最終章:フェニックス・ハリウッドエンディング

終前話『太陽の先で光る羽』・「大、好き」




『神とは天の領域に属する住人。

 天とは太陽。

 故にボクら神々の眼は太陽の黄色なんだ。

 だが大地に落ちた僕らはもう神ではない。

 僕らの片眼は地球の青に染まった。キミが属する大地の色に。

 黄と青の瞳オッドアイとなった僕らは太陽と地球の中間、月と灰色に属している』


焔の眼をせる者バーレイグは己を神だと信じてる。眼が青に染まるのも許さない。

 故に隻眼。右側の青を塗り潰した。

 ヤツは半死人。半分は死人で半分は神。

 人間の肉体は物理的に傷つけられるが、アストラル体はアストラルでしか傷つけられない』


『肉体的なヤツの弱点は眼だ。

 神の象徴、黄色の瞳がヤツには何より重要だから。

 弱点を隠すためにも仮面を被っている。

 だが肉体でさえも傷つけるのは容易じゃない。

 魔術防壁。ヤツにはあらゆる攻撃を遮断する絶対防御のバリアがある。

 しかもヤツは槍を持つ者ズヴィズル。ハイタカを思い出せ。必ず槍はある。心して気をつけるんだ。

 それでも僕には切り札がある。キミにもその時がくれば必ずわかる。

 水のように柔軟に感じて、

 鉄のように強く考えろ』




 マスクで場所は捕捉できてた。

 神内こうち区沿岸の工場地帯。


 彼女のスーツには羽衣が入ってる。

 セック細胞スプリットスプリットプロメテウスなら感知できる。それを彼女は気づかなかった。


 夜が近づいてる。

 ここら一帯はルハラグループが所有してる工場みたいだ。

 工場地帯なら夜間でもずっと明るい。

 街中よりも戦うにはうってつけか。どうりでウォータンがここに呼ぶわけだ。

 俺がくみしないのはバレてる。彼女もフェンリルにはならない。有利な内に片をつけるつもりか。


「プロメテウス、ナビを」


『了解です♪ 追尾開始。戦闘は行われてない模様』


 まだ始まってない。

 急いで道を進んだ。



 どこだ、今いく。

 黒いスーツも浮き上がって駆けた。


 目の前なんメートルか先、二匹の犬がいる。

 違う、狼。ゲリとフレキか。

 妨害を? どうする。

 戦うか、一気に抜けるか。


 一気に抜ける。


 賭けた。彼らなら見逃してくれるかもしれない。

 二匹の間を走り抜ける。

 襲ってこない。やっぱり、よかった。


 ハッハッハッ、

 ハッハッハッ、


 なんだ。

 走りながら息つぎが聞こえた。

 俺じゃない。

 右と左を見ると、

 狼が走ってる。

 並走してるのか。

 なぜ。


『戦闘、始まりました!』


 考えてる暇はない。

 走る速度を上げた。

 グングン走る。我ながら速い。しかも息が切れない。スーツの性能か。


 ハッハッハッ、

 ハッハッハッ、


 まだついてくる。

 なにがしたいんだ。


『ナオヤと仲良くなりたいのかも』


 そうなのか。

 だったら、


「助けてくれ! きみらの力を少しでも俺に!」


 助力を頼んだつもりだった。

 だが不思議な現象が起きた。

 並走してる狼たちの体が金色になっていく。

 粒子に、

 川の流れみたいに、

 流れが俺の脚に、

 集まってくる。


『僕が名づけ親になる時がきたようだ!』

「セックか!」


『彼らは今この時より、

 になる!』


 彼女がマスクの中で叫ぶと脚が金色のブーツに変わった。


『ブーツではない! 足甲、脛当てだグリーヴ!』


 スコルとハティ。

 それがゲリとフレキの新たな名前。


 ヒーロー名か!


 途端に脚が軽い。

 まるで風が舞うように駆けてる。

 このまま走ってたら空でも飛べそうだ。


 そう感じた時、前方で捉えた。

 ヤツが宙に浮いてる姿を。


 俺が近づくまでにも激しい攻防は続いていた。


 灰色の仮面と白いウェットスーツで金の籠手姿のウォータン。

 赤フードと赤マントにスカルマスクと白スーツ姿のヘラクレス。


 色と手足が凄まじい速さで交錯していた。

 でもホバリングで宙を舞うウォータンが有利に感じる。

 しかも一撃一撃の衝撃と振動が凄まじい。空気を伝わってビリビリ肌に伝わる。

 彼女はそんな攻撃をよくしのいでた。


 ヤツの姿で前と違う点に気づいた。

 そうか金のグリーヴがない。

 俺が履いてるからか!


「ゲリッ! フレーキッ! 貴様ら狼はやはり馴れ合うかッ!」


 空気が揺れる大声が飛んできた。


「ワタシを裏切り離れるか。いいだろうならば主人が死ねばまたワタシの元へ戻る!」


 ヤツが来る!


 同時に兎羽歌ちゃんが俺の存在に気づいた。

 バレットになりながら急速に向かってくる。


『ナオヤ、』


 セックこんな時に!


『ヤツは不完全だ。突く者フニカルは戦場で黄金の鎧を着る。それが籠手と足甲だけ。今ではガントレットのみ。やはり大気では弱まるアトモスフィア!』


『神は死んだ。キミはヤツを倒せると知れ!』


 内側から燃えるように力が湧く。

 これならよけられる。

 ヤツの金の手がくる。

 巨大に感じた。

 当たればやられると。

 だが当たらない!

