章末話『憧憬光景』・「私が悪党をやっつけたら」
河川敷で恥も外聞もなく叫んだんだからもう大丈夫だと思った。
兎羽歌ちゃんも普段の彼女に戻ったみたいだから安心したんだ。
けど大丈夫じゃなかった。
彼女も出勤日なのに姿を見ないから佐藤さんに聞いてみたら。
「大上さんやめたみたいで」
小山先輩に確認しても。
「まさか大上ちゃん急にやめちゃうとは思わなかったわ」
仕事人の兎羽歌ちゃんが急にスーパーをやめた。なにも言わずに。
おかしいし彼女らしくない。
しかも予告された俺の誕生日が近いからウォータンの影がちらついた。
あれからマスクを着けてないしセックにも会ってない。
彼女らしくないって。俺が兎羽歌ちゃんをどれだけ知ってる。
結局知らなかった。
ヘラクレスから彼女の姿になる時。魔法みたいな音がしてたのは気になってたのに、一度も見てなかった。
変態と思われてもいい、ちゃんと見てあげてれば。セックから聞くより先に俺が気づいてればもっとマシな言い方ができたかも。
後悔が刺さる。
会って話さないと。
色々探したがいなかった。フライヤもいない。妙な胸騒ぎがした。
電話をかけても電源が切られてる。
意を決して彼女の実家に初めてかけてみたが、親御さんが出て実家にいないのもわかった。
どこに。
探してない場所。
灯台下暗し。
ドアに鍵はかかってない。
部屋に入っても人の気配がないし二人はいない。
どこ行った。
胸騒ぎが強まった時、
パソコンが目に入った。
『日記もつけだしたよ』
悪いとわかってるが行方のヒントがあるかもと思うと止まらなかった。
パソコンの電源はここか。
つけて、日記は。
違うな。違う。
ああもうだから嫌だ。
これか。
開くと文章がズラっと出た。
日記というか走り書き。
ブログやつぶやきみたいな内容だった。
*
「今日から日記をつけます。
日記じゃなくてしばらく回顧録かな。
過去の分は思い出せることだけ当時の気持ちを考えながら」
「私があの人を初めて見たのはスーパー。店員とお客さんだった。
出勤する時すれ違った。不良たちをやっつけた時に見た人だった。
挙動不審で変な人。けど嫌いじゃない。見た目じゃなく。私見た目にこだわりない。
彼がスーパーに入ってきた。教育係だって。おかげで話せた。やっぱりパワーがある。後光?
変な人。けど凄い。ヒーロー。私の中でなにか感じた。
また不良をやっつけた。お話もした。正体がバレないように。けどケンカしちゃった。
ショーツ見られたかも。顔を背けてた。えっちな人じゃないんだ。
結局バレてて事実を話したかった。話すとわかり合えた気がした。あ、裸見られたかな」
「私の力を色々話した日。変身したあと体を触られた。恥ずかしくてくすぐったい。
スーツ。やっぱり凄い人。私のは恥ずかしかったけど嫌じゃない。大胆になれる気がした。今までと違う自分。
他人に初めて胸の話をしたな。しかも男の人。けど嫌じゃない。むしろ知ってほしかった。
友達になったフライヤの紹介でコスプレイベント。変な女の人を見て気分も変に。まさかあんな展開になるなんて。
変身して凄い戦いを経験。直也さん死んだかもと思って泣いちゃった。セックさんは悪い人じゃない。直也さんと会って私の人生が変わっていく」
「師匠ができた。凄い人。人なのかな。色々謎を感じる。胸と色気も。えっちっぽい。
三人で修行。訓練で直也さんに色々コーチしてもらった。筋肉を鍛えだしたのはこの頃。
腹筋見せちゃった。手を繋いでドキドキした。直也さんはどうだろ。でもお腹を見せるのが手より恥ずかしくないから変な感じ。
フラちゃんのライブ。彼女凄いアイドルだった。私詳しくないから恥ずかしい。直也さんと初デート。気合い入れちゃった。服気に入ってくれたかな。
一ノ瀬って人凄い嫌。人前で鬱の話をして腹が立つから彼女になった。最近私って恥ずかしい人。直也さんのせい。
あれから直也さんの様子が変。特に手錠の訓練。手錠も変だけど。心の具合悪いのかな。気を配らなきゃ。色々聞かれた。全部答えなきゃと思ったけど。あ、歌も。
昔話して泣いた。しかもトイレ。直也さんも泣いてた。感動した。私って偉そう。本当は凄く感謝してる。通じ合えてる感じ。
生活保護だったんだ。これも気を配らなきゃ。初めてのダンスは恥ずかしい。直也さんずっと私を見てた。それは恥ずかしくなくて嬉しかったから不思議。
フラちゃんの電話で様子がおかしい。匂いを辿ったら案の定。不良以来の悪者退治。車を潰したり建物が爆発したり映画みたい。直也さん凄かった」
「彼女が死んだと聞いてショックだった。けど直也さんが寝込んで頭が一杯。薄情かな。最近幻を見る。頭おかしくなってきたかな。
フラちゃん生きてた。よかった。師匠の秘密はショック。しかも告白? お酒の力を借りた。酔ったけど覚えてる。男の人に甘えた。
スーパーにフラちゃんが。教育係。彼女を気に入らない自分に自己嫌悪。直也さんもフラちゃんを好きなのかな。
佐藤さんに告白されたけど嬉しくない。多分頭の中に他の男の人がいるから。その人で一杯になっちゃうからだ。
