。
ヤツが宙に浮いてる姿を。
俺が近づくまでにも激しい攻防は続いていた。
灰色の仮面と白いウェットスーツで金の籠手姿のウォータン。
赤フードと赤マントにスカルマスクと白スーツ姿のヘラクレス。
色と手足が凄まじい速さで交錯していた。
でもホバリングで宙を舞うウォータンが有利に感じる。
しかも一撃一撃の衝撃と振動が凄まじい。空気を伝わってビリビリ肌に伝わる。
彼女はそんな攻撃をよくしのいでた。
ヤツの姿で前と違う点に気づいた。
そうか金のグリーヴがない。
俺が履いてるからか!
「ゲリッ! フレーキッ! 貴様ら狼はやはり馴れ合うかッ!」
空気が揺れる大声が飛んできた。
「ワタシを裏切り離れるか。いいだろうならば主人が死ねばまたワタシの元へ戻る!」
ヤツが来る!
同時に兎羽歌ちゃんが俺の存在に気づいた。
バレットになりながら急速に向かってくる。
『ナオヤ、』
セックこんな時に!
『ヤツは不完全だ。
『神は死んだ。キミはヤツを倒せると知れ!』
内側から燃えるように力が湧く。
これならよけられる。
ヤツの金の手がくる。
巨大に感じた。
当たればやられると。
だが当たらない!
一撃目はかわせた。
逆の手がくる。
動きを合わせられてる、
瞬間バレットが横殴りで突っ込んできた。
ウォータンがふき飛ぶ。
『直也、どうして!』
「こっちのセリフだ!」
ヤツが起き上がって次がくるとすぐ察知して彼女が賭けた。
パンチを見舞うために突っ込んでいく。
「ガンド」
ヤツがなにか言い放った。
聞こえたと同時、
金色がいくつか煌めくと彼女が逆方向へ吹き飛ばされた。
「神を呑み込みし獣よ。ワタシの世界でワタシに飲まれるがいい!」
ヤツの体からなにか出たように見えた。
それが彼女まで伸びてなにかを掴み、
『魂を先に動かし、魂を掴む』
アストラルからアストラルへの攻撃。
ダメだ!
「トワカッ!」
赤のマントが動いた。
防御するのか!
「フィンの一撃」
ヤツのかけ声で金の線が走った。
マントを抜け身動きできない彼女の胸を貫く。
魂の先で魂の形を攻撃できるなら、
肉体の不死身さは無関係だ。
白いスーツが仰向けに倒れて動かない。
「ワタシの完璧な社会にヒーローなど一人もいらない」
ヤツがくる。けど動けなかった。
胸が苦しくて張り裂けそうだ。
「人間はしょせん群れでしか生きられないのだ。群れが生きやすいのがワタシの社会。現実から一歩遅れて信仰心を追っていればいい」
反論どころか言葉もでない。
「信奉は自縄自縛でもあるが仕方ない。キミらがワタシを選び、ワタシがキミらを選んだんだ」
足音が近づく。俺をやる気か。
「小破局の再建を反復する積極的な盲目の徒よ。ワタシの大海で永遠に溺れるがいい。ワタシの社会でワタシの血を、金を飲め。地の底で平和に生きよ。死ぬ時まで!」
止まった。
「いや。田中直也。お前は違う。荒野にいる狼は街のルールに従わない。
性質がオレとは似て非なる。だからオレはお前に執着した。
「アンタは」
「立て田中直也」
「一ノ瀬誠ッ!」
仮面の眼部から目が見えた気がした。あの目。香水の匂いも。
金髪、長髪、顔形、年齢、印象、様々な要素が合致した。
けど俺の意識はもうヤツになかった。
向こう、彼女が倒れてる場所。
白いスーツの背中が開いて、
背中からサナギみたいに、
あれは――
狼から人が生まれてきた。
銀色の人間が。
白いスーツが出てきた人に移動すると、地面のヘラクレスの黒い体は霧みたいに粉々に散っていった。
歩いてくる。
近づいてくる。
銀色が近くに。
ヤツも気づいた。
ヤツが振り向く。
「私の、直也に、近づくな」
銀色が煌めくと、
白が視界の彼方へ吹き飛んだ。
*
「あなたは、私の、ヒーロー、だから――
――大、好き」
最大最強必殺技が、
ストンと優しく飛んできた。
再び体の内から熱さを感じる。
「じゃれ合うな貴様ら! 魔の力で話せていた者ごときが」
ヤツが宙に上がる。
「銀の貴様は何者だ。フェンリルではない。黒き狼でもない。一体なんだ?」
「私は」
彼女が顔を伏せた。
「貴様の名前は!」
顔を上げた。
「私は、
ゲイン。
俺はずっと呼んでたのか。
彼女の名前を。
ヒーローはすぐ近くにいた。
「人の言葉を捨ててまでその男が大事か。元の姿を捨ててまでそんな男を守りたいか」
ヤツが言うと彼女の口がマスクのような皮膚で覆われていく。
そんな、言葉を。
元の姿を。
捨てたのか。
彼女が弾けるみたいに動いた。
凄まじい速さでヤツに攻撃を見舞う。
ヤツも防御がやっと。いやバリアで防いでる。
しかも宙を飛べるんだ、彼女は攻撃の度に跳躍する。
「ガンド」
ヤツが両腕を開いて言った。
そうか指が。
籠手の指が離れて飛んでる。
黄金の指が宙を舞い四方から彼女に当たった。
彼女は防げてるが、
「フィンの一撃」
指が戻る。そして籠手が飛んだ。
腕ごと。
けど元の腕と籠手を繋げてるなにかが見える。いや匂いか。
彼女はよけてくれた。上回る速さが幸いしてる。
俺は超人同士の戦いを見ていた。
なにもできないのか。
俺はヒーローなのか。
そうかヒーローは。
やはりいない。
いないけどいるんだ。
目に見えないが存在してる。
人と人の間にあるもの。
それがヒーローなんだ。
人を繋ぐ絆の名前。
だから身近にある。
見えないからそれを見えるようにする。
ヤツは絆を断ち切る。違う。
絆を、人の間にあるものを利用する。
頂点に立つ自分のため、悪質にする。
だからだ。
ヒーローはそれを変える。
元の形に。
そうか。
やっとわかった。
「一ノ瀬誠ッ!」
二人が離れた。
「お前を倒す!」
「田中、直也ッ!」
いけ、
「ここからはヒーローの戦いだ」
そして、
「ヒーローはヒーローを守るッ!」
それが俺の答えだ。
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