 一撃目はかわせた。

 逆の手がくる。

 動きを合わせられてる、


 瞬間バレットが横殴りで突っ込んできた。

 ウォータンがふき飛ぶ。


『直也、どうして!』

「こっちのセリフだ!」


 ヤツが起き上がって次がくるとすぐ察知して彼女が賭けた。

 パンチを見舞うために突っ込んでいく。


「ガンド」


 ヤツがなにか言い放った。

 聞こえたと同時、

 金色がいくつか煌めくと彼女が逆方向へ吹き飛ばされた。


「神を呑み込みし獣よ。ワタシの世界でワタシに飲まれるがいい!」


 ヤツの体からなにか出たように見えた。

 それが彼女まで伸びてなにかを掴み、


『魂を先に動かし、魂を掴む』


 師匠セックの声と認識が合致した。

 アストラルからアストラルへの攻撃。

 ダメだ!


「トワカッ!」


 赤のマントが動いた。

 防御するのか!


「フィンの一撃」


 ヤツのかけ声で金の線が走った。

 マントを抜け身動きできない彼女の胸を貫く。


 魂の先で魂の形を攻撃できるなら、

 肉体の不死身さは無関係だ。


 白いスーツが仰向けに倒れて動かない。


「ワタシの完璧な社会にヒーローなど一人もいらない」


 ヤツがくる。けど動けなかった。

 胸が苦しくて張り裂けそうだ。


「人間はしょせん群れでしか生きられないのだ。群れが生きやすいのがワタシの社会。現実から一歩遅れて信仰心を追っていればいい」


 反論どころか言葉もでない。


「信奉は自縄自縛でもあるが仕方ない。キミらがワタシを選び、ワタシがキミらを選んだんだ」


 足音が近づく。俺をやる気か。


「小破局の再建を反復する積極的な盲目の徒よ。ワタシの大海で永遠に溺れるがいい。ワタシの社会でワタシの血を、金を飲め。地の底で平和に生きよ。死ぬ時まで!」


 止まった。


「いや。田中直也。お前は違う。荒野にいる狼は街のルールに従わない。

 性質がオレとは似て非なる。だからオレはお前に執着した。

語る者ババアとも契約したんだ。体をやる代わりにお前を処分させろと」

「アンタは」

「立て田中直也」

「一ノ瀬誠ッ!」


 仮面の眼部から目が見えた気がした。あの目。香水の匂いも。

 金髪、長髪、顔形、年齢、印象、様々な要素が合致した。


 けど俺の意識はもうヤツになかった。

 向こう、彼女が倒れてる場所。


 白いスーツの背中が開いて、


 背中からサナギみたいに、


 あれは――




 狼から人が生まれてきた。




 銀色の人間が。




 白いスーツが出てきた人に移動すると、地面のヘラクレスの黒い体は霧みたいに粉々に散っていった。


 歩いてくる。


 近づいてくる。


 銀色が近くに。


 ヤツも気づいた。


 ヤツが振り向く。


「私の、直也に、近づくな」


 銀色が煌めくと、


 白が視界の彼方へ吹き飛んだ。



  *



「あなたは、私の、ヒーロー、だから――


 ――大、好き」


 最大最強必殺技が、

 ストンと優しく飛んできた。





 再び体の内から熱さを感じる。




「じゃれ合うな貴様ら! 魔の力で話せていた者ごときが」


 ヤツが宙に上がる。


「銀の貴様は何者だ。フェンリルではない。黒き狼でもない。一体なんだ?」


「私は」


 彼女が顔を伏せた。


「貴様の名前は!」


 顔を上げた。




「私は、


 ゲイン。


 超人英雄スーパーヒーロー、ゲイン」




 俺はずっと呼んでたのか。


 彼女の名前を。


 ヒーローはすぐ近くにいた。




「人の言葉を捨ててまでその男が大事か。元の姿を捨ててまでそんな男を守りたいか」


 ヤツが言うと彼女の口がマスクのような皮膚で覆われていく。

 そんな、言葉を。

 元の姿を。


 捨てたのか。


 彼女が弾けるみたいに動いた。

 凄まじい速さでヤツに攻撃を見舞う。

 ヤツも防御がやっと。いやバリアで防いでる。

 しかも宙を飛べるんだ、彼女は攻撃の度に跳躍する。


「ガンド」


 ヤツが両腕を開いて言った。

 そうか指が。

 籠手の指が離れて飛んでる。

 黄金の指が宙を舞い四方から彼女に当たった。

 彼女は防げてるが、


「フィンの一撃」


 指が戻る。そして籠手が飛んだ。

 腕ごと。

 けど元の腕と籠手を繋げてるなにかが見える。いや匂いか。

 彼女はよけてくれた。上回る速さが幸いしてる。


 俺は超人同士の戦いを見ていた。

 なにもできないのか。


 俺はヒーローなのか。


 そうかヒーローは。

 やはりいない。

 いないけどいるんだ。

 目に見えないが存在してる。

 人と人の間にあるもの。

 それがヒーローなんだ。

 人を繋ぐ絆の名前。

 だから身近にある。

 見えないからそれを見えるようにする。


 ヤツは絆を断ち切る。違う。

 絆を、人の間にあるものを利用する。

 頂点に立つ自分のため、悪質にする。

 だからだ。

 ヒーローはそれを変える。

 元の形に。

 そうか。

 やっとわかった。


「一ノ瀬誠ッ!」


 二人が離れた。


「お前を倒す!」

「田中、直也ッ!」


 いけ、


「ここからはヒーローの戦いだ」




 そして、




「ヒーローはヒーローを守るッ!」




 それが俺の答えだ。

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