変な二人組。人間じゃない。新スーツで戦ったのに初めて負けた。弱い自分が悔しい。直也さんが怒ったり心配してくれたのは嬉しい」
「初ラブホ。あんな感じなんだ。逃げ込んだだけだと思うけど、直也さんもやっぱり男の人だ。それなりに覚悟した。
なにもなかった。複雑。けど楽しい。抱きつかれて温かかった。彼と幻を見れたのは収穫。
二人組と再戦。今度は師匠も。緊張して彼に励まされた。やっぱり私はそうなんだ。敵は強かった。ずっと感じてたけど変身した私の戦いは獣みたいに直感派。
直也さんが色々言われてた。気になる。仮面の外国人。何者だろう。普通の人間じゃないよね」
「フラちゃんとルームシェア。日記をつけだす。これから正式に日記かな。
引っ越しを手伝ってもらって色々お話できた。フラちゃんが彼とデートしたって。
胸が苦しくなったけど気になる。ツイストか。今度私も直也さんとやりたい。
穴を開けたのは師匠みたいだけど、直也さんって結構覗き魔。けど可愛い。嘘はバレバレだったし」
「三度目の戦いは不安だったけどチームウルフだから頑張れた。撃退できてよかった。
仮面の外国人がまた現れた。二人組が慕ってた人かな。直也さんが言ってた二匹の犬。違う、狼。あの人が主人なんだと思う。
黄色の籠手と足の鎧。怪物みたいに感じる。魔術なら魔術師。悪の匂いも感じた。
兄妹の最後の攻撃で街の電気が消えて大事件に。電子機器を壊す電磁波だったみたい。スーパーも通常に戻るまで何日かかかって大騒ぎだった」
「仕事中に悪の匂いを感じた。直也さんの匂いも。屋上に行ったら金髪の外国人がいた。
仮面と同じ人物で、しかも凄い強敵だった。けど直也と一緒なら自分がどんどん強くなる。新しい技も閃く。
やっぱり彼と共鳴してるんだ。ずっとそうだった。深く結ばれてる。
今まで誰かの感情を感じとれると思ってたけど違ってた。彼の感情だからわかるんだ。繋がってる彼の匂いを」
「敵はスーパーの社長だった。だけど見つからない。恐ろしい存在なんだ。彼と一緒に立ち向かっていこう」
「凄くショックを受けた。気持ちが沈んで今日は書けない」
「本当の自分を知って憂鬱だった。だけど嬉しさもあったんだ。
受け入れてもらえたから。
半分告白みたいで可笑しかったな。
私やっぱり好きだったんだ。高野くんの顔を見ても感じなかったぐらい。いつからだろ。最初みたいにまたバレてたね。
叱ってもらえたら嬉しいって話は信じてなかったけど本当だった。
けどそれは私が彼を信じてるから。好きだから。
信頼してくれて、二人が繋がってるからなんだ」
「社長から連絡がきた。平和的に話したいと言われて会った。直也、師匠やフラちゃん、自分、色々話して考えた。結局酷い言葉もあって、日時と場所を教えられた。決断しなきゃいけない」
「スーパーはやめた。あの社長にも前にクビって言われたし未練はない。急だから迷惑かけたかもしれないけど最後ぐらいいいよね。これから社長とも会うんだから」
「一年前の春の出会いが私を変えてくれた。一年間で直也と一杯話せて良かった。
私の人生が自分の肌の先で鮮やかに変わっていくのを感じてた。
スーパーもやめたから今日は私じゃないみたい。別の私がいるのかな。
全部直也と出会えたから。彼のおかげなんだ。これからもずっと一緒にいてほしかった。
けど決めた。直也と接点を失うかもしれないけど、いい。
今の私にしかできないから。
直也を死なせられない。私は直也を失えない。距離をとらないと。
もし彼がいなくなったら。私もいないのと同じなんだ。
私だけでいく。
横暴な社長が直也を汚すのも許せない。
私が社長を、悪党をやっつける。辞表も叩きつけてやるから。
私がヒーローになるんだ。私がなれたら彼も偉大な人になる。
彼が求めるヒーローに私がなる。
私が悪党をやっつけたら、
きっと彼もヒーローになれる。
直也の夢は私が叶える。
彼が私をヒーローにしてくれたから。
私も直也をヒーローにするんだ」
『覗き魔さんへ。
あなたの性格だからきっと私の日記も読んじゃうかなと思ってます。
フラちゃんに頼んで鍵も閉めないまま向かいます。
日記を読んでも落ち込まないで。あなたは悪くない。悪いのは一ノ瀬誠や社長みたいな悪党。
勝ったらちゃんと帰ってきます。
その時は。
きっと。
ちゃんと告白します。
私に告白させてください。
日記を覗いた罰としてチームウルフは解散。
だから待っててね』
*
「バカっ、バカ野郎ッ! バカか!」
部屋を飛び出た。
今から全力で行動しなきゃいけない。
「なんでだッ」
自分の部屋で装備とマスクを――
掴んだら心が爆発しそうでまた飛び出した。
どこにいる。
間に合うのか。
何時に会う。
マスクを被れ。
『プロメテウスを起動。セックと通信します。
――待ってたぞ。中断したままだったまだ話せてない情報がある。
ナオヤ君が知りたいヤツの情報をこれから話す』
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